第40話 家の闇討ち内々に討ちに行く。私はなにもしてないからね?



「来たね」

「おぉっと、乱入者!いや、襲撃者だぁっ!」


 空気読んでくれてありがと、こう。けど、それはそれでちょっと……。


 ・

『なんだろう、襲撃されたのにこの落ち着きよう』

『問題ないってことなのか?』

『そら、なんの対策もなしにやってはこれないだろ』

『それはともかく、こうなるかな~って思ってたってことかよ』

『なんかこの配信自体がこの時のためのものみたいで怖い』

『いや、少なくともここに世間全てに影響を及ぼすような三人がいるんだぞ?』

『どこの誰かわからないけど御愁傷様』

『クスリちゃんがいたのはそういうことだったのか』

『先回りして対策取ってるの偉い』

 ・


 まぁこうなるってわかってたとは言わない。

 ただ前に言った通り、私の嫌な予感は外れたことがないってだけだ。

 外れたことがないなら、それを調べて対策を取るのも迷わず実行できる。

 前例って大事だよね。


「とりあえず、九重に連絡して、向かってもらうか」

「霧ちゃん、自重して偉い」

「いや、今の私が行けば確実に相手をやっちまう。それはちょっとNGだな」


 話とか聞きたいし、証拠になりそうだし。


 プルル


 話をすれば、九重だな。


「もしもし?」

『あっ、ヨイヤミさん。今から行こうと思うのだがその前に判断を仰ごうと思ってな』

「じゃあ、クスリの方は大丈夫。同じく紺金ちゃんたちの方はまだ大丈夫だと思うわ。だから九重には優先してその他潜伏してる奴を捕まえて」

『了解したのだ』


 プツン


「よし、九重は大丈夫ね。あとは、ここからできることをするくらいかしら」

「えっ?」

「ここからって……おい、まさか」

「違うわよ?」


 何を想像したのかしら?

 ここからあのダンジョン内に向けてどうこうするわけないじゃない。


「私が今からやるのは証拠集めよ」


 ・

『すげ~仕事モードの社長って初めて見たかも』

『的確だったね。それにクスリちゃんや紺金ちゃんたちへの信頼厚いね』

『というか、九重ちゃん、そういうことをするってことは……』

『何の迷いも疑問もなく二つ返事でやる内容ではないよな』

『ヤバいな、想像以上にSumaという会社がヤベェよ』

『何かここからダンジョン内へ干渉できる手段があるそうです』

『一宮 桜、こうしろうが反応したってことは、あるってことだよなぁ』

『証拠集め?』

『これの犯人に対して仕掛けるってことか』

『確かにそれなら、ここからでもできる、のか?』

 ・


「『ハッキング』『ビジョンアイ』」


 無数に飛び交うデータ、通信、信号。

 そのなかから必要な、目的の会話を盗み聞き、またはデータを盗み見る魔法、ハッキング。


 そして世界に存在するあらゆる俯瞰視点に干渉しその視点から見ることができるビジョンアイ。


 その二つを使い、予め当たりをつけていたそれへ干渉する。


「よし、見えた」

「こっちにも見せてくんねぇかなぁ」

「えぇ?まぁ良いけど」


 プロジェクターにでも撮すようにハッキング、ビジョンアイから得られる情報を映し出す。


 そこには二人の男と、スクリーン越しに指示を出す男が映っていた。


『そろそろですかねぇ』

『はい、間も無く差し向けた奴らが襲撃を行うはずです』

『実力は大丈夫なんですか?ランク5のクスリが同行しているらしいじゃないですか』

『問題ありません。そのために同じくランク5相当の暗殺職を向かわせました』


「へぇ~」

「やっぱり黒鷲主導か」

「ま、装備とか罠を仕掛けなかった辺りよほどその襲撃者ってのが強いんだろうねぇ」


 こうの言う通りか、たんに失敗したときのリスクを考えて日和ったかのどちらかだろう。


「というか、ランク5相当の暗殺職って簡単に使えるもんか?」


 それに関しては多分、外部から雇ったんじゃないかな?

 その辺は判断材料がないからなんとも言えないけど、自分のところのだろうが他所のところのだろうが今はどうでもいい。


「どちらにしても、私たちが見たってことである程度はなんとかなるでしょう」

「まぁ言い逃れしたとしてもあたりは強くなるだろうねぇ」

「もともと潰れかけなんだろう?ならもうどうしようもないだろう?」


 ・

『うわっ、最低、っと言おうとしたけどここの三人の圧のせいでそれすら言えないくらいの同情を覚えてしまったわ』

『確か黒鷲の幹部とギルマス、だったかな?映った人』

『終わったな黒鷲。ついでに黒剣』

『この人たちを敵に回すと大手だろうが消え去るという強さ』

『救いなのは人格者だってことだけだよね』

『刺激しなければ問題ないってことだもんね』

『それにしてもSumaの冒険者を襲って何がしたかったんだろ?こんな自滅リスク背負って』

『さぁ?』

『とりあえず社長、黒剣辺りの良い子とか引き抜いてブランド作りましょう』

『おっ、それ良いねぇ』

『作ったら常連になりますよ』

『あと伝説の制作者として思う存分腕を振るって売れますよ?』

『やめろ世界のパワーバランスが変わる』

 ・


 ……なんで最後の方Sumaが鍛冶部門というか製作者部門を作るみたいな話になってるの?


