第4話 カヨ

 ライと話を終えて自分の部屋に戻ろうとするカヨ。そこへ夜桜が彼女の元へとやってくる。


「夜桜か。どうした?」

「…またその話し方ね、いい加減元の話し方に戻さないの?違和感あるんだけど」

「別に変じゃないだろ?」

「無理しすぎってことよ」

「そんなつもりじゃ……」


 夜桜に今の口調が変だと指摘され苦い表情で否定するカヨ。彼女には今のカヨが無理しながら日々を過ごしていることに違和感を感じていると言う。


「ご両親のように振る舞っているのはわかってるのよ?」

「ダメなことなのか?」

「そう言ってるんじゃなくて、アンタが無理をしていて心配ってこと」


「……」


 カヨは黙り込んでしまう。夜桜がこのようなことを彼女に指摘しているのには理由があった…


___



 カヨの本名は紅葉くれは。この名前を使うようになったのは彼女が侍を目指した頃から。


 元々は和の国【日ノ和】出身で大天門寺だいてんもんじ城の第二皇女。父親は元将軍で、母親は陰陽師という経歴を持ち、姉と妹が一人ずついる家系だった。

 父親の影響で侍を志すようになり、当初は父親に反対されたが何とか説得し厳しい修行の末刀を持つことが許された。

皇女の身分であることを隠してカヨという名で侍として活動をしていた。


 その状況を把握し彼女を見守っていた夜桜。この二人が出会ったのはカヨが侍になるずっと前からであり、久しぶりに外で遊んでいたカヨこと紅葉を偶然見つけて一緒に手鞠遊びをしたことがきっかけ。


「あれ、あなた一人?」

「…うん…」


「じゃあ私と一緒に遊ぼうよ!」

「え…」

「名前はなんて言うの?私は夜桜!」

「…紅葉。私紅葉っていうの!」

「いい名前だね!私も手鞠持ってるの、一緒にやろうよ!」

「うん!」


 皇族であるためあまり外に出ることが少ない紅葉は誰かと遊ぶことがほぼなく姉と妹が数少ない遊び相手だった。

 そこで彼女に声を掛けてきたのが夜桜。それ以来外に出ては夜桜と一緒に遊ぶことが多くなった。紅葉にとっては初めて出来た友達であり、家族以外では最も古い付き合いである。



___



「アンタと初めて会った時からずっとこの手鞠持っているのよ?久しぶりにやらない、紅葉?」

「…っ!?その名前で呼ばれたの久しぶりな気がする……」


 本名で呼ばれて思わず顔を赤らめるカヨ。



「…ふふ、冗談よ。ところでもう深夜なんだけど時間あるかしら?」

「え…まあ大丈夫だけど……」

「それは良かったわ!色々話を聞きたいの」


 そう言うと、夜桜はカヨの手を引っ張り自身の部屋へと彼女を連れて行く。


「で、話って?」

「まあたくさんあるんだけど、まずひとつは今日入ってきたライのことよ。彼は悪い奴じゃないのはわかるんだけど…私達も今の感じになるまで色々なことがあったでしょ?」

「…ボスが明日戻ってくるから、その際に彼には尋ねられることはかなりあるだろう。」

「そうなのね。破皇邪族にしては不思議だと思う点がいくつかあったのよ。ライと会った時間はいつくらい?」


「昼前…だったかな。………あれ。何故彼は日中に外にいたんだ?」

「やっぱりね。あの戦闘種族は日の光が弱点でしょ?少し日に当たっただけで皮膚が焼けるわよね?なのに彼は全然そのような感じではなかった、それが変なのよ」


 最強の戦闘種族である破皇邪族であるが、そんな彼らの唯一の弱点は日光であること。少し太陽に当たっただけでも皮膚が焼ける程日光に耐性がなく、普段は日の沈んだ夜に行動をしている。

 しかしライは、太陽の光が当たっているにも関わらず何事もなかったように行動していたのだ。


「それについてはボスに根掘り葉掘り聞かされるだろうなぁ」

「そうね。それにちなんでもうひとつ話するわね。魔法組織が次々と活動を再開しているみたいよ」


 カヨ達が所属する御伽の夜光団以外にも魔法組織がいくつか存在し、それぞれ個性を持った魔法使い達がひとつの組織となり活動している。


悲惨なことが起きてから、しばらく…いや魔法組織自体の活動が少なくなってはいたが、ここにきて再び動き出すとは……!」


 魔法組織は現在確認出来るのは、御伽の夜光団含む全四組織である。

 約千年以上前におとぎの星で初めて魔法組織が誕生してから数は多くないが多数の魔法使いが徒党を組み行動する者もいれば魔法組織には入らず個人で活動している者もいる。


「一人で活動しているのも含むと、ようやくおとぎの星が動き出すって感じね…」

「その時を狙ってライをここに連れてきてほしいってことなのだろうか…?」

「…かもしれないわね。ボスが色々調査してくれていたみたいだけど今回それが分かったことによって、ここ最近は小さな依頼ばかりだったけど、ここから本格的に始動する雰囲気ね」



 ライを御伽の夜光団に加入させたことはこれからおとぎの星が再び動き出す瞬間なのかもしれない………

 そんな気がしたと言うカヨは何も知らない彼の部屋の方向を見つめ、これから来るであろう大きな戦いに巻き込んでしまうことを恐れていた。


(ライを…巻き込んでしまう可能性がある…彼の願いを聞いてあげたいのだが、もしかしたらその道のりは険しいかもしれない……

正直そのような目には合わせたくないが彼の役目がある以上…止めることは出来ないのか……?)


 カヨは手を胸に当て、ライのこの先待ち受ける試練に不安でいっぱいだった。自分が彼を誘い出したことは本当に良かったのかと。


「夜桜…私ちょっと疲れているかもしれない。それ以降の話はまた今度でいいか?」

「えっ、ちょっと待って。もしかして不安なの?」

「…ライを連れてきたのは良いことなのだろうか……」


 カヨは夜桜に不安な気持ちを素直に吐き出した。すると夜桜は…


「私だってこれでいいかわからない。生きている以上、何があっても不思議じゃないわ。そんな状況をどう切り抜けるか…今までだってそうしてきたでしょ…?


……それでもわからないことはあるけどね…」

「…夜桜…」

「仲間はお互い支えてあげなくちゃ、そういうものよ。じゃ、後はいいわ。悪かったわね、こんな夜遅くに」

「いや、いいんだ。話せて少し楽になったよ!」


 夜桜はふふっと微笑みながら話を終えて部屋の明かりを消した。


 そして彼女の部屋を出たカヨは三日月がよく見える夜空を窓から眺めて二人で幼い時に一緒に遊んだ手鞠を手に取り、小声で歌いながら三日月の方へ向けた。


「〜〜………。

今日の悩んでいたことはもう終わりにしよう。明日のことはまた明日考えよう…。

それにしても綺麗な三日月だな。私もこんな風景みたいに輝く……なんて簡単ではないか。悩んだら昔みたいに歌を歌いながら乗り越えてみよう…!!」


 彼女は何かを乗り越える時に歌を歌う癖があり、それは幼少の時から変わらない。独特な解決法ではあるが、これは彼女なりの方法である。


「……さて、明日から本番って感じかな」


 気合いを入れて、カヨは自分自身の部屋へと戻って行った。

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