7.お仕事開始
朝食をゆっくりと食べた後は買い物に出かけた。まずは魔物討伐をするクレハの武器を買いに行く。武器屋を探して中に入ると色んな武器が店内に飾られていた。
確認してみたけれど、どれも高価なもので手が出せない。でも、部屋の片隅に置かれた箱を見てみると、見習い作品と中古品の文字が書かれていたのを見つける。これだ! そう思って値段を調べると、自分たちでも買えるくらいの値段だった。
その中から、一番できが良さそうなショートソードを選び、鞘とベルトもつけて購入した。所持金の半分以上減ったので、痛い出費だ。でも、これから働くんだから、必要経費だよね。
武器屋を出た後は雑貨屋に行った。雑貨屋では人数分の私とクレハの背負い袋、人数分の財布になる袋、毛布を三つ購入した。所持金は殆どなくなってしまう。
その残った所持金で事前に昼食を買うと、もう何も買えないくらいお金がなくなってしまった。これはもう、今日頑張って働かないと生きていけなくなる。再度、やる気を漲らせた。
次にやったことは二人の指導だ。イリスにはセールストーク、値段の設定、立ち振る舞い方を教えた。人からお金を貰うんだから、この辺はしっかりとしないといけないと思う。
クレハには一度冒険者ギルドに行き、資料室を使って近辺で生息する魔物を教えた。初心者向けの魔物、生息地、弱点、お金になる素材を教えた。
討伐対象だけじゃ不安だったから、初心者の剣の扱い方という本を見つけたので、クレハに読んで聞かせた。剣の握り方、立ち方、振り方、防御の仕方、様々なことを教えた。一気に沢山のことを教えたので、クレハはちょっと混乱していたみたいだ。
私は周辺に生えている素材のことを調べるだけで終わった。行こうと思っている場所にはそんなに種類はないし、金額も高くないものばかりだ。私の場合は数の勝負になりそうだ。
そんなこんなで、仕事前の準備は午前中までかかってしまった。買い置きしていた昼食を食べ、いよいよ三人が別れる時がくる。
「じゃあ、二人とも。私がいったことは忘れないようにね」
「分かったぜ!」
「分かりました」
二人に確認すると元気よく答えてくれた。あとはそれぞれの頑張りにかかっている。
「もうお金が無くなったから、今日稼がないと物を買えなくなる。でも、安心して。まだお肉は残っているし、食べるものは数日分は残っている。無理する必要はないけれど、できるかぎり頑張って欲しいの」
「ウチは始めての魔物討伐だから上手く行くかは分からない。けれど、やらなきゃいけないって思うと、力が湧いてくるんだ。だから、ウチ……頑張ってくるよ!」
「私も、色んな人に話しかけないといけないのがとても緊張するのですが、そうしないとお金は稼げません。だから、沢山の人に話しかけて、治療のきっかけを作ろうと思います」
クレハは両手を握ってやる気十分、イリスは両手を組んで決意をあらわにした。うん、二人とも大丈夫そうだ。
「それじゃ、みんなで頑張ろう!」
「おう!」
「はい!」
お仕事が始まった。
◇
「さて、ここが私の職場か」
私は町を出て、街道を少し歩いた平原までやってきた。ここの平原はいる魔物はランクの低い魔物ばかりで、簡単に逃げることができる。初心者が採取をするにはうってつけの場所だ。
普通に素材を探すと時間がかかって、きっと思うように稼げないと思う。だけど、私には鑑定のスキルが使えるから、これを使わない手はない。
召使いの時は鑑定の使い道なんてなかった。だから、全く鍛えていないからレベルは一のまま。一生、奴隷のような召使いだと思っていたから、向上心を失っていたせいだ。
でも、自由になった今だったらこの鑑定を使って活用することができる。異世界転生してからろくな生き方をしてこなかったけど、これからは違う。どんなこともできる。
私の人生はここから始まるといってもいい。遅いスタートになったけれど、これからは自由に平穏に生きていこう。そのために、今日の素材採取は成功させなければならない。
「二人のためにも、沢山素材を採取しよう」
やる気を漲らせた。平原に向けて手をかざすと、早速力を発揮する。
「鑑定!」
辺り一帯を鑑定した。すると、とてつもない情報が頭の中に流れ込んでくる。
アイテム名:雑草。アイテム名:雑草。アイテム名:雑草。アイテム名:雑草。アイテム名:雑草。アイテム名:雑草。アイテム名:雑草。アイテム名:雑草。アイテム名:雑草……
「うわっ、本当に出てきたよ」
範囲を指定して鑑定をしてみると、範囲にあるもの全てが検索に引っかかった。一つずつ情報を精査していく……うん、この一角には雑草しか生えていないらしい。
スキルの解除すると、鑑定結果がフッと頭の中から消えた。
「ふぅ、とりあえず検証は成功かな。でも、結果は雑草ばかりだったから、成果はゼロ」
この一回の鑑定にかかる負荷は少なかった、というより情報が一度に押し寄せてくる負荷くらいなものだ。マジックポイントとかは消費しないで使える鑑定らしい。というか、スキルだからマジックポイントとかは必要ないのかな?
