第004話 【迷宮に対するそれぞれの対応と、迷宮という世界】

 さて、そんな、いきなり地球上に現れた迷宮。

 国内では『一般人の尊い犠牲(洞窟のカナリア)』が出たことにより、日本では調査に人員を派遣するまでに結構な回数の議論が交わされ、その間に他所の国では素早い調査が行われる。

 当然政府の出遅れに対してマスコミから鬼の首を取ったかのような批判が噴出した……んだけど、今回に限り、その出遅れは吉と出た。

 

 何故なのか?それは他国の迷宮に対する対応、そしてソレに対する結果を見る時間が出来たから。

 世界各国ではいきなり現れた不気味な洞穴に、まず警察組織や国軍を派遣して調査をした。

 ……一部国家では犯罪者や一般人を派遣したところもあったみたいだが。


 そしてその結果、派遣された軍隊その他に大きな被害がでることになる。

 日本でも迷宮帰りのおバカから報告されていたので『迷宮の中には人間を襲う危険な生き物がいる』ということは認識されていた。

 もちろん他国でも似たような人間がいたし、各国同じような情報は持って、それら未確認生物を排除するために完全武装した兵隊を派遣したのだが……。


『何らかの影響で銃火器が迷宮の中では殆んど効果を発揮しない』


 と言う異常事態が発生。

 後々分かったことらしいが、迷宮内では魔力により、水中で銃を発射したような状態になるらしく、銃弾の殺傷能力がほとんど無くなる(効果範囲数十センチ)らしい。

 これ、銃を撃っただけだったら弾が数メートル先にポトンと落ちるだけだけど、爆発する兵器(榴弾とか炸裂弾とか……違いは知らんけど)を使ったりしたら……超至近距離で爆発に巻き込まれるからね?


 ここで一旦落ち着いて対応を協議に入った国の傷は浅かったんだけど……さらなる対応をしちゃった気の短い国もあるわけで。

 『わけの分からない穴など埋めてしまえ!』とか、逆に『入り口ごと壊して広げてしまえば機動兵器を使えるだろ!』などなど。

 その結果は……迷宮内より未確認生物、通称『魔物』と呼ばれる危険生物の大量発生を招き、その結果として『迷宮近隣地域の崩壊』がもたらされた。


 迷宮、各国の首都圏に発生してたからね?

 地上に出た魔物は近代兵器で対応することが出来たので、なんとかすべてを駆逐出来たらしいが……大量の死者やインフラの破壊で、それらの国は経済に数年、数十年の大ダメージを負ったらしい。

 ちなみに我が国では、国内の安全を確保するためにも調査に自衛隊を派遣したい与党と、たとえ国が滅んでも自衛隊を派遣したくない野党による大騒ぎ中であった。


「こうやって見ると、王様による上意下達(トップダウン)って効率いいんだな……いや、それでなくとも人数の少ない自衛隊に犠牲が出なかったんだから、今回に限っては、その結果だけ見ると悪くなかったと言えるのか?」


 その後、銃器ではなく剣や弓などの旧世代の武器でなら迷宮内でも効果的に魔物を倒すことが出来ることが確認され、さらに魔物を倒すことにより現れる『迷宮証(ダンジョン・カード。ステイタス・カードと呼ばれることも)』の発見、魔物を倒すことで迷宮内でのみその力が強化されることや、スキルと呼ばれる様々な技術を入手出来ることの発見。

 さらには迷宮内で魔物を退治することで手に入れることができる、色々な『獲得物(ドロップアイテム)』、そして『魔石』と呼ばれる高純度エネルギーの利用方法の発見などなど……。


 数年、十数年掛けてさらなる迷宮の研究、そして獲得物の研究は進み、迷宮の資源としての価値はどんどんとあがっていった。


「なるほど。つまり、俺が通う予定の『迷宮科』ってのは、異世界で言う冒険者を育てる学校ってわけか。

 いや、その程度の情報は迷宮科って名前だけでも想像できたけどさ」


 そして最初は『各国の首都圏』に現れたダンジョンであるが、その後十年ほど掛けて人口の多い地域を中心に、その数をゆっくりと増やしながら各地に広がっている……らしい。 


「てか日本だけでも20個近いダンジョンがあるのかよ……いやそうじゃなくてだな。

 今さらだけどこの地球、絶対に『俺の暮らしてた世界』じゃないよね?」


 だって、俺が生まれてから異世界に攫われるまで、ダンジョンがいきなり現れたなんて、そんな世界的な大ニュース聞いたことが無かったもん。

 もしかしてなくとも何処の誰かは知らない声の主……送り返す先を間違えやがった?

 いやマジで、ホントマジでお前……うん、特に文句は無いんだけどさ。


 それでなくとも十年も異世界に居たんだよ?浦島太郎状態の俺だよ?

 地球に帰って来ても特に出迎えてくれる人間が居るわけでなし、言うなれば帰る場所なんてどこでも同じって言えば同じなんだよ。

 でもほら、なんとなく気持ち悪いっていうかちょっとだけモヤッとするじゃん!


「でも、逆に俺の知ってる地球より、ダンジョンなんてものがあるこの世界の方が無職(ノージョブ)の俺には暮らしやすいとも言えるんだよなぁ」


 死にかけたとは言え、魔物と戦った経験だってあるし、そのへんの一般人とは顔つきも違うはず!

 たとえ浅い階層しか潜れないとしても、ダンジョンで魔物を狩れさえすればドロップアイテムと魔石の入手で、その日暮らしする程度の収入源になる……かもしれないからな。


「てか俺、別に学校とか通う必要ないんじゃね?

 これでも一応我、異世界帰りの勇者ぞ?

 同期のメンバーと比べると戦闘力は圧倒的に低かったがな!」


 いきなり送り返されたことによりテンションダダ下がりだった俺。

 ちょっとだけ前向きな気持になったので、さらなる情報を仕入れるためにタブレットを使って引き続きネットの海にダイブするのだった。

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