第27話 ませガキ

 お悩み相談に手応えを感じ始めた五十嵐は、連日動画を投稿することで着々と登録者を増やしていった。


(この分だと、チャンネル登録者が百万人を超えるのも、そう遠くはないな。もしそうなれば、いよいよタレントに転身だ!)


 そんなことを考えながら、【Y】のコメント欄をチェックしていると、あるコメントが五十嵐の目に留まった。


『僕は10歳の小学四年生です。僕は将来、五十嵐さんのような人気アイチューバーになりたいんですけど、どうやったらなれますか? あと、クラスの中に好きな女の子がいるんですけど、恥ずかしくてなかなか言い出せません。どうすれば彼女に思いを伝えることができるでしょうか?」


 ついに、この動画も小学生にまで広がってきたか。老若男女の視聴者を集めるのが目的の俺としては、だいぶ理想に近づいてきたな。まだ10歳ということで、視聴者の食いつきも良さそうだし、今回はこれでいくか。


 五十嵐はコメントのシミュレーションをすることなく、さっそく動画の撮影を始めた。


『どーも、五十嵐幸助です。さっそくだけど、みんな聞いてくれ。この動画もついに、小学生から相談されるようになったぜ! この前は70歳の老人から相談を受けるし、まさに老若男女入り乱れるって感じだよな。はははっ! ……というわけで、話を戻そう。今日の相談者は小学四年生の男子だ。相談は二つあって、まず一つ目は、俺のような人気アイチューバーに、どうやったらなれますかって相談なんだけど、そもそも俺はアイチューバーじゃなくて、郵便局のアルバイト職員なんだよな。まあ、ひとまずそれは置いといて、人気アイチューバーになるためには、みんなが興味を引くような動画を投稿し続けることに尽きるだろうな。じゃあ、どんな動画がみんなの興味を引くのかって思うだろうけど、それは自分で考えるしかない。今現在流行っているものとか、誰もやったことのないものに挑戦するとか方法はいろいろあるから、その中から自分のできそうなものを選択すればいい」


 五十嵐はペットボトルのお茶を半分ほど飲むと、続きを喋り始めた。


「二つ目は、相談者に好きな女の子がいて、その子に告白したいけど恥ずかしくなかなかできないみたいなんだ。で、どうすれば思いを伝えることができるかって相談なんだけど、これを読んだ瞬間、俺は『早くね?』って思っちゃったよ。だって相談者はまだ10歳だぜ。俺がその年の頃に興味を持っていたことと言えば、漫画とアニメくらいだったからな。まあ俺と比べてもしょうがないんだけど、それにしてもこの相談者はませてるよな」


 五十嵐は残りのお茶を一気に飲み干すと、最後の締めに入った。


「で、結論から言うと、俺はわざわざ告白しなくてもいいと思う。なぜかと言うと、告白するメリットがないからだ。仮に告白して相手がОKしたとしても、二人が付き合うことになれば、間違いなくクラスメイトから毎日のように冷やかされる。10歳だと、それに耐えられるだけの心はさすがに持ち合わせていないだろうからな。あと、フラれた場合はもっと悲惨だぞ。〇〇ちゃんにフラれた奴ってレッテルを貼られ、クラスメイトにからかわれることになるからな。どうだ? これを聞いても、まだ告白したいと思うか? もしまだそう思うのなら、お前の彼女に対する恋心は本物だ。恥ずかしがらず、勇気を出して告白しろ。というわけで、今日はこれで終了する。じゃあな」


 タイトルを【ませガキ】と名付けたこの動画は、意見が賛否真っ二つに分かれるかと思われたが、意外にも反対の意見は少なく、支持する声の方が圧倒的に多かった。


『少年の夢を端から否定するのではなく、厳しさを教えたうえでアドバイスをする五十嵐さんの姿に感動しました』

『僕も将来アイチューバーに挑戦したいです』

『少年にエールを送る五十嵐さんが素敵でした』

『ていうか、相談者に対してお前って呼び方は、さすがに失礼じゃない?』

『少年に、思いをとどまらせようとした時は一瞬、ん? ってなったけど、最後に少年を応援しているのを観てホッとしました』

『青春ですね』

『この動画を参考にして、少年には勇気を持って告白してもらいたいです』

      |

      |

      |

(意外と、一つ目の回答に対するコメントが多いな。俺としてはありきたりなことを言ったつもりだったけど、アイチューバーについて真剣に答えたのが、視聴者の心に刺さったということか。あと、確かに『お前』って呼び方はまずかったな。次からは『君』にしよう)


 五十嵐は最後までコメントに目を通すと、すぐに布団に潜り込み、ものの三分も経たないうちに『スースー』と、寝息を立てていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る