「そんなの今の家じゃどうしようもないですから、やりませんよ」

「まぁ、人手とかなかなか集められないよな」

「今のタイミングじゃ集めたくても危険が大きすぎるからね」

「そういうこと。九重一人増やしたところでパンク寸前は変わらないし、増やすにしても信頼できる人じゃない限りはいれるわけには行かないし」


 うーん、いっそ十人から三十人くらいどこかでスカウトでもしてこようかしら。

 休み明けにはなるけどね。


「それなら私の方からも探しておくわよ?」

「俺も探しておくぞ?家の業界は良い奴多いからな」


 良い奴が多いのかはわからないけど、まぁいたらいたでそのときはその時で。


『それで?うちと繋がる証拠は消しましたか?』

『はい。最悪、ブラックソードだけで済むように仕込みも完了してあります』

『そうですか。……Sumaめ、たかが配信会社とかという娯楽風情、そんなSumaのせいで私たちは苦境に立たされてますからね。ですが一度不祥事を起こせば彼らの勢いは止まり、我々も今まで通りになるでしょう』


 あっ、切ってなかった。

 それにしても、その娯楽風情に業績悪化の理由を押し付けられてもねぇ。


 確かに、不祥事、今回の場合所属冒険者が配信中に、かつ自分の子会社の案件中に亡くなったとなれば私の会社の信用問題にもなるし、彼ら自身Sumaを攻め立てる口実にもなる。


