※第4廻「濃霧の部屋」

りなは、ずっと、隠れながら輪廻達を尾行していた。

彼らはりなの家の隣の家、女の子の家の前で止まると、少しお互い話していたようだが。

物陰から、りなが見ていると、輪廻達は家の前でふっと消える。

「氷雨さん達が消えた?夢でもみてるの」


りなは、自分の頬をつねってみた。頬に痛みが走る。

「夢じゃない…氷雨さん達は、一体何者なの?」

そのうち、家の中から叫び声が聴こえて来た。

りなは、驚いて窓の外からそっと、中を覗いてみた。


すると、部屋の中が濃霧に包まれていて中が見えないようになっていた。

「なにこれ…家の中に霧が。」

りなは、目を凝らしてみてみた。すると、霧が晴れて中の様子が見えて来た。

女の子の母親と傍らで眠る女の子の姿が見え、そして輪廻、椿、大和の姿が見えた。



「お前達は、誰だ!警察を呼ぶよ。どっから入って来たんだっ。」

母親が叫んでいる。

「呼べる物なら呼んで見ろ…。貴様が捕まるだけだがな。」


輪廻が冷たい眼で睨みながら、低くささやく。

その時、りなの背後に椿が現れた。

椿は、りなの首の根本をトンと叩く。すると、りなは一瞬にして気絶してしまった。


「ごめんなさいね、小鳥遊さん。見せるわけには、いかないのよ。貴女には刺激が強すぎるもの。」

がくりとくずおれる、りなを受け止める。椿。

椿は、りなを連れてふっと、その場から消えた。


りなを椿に任せて、輪廻の裁きが始まる。

そこに、母親の再婚相手が運悪く帰って来た。


「なんだ、てめぇ!勝手に俺んちに!」

「あなたぁ、助けてよ!」



母親が、男にすがる。うるさいとばかりに彼女を蹴る男。

「――ふっ……わざわざ、行く手間が省けた…。さあ、始めようか?貴様らの裁きを。」

輪廻は、不敵に笑って片手を前に突き出した。



因果応報いんがおうほうと言う言葉を知っているか?貴様達は、その子に痛み、苦しみ、嘆きを与え続けて来たもろもろの罪を裁かれよ。貴様らには、死後、死すよりも、辛い永久とわの地獄が待っている。極寒の炎で震えてけ!」

「ギャアアッッ!!!」


母親と男は、極寒地獄の炎で焼かれた。

「まだ終わらねえぜえ!」

大和が金棒で、殴り飛ばす。粉砕される罪人達。

それを繰り返される、それが罪人に対する。地獄の裁きだ。


輪廻は、鈴を鳴らし始めた。

「一つ積んでは父の為、二つ積んでは母の為…貴様達は、娘の親を想う心を踏みにじり続けた。そして、その命までも、軽んじて脅かした。よって、地獄流しの刑とする!」

男は、ブルブルと震えて泣いて、輪廻にすがった。


「どっ、どうかお願いです!俺は、この女に騙されていただけなんだ。地獄に落とすなら、この女だけに。これからは、娘にも優しくしますから!」

男から、どす黒い悪意と殺意が流れて来る。


「俺に、嘘が吐けるとでも、思っているのか?このゲス野郎」

輪廻は、憤怒の表情を浮かべて、語気鋭く言い放った。

「仏の顔も三度まで、とっくに三度は過ぎている。地獄に流れろ。罪人ども!――地獄の釜の蓋は開かれた」

「ギャアアーーー!!!」

地獄への大穴が二人の足元に突如、開き母親と男は叫びながら落ちて行った。




「今回は、人間の法に任せず、地獄流しをされたんっすね」

大和は、すやすやと眠る。女の子を抱きながら切なげに見て、主に問う。


「若…。この子はどうするので?」

「あの二人の記憶を消し、俺の知り合いの相談所に任せる。」

「この子には、どんな親でも親だったらしい…。しかし、命には代えられない。このままあの親がいたら、この子は」

「そうっすか…そうっすよね」

大和は、女の子を見つめて、ほっと胸をなでおろしながらも、辛そうな顔をした。


「りなちゃんの事は…?」

不安そうに輪廻に聞く。

「それは、俺が彼女に話す。それに、見られないはずの霧の中の様子を見られたのがどうにも、気になってな。大丈夫だ。今の所は、記憶を消さないよ。」

「そうっすか…!」



りなの記憶を、消されると思っていた大和は、ほっとする。

輪廻と大和は、女の子の家を後にした。

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