第2話 探偵事務所

 葛藤しなかった訳では無いが、

 夫は疑われていることに気がついていないのか、

 あの領収書をポケットに入れたままの日が続いている。


「もう無理」 


 約束した日時に探偵事務所に出向いた。

 調べれば近くにあるものだなと思いながら戸を叩く。


「お待ちしておりました。こちらへおかけください」

「はい」

 担当してくれたの女性の方だった。

 戸田と名乗った30代くらいの女性は話を進めていく。

「不倫の証拠集めのお話でしたよね」

「ええ」


「これが証拠の品なのですが、もっと確信をついた証拠が欲しくって」

 1年分貯めた証拠を見せる。


 ラブホテルの領収書がたまっていくだけで、

 なかなかこれといった証拠がない。


「確かにこれでは言い逃れもできてしまうので。

 弊社で言い逃れ出来ないように証拠を押さえることもできます」


「お願いいたします」


「2週間あれば確実かと思います」


「よろしくお願いいたします」


 2週間後探偵事務所に呼び出されえた結果は黒だった。


 不倫相手の名前は田中麗華タナカ レイカ

 29歳独身。誕生日は9月。

 身長は155センチ前後、やせ型。保険会社の営業担当をしている。


 探偵社が調べ上げてきた内容は私が想像していたのと違っていた。


(社内ではないのか)

 

 きっと社内で不倫をしていると思っていたが、

 

 相手も独身の妙齢の女性とは。

 意外なまでに夫はひどいことをしているような気になる。


「相手の人は知っているんでしょうか?」

「知っています。確信犯かと」


 盗聴したと思われる録音を聞かせてくれた。

『奥さんにばれちゃうよー』


 可愛らしい声だ。

 しかしやっていることは最低の行為だ。


 そこまでわかればもう探偵には用はない。


「ありがとうございました。期日までに入金いたします」


「ご利用ありがとうございます。

 くれぐれも悪用なされないようにお願いいたします」


 最後にそんな忠告を貰ったが、もともと離婚するために調べたのだ。


(もっとえげつない復讐に使うっている人もいるんだろうな)


 他人のプライバシーを調べているものにとがめる権利はあるのだろうか。

 有るわけもない。

(ただ不倫した人を一目で見ることも悪くない)


 住んでいる場所に向かうことにした。


 彼女の住まいはセキュリティーは厳重とは言えない。

 

 指紋認証でも顔認証でもない、

 ボロアパートといえる場所に住んでいるようだ。


 高級住宅地にはふさわしくない設備だった。


 夕方になると、目当ての人が帰ってきた。

 小柄で、かわいらしい人だ。

 今まで甘えられる場所では甘えてきたのだろう。

 

 仕事帰りだろうかタイトなスーツを着ていても、

 豊満な肢体の持ち主であることがわかる。


「こんにちは」

 話しかければ驚いた様子だったが、

 すぐに私のことが分かったようだった。


 家に上がって話をしないかと言われた。


 外見のアパートとは裏腹に中は香水の香りが充満していた。

 それだけではなく、高級そうな靴やテーブルがあった。


(夫が付けてくる香水と同じ香り)

 お茶を出してくるあたり、常識的な家庭で育ったようだ。


「奥さんでいらっしゃいますよね?」


「ええ。夫とは離婚します」

 クスクス笑う彼女のそばには高級そうなバッグがあった。

 きっと夫以外にもパトロンがいるんだろう。


「あら、もっと縋るかと思っていたのに」

「あなたにも慰謝料を請求します」


「証拠ないでしょ。それに女の私が支払うものなんてないの」

 女は何をしての許される理論を持っているようだ。


「そうですか」

 この女とは話しても無駄だと思った。


「早く別れてよね。そうしたら私が結婚するんだから」

「そうですか。3か月以内には離婚できると思いますので」


 可愛らしい声とは裏腹に、傲慢な女性であると推測が付いた。


(これは夫婦生活が大変そうね。素直に別れてくれるかしら)


 男の人は遊びで浮気することがあるという。

 本気ならともかく夫とは相いれない関係に思えた。


「失礼いたしました」

「あら、もう帰るの? もっとゆっくりとしていけばいいのに。

 ダーリンの昔話を教えてよ」


「本人から聞けばよろしいかと」

「そう。残念ね」


 悪びれもしない女に背を向けて、これからのことを考えるのだった。

 この女のおかげで、やることは山済みなのだった。


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