とにかく、このやり方で素材を見つけていく。そうすれば、普通に見つけるよりも早く採取できるからだ。いちいち、草をかき分けて探す方法が時間かかり過ぎなんだよね。
今度は別の範囲に手をかざして、鑑定を発動させる。
「鑑定!」
すると、再び凄い量の情報が頭の中に入ってきた。圧倒されてしまうが、負けじと情報を一つずつ精査していく。えーっと、雑草、雑草、雑草……
「あっ!」
一つだけ違う情報があった。すぐにその情報が出ている場所に向かって、しゃがみ込む。そして、邪魔な雑草をかき分けると、他とは違う草が生えていた。
アイテム名:ヒビ草
「あった、図鑑にも載っていた薬草だ!」
冒険者ギルドの資料室で見た薬草を発見することができた。確か適した採取方法は根を掘り起こして、根が付いたまま保存する、だったよね。
ヒビ草の周りを手で掘り返し、優しくヒビ草を抜く。スポッと地面から抜けたヒビ草。
「やった、一つ目の素材ゲット!」
抜いたヒビ草は背負い袋の中に入れて、これで百五十エルだ。小さい金額だけれど、塵積精神でどんどん見つけていこう。
それにしても鑑定したのに、情報量が少ないのはレベルが低いからかな? こんなことなら、召使いの時に鑑定レベルを上げておくんだったな。そしたら、他にもいい情報が見れたかもしれない。
まぁ、今そんなこといっても無駄だよね。とにかく、数を集めなくちゃいけないんだから頑張らなきゃ。この一帯の素材を根こそぎ採る勢いでどんどん見つけていこう。
立ち上がった私は少し移動をして、再び手をかざして鑑定をする。途端にものすごい量の情報が頭に流れ込んできて、圧倒された。
「えーっと、素材……素材はっと。ここにはなさそうだね」
鑑定の力を切ると頭の中にあった情報がフッと消えた。少し移動をして、また鑑定の力を使う。また物凄い雑草の情報量に押しつぶされそうになりながらも、素材を探していく。
アイテム名:ワージ草
「あった!」
情報が出た場所に向かい、しゃがむ。草をかき分けると、そこにはヒビ草とは違う形の草が生えていた。
「よしよし、いい調子」
ヒビ草と同じく手で掘り起こして、丁寧に根から引っこ抜いた。背負い袋に入れて立ち上がると、移動をして手をかざした。
「どんどん、素材を見つけていくよ。鑑定!」
今日は半日しかないから、ガンガンやっていくよ!
◇
「あ、日が傾きそう」
ふと、見上げた空を見て日が傾いていっている。そろそろ切り上げないと、暗くなっちゃう。私は最後の素材を手で掘り起こして抜いた。
「ふふふ、こんなに素材を採取できるなんて」
背負い袋を下ろして中を開けると、一杯に入った素材の山が見える。鑑定のお陰で探す手間が省けた分、こんなに採取することができた。ちょっと頭が重くてフラフラするけれど、それでも凄い成果だ。
「よし、町に戻ろう。どれくらいお金が稼げたのか楽しみ」
軽い足取りで私は町に戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます