第20話 空回りの心
朝目覚めると、愛しい遼真は隣にはいなかった。それは、夜中2時頃だっただろうか。突然、遼真のスマホがけたたましく鳴り響き、静寂を引っ掻いた。
やっとスマホを見つけた遼真は画面を見て、ひとつ大きなため息をついた。
「はい、リョウです。カナちゃん、こんな時間にどうしたの?」
彼は、私に小さくごめんね。と囁き、スマホを片手に外に出てしまった。明らかに、何かを叫んでいるような女性の声が聞こえていた。なんのこれしき!って慣れなきゃいけないのはわかってるけど、つい寂しくて、眠れなくて。朝の5時過ぎまで、見たくもないスパイ映画を見てしまっていた。
そして今に至る。握りしめたまま寝落ちしたスマホに、遼真からのメールが一通届いていた。
─突然帰ってごめんね。お客様のカナさんはちょっと酒癖悪くてね。睦、明日仕事だし、安眠妨害しちゃうと悪いと思って。本当にごめん。また連絡するね。
「ふぅ。カナさんかぁ〜」
顔を知ってるだけに、嫌でも心配しちゃうよ。ものすごく可愛らしくて、魅力的な女性だもん。
─大変だったね、お疲れさま。私はお仕事行ってきます。
大人らしく返信を送り、私はスマホを閉じ、仕事に向かった。
夢のような休日を終え、会社では年末年始に向けて、バタバタと時間が過ぎてゆく。光樹も仕事に追われ、ゆっくり話すこともできなかった。
ちょうど12時を回り休憩に入る頃、私は課長を呼び止め、実家のことを話した上で、年末年始で10日程休みをいただけないか交渉してみることにした。
すると上原課長は、少し困った表情で私を見据えている。
「それは困ったねぇ。実は、ちょうど天野くんが担当してる部門で、新年早々に内部監査が入るみたいなんだよ。まだ他に詳しいやつもいないからなぁ」
「そうなんですね。私も忙しい時期だとは自負してましたので、両親にも事情を話してみます」
ふぅ。とはいったものの私はひとりっ子。やっぱりバイト雇ってもらうしかないかなー。私はデスクでコーヒーを飲みながら、寝不足の冴えない脳にムチうっていた。
「お〜い睦。大変そうだな。さっき、上原課長から聞いたよ。もちろん仕事は手伝うけど、睦が抜けるわけなはいかないよな。そこで提案なんだけどさ……。俺、睦の実家に手伝いに行こうか?あの時みたいにさ」
本気で言ってるのかな光樹さん!私は思わず、無言のままフリーズしてしまった。
「え?光樹どうしたの!って顔してるけど。こないだ言っただろ、俺、諦め悪いタチなんで」
そんな光樹に、きちんと遼真とのことを伝えなくては。
「あ。でも私、話してた彼とお付き合いすることになって」
一瞬だけ、光樹の表情が曇る。でもすぐに私のほうを向いて、いつもの優しい光樹に戻った。
「そっか。おめでとう。でも、お店困ってるのは事実でしょ。経験のある俺なら役に立てるとおもうんだけどねぇ〜」
「いや、それはそうなんだけどぉ」
「久しぶりに睦ママの卵焼き食べたいしなぁ〜」
確かに、光樹は前に一度お店の手伝いに来てくれたことがあった。母さんは、とっても光樹のこと気に入っちゃって、イケメンなうえに、センスもあるとか言って有頂天になってたなぁ。八百屋の仕事は力仕事も多いし、そりゃ男手はめっちゃ助かるけど。
もしも光樹と遼真でお店の手伝いなんて……ありえない!!わざわざうちの店で修羅場作んなくてもいいでしょ!
「いや、それはさすがにね。実家にもう一度連絡してみるよ。光樹に甘えるわけにはいかないし」
「あらあら。ま、お困りの時は声かけて」
もぅどこまで紳士なんだよ。調子狂うんだから〜。
夜になり帰宅した私は、実家に電話をしてどおしても仕事が忙しくて、5日くらいしか休みが取れないことを伝えた。仕事だから仕方ないって母さんは言ってくれたけど。バイトも探してるけど、全くいないらしい。子供の頃から見てたから、年末年始の忙しさはわかってるつもり。
こりゃ、キチンと遼真にも事情を説明して、今回は光樹のご厚意に甘えることにしようかな。うまく説明できるかと、不安な気持ちになりながら遼真に電話してみることにした。
「あ、遼真?今電話大丈夫?実はね……」
私は、年末年始にあまり休めないことと、同僚の光樹に実家の手伝いを頼んでみることを伝えた。
「あー睦の仕事は仕方ないけどさ。なんであの人なの?俺には頼ってくれないの?」
「光樹は、前にも実家に手伝いに来てくれたことがことがあってね」
「そっか。そりゃ頼りになるよな」
「そんなに怒んなくてもいいじゃない。私もどうしようもなくて」
「別に怒ってないし。わかった。俺、まだ仕事だから。また連絡する」
なんとなく怒るだろうなとは思ってたけど、他に方法が思いつかないんだもん。冷たい遼真の言葉が胸に突き刺さる。あーなんかイライラしてきた!
もう!なんで父さんこんな時に腰なんか痛めちゃうのよ〜。バカぁ。こうして、大荒れ模様の年末年始が幕をあけたのだった。
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この度は第20話を読んでいただき、本当にありがとうございます。
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