Fairy tale Magic〜二十四夜の御伽噺〜

夏輝もふ

Chapter1 第零章 序章

第1話 冒険を夢見る少年

あなたはおとぎの星を信じますか?

それは、この世界には存在しないもうひとつの星…そこに住む者達の物語を___




 二○XX年、曇りがかかった街【洛皇】から少し離れた小さな村、一人の少年がそこで暮らしていた。

 彼の名前はライ。深海のような青い髪とエメラルドグリーンの瞳をした若い少年。彼は夜に飲食店の清掃・雑用の仕事をしている。店長にこき使われながらも毎日真面目に働いている。


「ライ、今日の仕事は店全般の掃除…それと食器を洗うことに加え食材に傷みがないか全て確認してくれ、いいな?」

「はーい」


 店長は淡々と早口で今日の仕事の説明をしせっせと帰っていった。ライはたった一人で黙々と仕事をこなしていく。店長がいなくなっているのを確認して、彼は大きくため息をつく。


「あーあ…毎日毎日たくさん仕事振られてホントに退屈だよ、こんな日がいつまで続くのかなぁ……?」


 ライは夜空を見上げて持っていた箒とバケツをそっと置き、毎日同じことの繰り返しに飽き飽きとしていた。

そんな彼だが、ひとつ叶えたい夢があった。


 それは、冒険に出ること。

今のような退屈な日々から抜け出して、もっと広い世界を見に行く…この為にライは仕事をして冒険に出るためのお金をずっと稼いでいた。


「五年…だっけ?これをずっと続けてから。もうそろそろ出ても大丈夫かな?俺には叶えたい夢ってものがあるからね!……でもどうしよう?店長に辞めることを伝えるか?でもあの人、そう簡単に許してくれないだろうなぁ」


 従業員として雇われてから数年が経っているが、彼の優しい性格をいいことにまるで奴隷のようにこき使ってきた。何ひとつ文句を言わず仕事をこなしてライだが、内心では腹立たしい気持ちであった。

 そんなことで今日の全ての業務を終えて自宅へと戻ってきたライ。やることがたくさんあったせいか倒れるかのようにベッドへと飛び込んでいった。


「今日も疲れたな〜〜。明日も頑張ろ…」


 少しして後片付けをしていたライは、窓を開けて夜の景色を眺める。無数の星がキラキラと輝いているのを見て、ライはうっとりとした表情で夜空を見つめた後、自分の心の中である決心をする。


「綺麗だなぁ、あんなに素敵な景色をもっと見ていたいよ……

ただただ待っているだけじゃダメだ、俺は世界を見に行く…そう決めたじゃないか。


……行こう、冒険へ!!!」


 彼が冒険に出ることを夢見るようになったきっかけは、幼少時で母国で見た光輝く鉱石の洞窟を見つけたこと。その圧巻で美しい景色を見たライはもっとこのような素晴らしい世界がたくさんあると信じ、空想にふける日々。

 そして自分自身が頭の中で考えた世界を古い紙に描いては小さな架空の街を作っていた。十七歳になった今でもその思いは変わらず、骨董品や雑貨などを集めては部屋に飾っていた。


「思い出してみれば、前からずっとそんなことばかり考えていたね。自分で描いた架空の街や地図…懐かしいな」


 部屋に置いてあった幼い頃に描いた地図を広げては懐かしむライ。その心は今も昔も変わっていない。


「そうだ!明日勇気を出して一歩を踏み出してみれば何かが変わるはずだ…!よーし、やるぞーーー!!」


 片付けを終えた後、明日の準備を急いで始めた。そしてワクワクしながら眠りについた。



___そして翌日、



 ライは昼過ぎに目覚め、起きてからすぐに顔を洗いに向かう。朝食を済ませ着替えた後、旅に出るための食料や服などを買いに街の市場へと走っていった。


「おや、ライじゃないか。どうしたんだ?そんなに嬉しそうな顔をして…」

「今日から冒険へ行くんですよ!もう本当に楽しみで楽しみで……」

「…あぁ。また君の空想話か……まあせいぜい楽しくやってこいよ」

「…」


 村の人達はライの冒険心溢れるところや空想癖の多い彼に呆れた様子で見ていた。そんな彼の性格は街でも噂され、変わり者扱いされている。


(故郷でもそんなこと言われたなぁ、まるで俺を変な奴扱いするかのように…)