 まぁ、大方その辺でSumaの評価を落として、逆に自分たちの評価を上げる、いや戻すか?ことができれば確かに今まで通りできるかも知れないって考えだろう。


「そんなの上手く行くわけないでしょうに」

「事故ならまだしも襲撃の時点でそれが破綻してることに気づけよ」


 二人とも厳しいねぇ。

 まぁ、私も同じような感じだけど。


「私がやるなら、そうねぇ……最初にカメラを壊して、その後で金縛り系の魔法を一瞬だけ使ってあげて魔物にやってもらうとかじゃないかな?」

「えげつねぇな」

「確かに証拠は残らないよねぇ。魔法なら特に」


 それができるかできないかは置いといて、これくらいしないと詰めが甘いとしか言えない。


 ・

『ホントにそれで上手く行くわけねぇだろ』

『上手く行くなら他のギルドがとっくに仕掛けてそうだけどな』

『普通に社長の考え方がガチすぎて草も生えん』

『ん?他もSumaのこと気に入らない感じ?』

『そら、ランク6という社長が率いる冒険者なんて、まるでギルドみたいだろ?ギルドとしてはそれは気に入らないわけだ』

『確かに、自分の仕事や立場を取られたら良い気はしないわな』

『んで、他の所がなにもしないって言うのはそれができないからだろ?』

『なる』

『そもそもSumaはギルドじゃないしギルドからとやかく言われる筋合いはない』

『今気づいたんだが、こいつらこの配信のこと知らないんじゃね?』

『そら、こんなわかりやすく見てるぞって言っても決行するってことは見てないやろ』

『娯楽風情、とか言ってるしこういうの見てないんじゃ……』

『無知は恐ろしいな』

『やっぱり、こう考えると社長の力って絶大で、Sumaの冒険者は異常なまでに強いってこともようわかったわ』

『総括!』

『これからもSumaと社長を推そう!』

『は~い』

『あたぼうよ』

『当たり前だのクラッカー』

『何があっても社長を信じるよ~』

『イエ~イ』

 ・


「あまりこういう話はやめておきましょうか。じゃあ、そろそろこの映像は切って……


『ぎゃぁあ!?』

『だ、誰、やめっあぁっ!?』


 ……先に言おう。私ではない。


「えっと……切って良いよね?」

「駄目」

「駄目に決まってんだろ」


 ・

『気になるだろうが』

『最後まで見せてくれよ!』

『ここまできてお預けなんて、焦らしプレイも真っ青だぜ!』

『ここは最後まで見せてくれよ!な?』

 ・


 駄目なのね。はい。では最後まで見ていきましょう。


 悲鳴が聞こえたのはわかる。


 何が起きたのかは見てなかった。だが、何かに殴られたような音が聞こえた。


 画面の先では二人がうずくまり倒れている。

 画面の中の画面でその様子を見ていたギルマス?かな、は顔を真っ青にしてその様子を見て震えている。


『我の大事な推しを!我の楽しみを!そんなくだらないもので奪われてたまるぅカァぁっ!』

『や、やめ、アッ』


 ジトッ


「……私悪くない。だからそんなに見つめないで?」

「何言ってるの?ただ見てるだけだから、ね」

「そうだぜ?ただ見てるだけだ」


 ・

『まだな〜にも言ってないよな』

『うんうん、言いたいことがあるってわけじゃないからね』

『や〜まさかね、あの言葉のまんまやるとは思わんわな』

『というか、どうやってあそこに行ったんだろね』

『謎が多い子ね』

 ・


 本当に私何もしてない。

 なのでみんなでそんなふうに見るのはヤメテ……まさか九重があんなに家の子のことを推してくれてるなんて、というか、誰がどう考えれば周囲にそこが含まれるなんて思うよ。


「も、申し訳ない」

「いや、別に謝ることはないよ?」

「別に何もしてないもんな?」

「じゃあなんで私をそんなふうに見るのよ!」

「「面白いから」」

「ですよね〜」


 結構その視線って辛いのよ?!何もしてないのに申し訳ない感じになるんだからね!

 どこぞの駄女神みたいに縮こまってふくれっ面涙目になるところだったわよ!


「はぁ。……とりあえず今度こそ切るね」


 もう得られるものはない。

 というかこれ以上映すと、映るのが不味いものまで見せちゃいそうだ。


「じゃあ紺金ちゃんたちの方に戻りますか」

「そうね」

「どうなってるかな?」


 あれから数分も経っていない。

 やられていることはないだろうが怪我をされるのも困る。


「クスリちゃんが追っかけてるのがそうなのかわからないけど、ランク5相当の暗殺系とか言ってたかしら?」

「えぇ。まぁ、大丈夫だとは思うけど」


 問題は九重がやり過ぎないか、それとクスリが変にバーサークしないかだ。

 この間のやつでバーサークする可能性ができてしまったからなぁ。


「そういえば、黒鷲さん、ようこんな雑な作戦で決行に踏み切ったね」


 確かに……桜の言う通りこんな小学生が考えるような作戦、ギルマスなんて言うんだからそれなりに賢いはずの人間がこんな作戦で?


「俺でさえもうちょい良い作戦が思いつくぜ?」

「そうよねぇ」


 黒鷲の単独犯だと思ってたけど、それだと不自然よね。


「馬鹿ではあったけど、無能ってほどじゃなかったはず……」


 としたら、その馬鹿を釣り上げる何かを提示した人がいる可能性が出てきたわけで……


「……まさかねぇ」


 一端の不安を抱きながら、私は画面の先の二人を見守るのだった。



 ・・・



「上手く悟られずにけしかけられたな」

「はい。これでブラックバードは終わりかと」


 何処か遠い地。

 そこのレストランにて二人はその様子を見ながら静かに語らう。


「大手の陥落、そして宵闇 霧江の実力と保持戦力の分析」

「本人の力は未だ底が知れませんが、Sumaの戦力についてはある程度分析が完了してます」

「緊急時の戦力まで今回出させたのは大きい。あとは宵闇 霧江のランク6としての力を把握するだけか」


 画面の中で思考を巡らせるその姿。それを見つめてニヤリと笑う。


「いずれ、彼の国を落とす。その日までせいぜい楽しむんだな」


 二人はその日を迎えるため、今日も静かに暗躍する。



 ・・・・・・・・・・・

後書き


黒鷲が仕掛けた理由→

業績悪化、人材流出による大手陥落。

それを解決するために人材流出の原因となったSumaを陥れる。黒剣の案件時の失敗によるイメージ低下の過失としていくらかの金を貰い業績を一時的にでも立て直し、それを元手に元の状態に戻ろうとした。


お金に関しては最悪取れなくても、Sumaは業績が悪化しその立て直しに動くことになるので、しばらくは何もできないと踏んだ。また、そのようなことが起きれば今まで通りはできずに今ほどの勢いはなくなるだろうと予想した。

お金は取れなくてももともと業績が下がろうと大手は大手。なんとでもなると考えた。


ってな感じですね。

黒鷲がSumaを舐めていることや、自分たちの落ち度をSumaのせいにしていることから今回の事件が起きたって感じですかね。

社長の配信に関しては、黒鷲連中見てません。というか見ません。だって娯楽風情とか馬鹿にしてるような人間が見ると思う?配信自体ゲリラでやったのですぐに把握できないし、ついでに気づいた人がいてもそれを伝えられるわけない、というか聞いてくれないっていう駄目な会社の一例みたいなもんですね。


感想でわかりにくいみたいなことを言われたのでこんな感じという説明を。


まぁ、実際はもう一か所、暗躍してる場所があったわけですが。


深く考えず、馬鹿だなぁくらいで考えてください。

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