 実は母国や今住んでいる街でもライの気持ちに共感する者はおらず、どこか孤独感を感じていたライ。そのせいか何でも話せる人物は誰一人としていなかった。

 するとそこに、ボロボロな姿の一匹の子犬がライの前を歩いていた。


「野良犬かしらね、ずいぶん汚れてる。それに…匂いも中々……ねぇ…」

「コイツ、俺の店の商品勝手に食おうとしてたから追い払ってやったんだよ!」


「え、どうしてそんなことを…?こんなに弱っているのに……あ、ねぇちょっと待ってよ!!」


 みすぼらしい見た目の子犬に近寄ろうとしない街の住民に対し、ライは放っておくことが出来ずにその子犬の後を追っていった。



「だ、大丈夫?」


 ライがそっと声をかけると、子犬はか細い声でクゥーンと鳴いた。ライは子犬を優しく抱き上げ街の奥へと進んでいった。


「心配しないで、俺が君を助けるからさ。

…ん?その模様は元々あったやつ?へぇ〜珍しいね」


 抱き上げた時に子犬の体には不思議な縞模様が浮かび上がっているのを見たライ。それだけではなく首輪もついており、そこに名前も書いてあった。


「首輪がつけられてる…もしかして誰かの飼い犬なのかな。えーーっと、何て書いてあるんだろう?………エミル?君エミルって名前なんだね!飼い主さんが見つからないなら、それまで俺が面倒見てあげるよ!」


 こうしてエミルと共に行動することになったライ。エミル自身もライの優しさに安心したのか、すぐに彼に懐く。


「……あっ!いけない!!店長に仕事辞めること伝えないと!!」


 ライは冒険に出る前に店長に辞表を出して辞めることを伝えに行くことを思い出し、すぐさま自分の働いていた店に戻る。



バンッッッ!!!!!


「うわっ!?何だライか、驚かすなよ…どうしたんだ?」

「店長……実は………


俺、今日限りでここを辞めます!!」

「…え?」


 ついに仕事を辞めることを伝えたライ。その間しばらく沈黙の時間が続いた___


「そうか」

「突然すみません、今までお世話になりました…!」

「わかったよ……





ここから出ることが出来たらの話だがなァ!!!」

「!?」


 店長は突然豹変し、机の中に入っていた銃を取り出す。ライは店を出ようとするが、その周りには街の住民達が武器を構えて彼を待ち伏せしていたのだ。


「出てきたぞ!!この戦闘種族の末裔め…!」

「なっ…!?」

(どうしてそのことを皆が知っているんだ…?)


 辺りを見回すライ。危機感を感じたエミルはライの袖元を引っ張りここから逃げるよう促す。ライは深呼吸をして住民達が攻撃を仕掛けてくる前に素早く走り出す。


「おい、そっちへ向かったぞ!絶対逃がすな!」

「わぁぁっ!?ただ辞めるって言っただけなのにぃ!?」


 住民達は容赦なくナイフをライに向かって投げつけた。しかしライは身体能力をうまく活用し攻撃を避ける。エミルはワンと吠えライに右側に進むように顔を向ける。


「そっちなのかエミル?…わかった、君を信じるよ!」

「ライ!!戻って来い!!」

「嫌だね!もう雑用係は懲り懲りだよ!!」

「小僧〜…!」


 ライの反抗心にイライラする店長の男。それでも彼は止まらない。自分の夢のために…


「よしあともうちょっとでここから出られる……


わっ!?!?」


 あと少しで街の出口に行けると思った矢先、ライとエミルの前に大量の棘の罠が立ち塞がる。


「ははは、残念だったな!俺達の言うことに騙され、それに気づいた奴らは皆これに阻まれて出ることは出来なかった…お前もそうなれ!!」

「そんな…」


 出口全てに罠が仕掛けられていて、なんとここから出られた者はいないという事実に気づいてしまったライ。このままではこの街から出ることは出来ない、そう思っていた……


「ワン!」

「エミル…何を…?」


 その時、エミルの体が光り輝き周りが一気に眩くなる。ライが彼の手に触れると、辺りが一瞬で凍りつき、棘の罠の動きを止めるだけではなく住民達の足元を凍らせて歩けなくなるようにしたのだ。


「あ、足が…っ!?」

「…!よし、今のうちだ!!」


 彼らが動けなくなっている隙にライは建物を駆け上がり遂に街の出口へ出ることに成功した。


「ライ、覚えてろよーーー!!」



___



「はぁ…はぁ………ありがとうエミル、君のおかげで助かったよ」


 なんとか逃げることに成功したライとエミル。木の物陰に隠れひと休みする。


「すごいね、もしかしてそれって……魔法の力?そりゃ面白いや!!ねぇ、君も俺と一緒に冒険へ行かないか?」


 エミルは嬉しそうに尻尾を振り、ライの顔を舐める。


「あはは、そうかそうか!頼りになる仲間がいてくれると心強いね!わかってくれて嬉しいよ…!冒険っていいよね!この世界にはまだ知らない場所が沢山ある……それをこの目で見てみたいんだ!!」


 ライは木の影から出る太陽を見つめ、改めて旅へ出る決意をする。これが冒険へ出る初めての一歩になった。

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