第12話





「貴方が、ケイリーがシエル、だったのね」


「うん…ごめ」


私は涙が出た。きっと恐怖からのがれた安堵感と、初めてデートした相手が自分のずっと会いたかった親友だと分かだった事からだろう。ポロポロと溢れ出る涙を手で拭う。


「ッ、イアリス…」


シエルから私の顔を覗き込む。泣き顔なんて見られたく無いと、顔を手で隠すと、その手をシエルが取る。


「イアリス、ミサンガにさ願ってくれたと言う事は僕と一緒に来てくれるってこと?」


多分、シエルは気を使ってくれたのだ。もしかしたら彼は、私の泣いている理由が自分によるものだと思っているのかもしれない。柔らかな微笑みを私に向けてくれている。


私は、まだ決めれていなかった。いいえとも、はいとも言えずに時間が過ぎていく。この国では良い親友と学友がいる。けど、もう親とクロウの元になど戻りたくない。


悩みに悩んだ末、「行きますわ」と顔を手で拭い、言った。


「…、断られると思っていたよ。来てくれるんだね、嬉しい」


シエルの顔が一気に明るくなる。周りに花でも咲きそうなほど。しかし、シエルは気まずそうにした後、「ただ…」と付け足した。何か条件でもあるのだろうか。私はそのシエルの雰囲気に流され、静かに頷く。


「君はこちらの国では死んだことになるけどいいかい?」


ああ、そういう事。誘拐でいなくなったとか誤解されないようにするのね。それなら、この馬車の転落はちょうど良いじゃないか、と思った。厄介事がなくて済む。


「ええ!両親とクロウに一矢報いたいと思ってたんですもの!」


私は胸を高らせて言った。ケイリーがシエルなら、彼は魔法使いだ。彼なら、崖の下に私の死体のダミーを作るなんて事、簡単なはず。…その死体を見つけた時の御三方の反応が楽しみですわ。


私はフフフ、と笑ってみせる。すると暗い表情をしていたシエルも、次第に元の花みたいな表情に戻る。


「ふ、イアリスは昔から変わらないね。そういう所が好きなんだよね。ずっと」


私は好きという言葉に反応してしまう。

ど、どっちの好きなんですの……


「さて」



シエルは崖に目掛けて、手を向けると、またもや、紫の光が放たれた。私に良く似た死体を作るんだろうけど…一体どんなものが出来上がっているのか見たくなる。けれど、シエルは危ないから駄目、と言って見せてはくれない。そうとうリアルな出来なのかしら。でもそうよね、こんな崖から落ちた人というのはもう形も残らないほど、潰されるでしょうし、綺麗なままだとおかしい。多分…凄くグロいでしょうね。


シエルが「僕の体に捕まって、」と私に目線を合わせて言う。私は何をするのか良くわからず、軽く彼の裾をちょいとだけ掴んだ。それがいけなかった。シエルと私は上空を勢いよく飛び始める。ドレスも、髪も強風に靡かれ、ほんと今すぐにでも、置いていかれそうになった。悲鳴も出しそうになる。


このままじゃ本当に落ちるわ、とシエルにぎゅうと掴まる。

するとシエルの心音が聞こえた。激しい、トクトクトクなんてものじゃない。本当にもの凄く早かった__。



しばらくすると、地に降り立った。

たった数秒しか浮いていないはずなのに、地上が安心する。生きて帰れてよかったという安堵感からだろうか。ほ、と息が漏れる。


「……ついたよ、ここが僕の国さ」



彼の国は私の国から、一個離れたところにあった。馬車で2時間ぐらいだろうか。彼はこんな遠いところから、私の元に来てくれていたのね。


_シエルは私に町を案内してくれた。


「私こんなに堂々と歩いていていいのかしら、」


「大丈夫だよ。ほら僕お得意のアレをかけているから」


ああ、と納得した。周りには私はきっとまた認識

されないのね。凄く便利な魔法ね、と思った。






街をたくさん歩いて、いろんな事を知って、楽しかった。


「疲れたろ?休憩しよう僕の家に案内するよ、」


「ありがとう。ところでこれからだけど、私どうしようかしら。ほら家とか」


連れ出してくれたのはよかったけれど、これ以上シエルに迷惑をかける訳にはいかないし…


「え?…僕はこれ駆け落ちだと思ってたけれど……」


「?」


シエルは何か呟いていた。何を言っているのか聞こえない。


「そのことについては…後で話すよ!まずはお腹空いてない?何か食べよう」


「空いているわ」


そしてシエルの家に向かう。


シエルの家は想像していたよりも大きく、立派だった。


「凄いわね…シエルってやっぱりお偉い人だったのね」


「君には負けるよ。僕は元は庶民の出だし。名誉称号と共にこの家も送られたんだ」


「そうなの…」


確かにこんないい魔法使い王が放っておく訳ないわね。

シエルが只今帰った、と門番に伝えると大きな門が音を出して開く。私たちはその門に向かって歩いていく。

すると中には大勢のメイドや執事がいた。そして皆口揃えてこう言った。おかえりなさいませ、旦那様!と。


「この方が坊っちゃんの言っていた方?」


細々と、そんな声が聞こえる。まあ、シエルは私に対して何か言っていたの。


「坊っちゃん、お食事の料理は整っています」


シエルに対し、執事らしき人が耳打ちする。仕事が早すぎてびっくりしてしまう。

私はそのままダイニングらしき部屋へと案内された。美味しそうなご飯が並んでいて、今にもお腹の音が鳴りそうな私の目には全て輝かしく見えた。


「凄く美味しそうわ」

「だろう?と…その前に言いたいことがあるんだ」

「何かしら、?」


すると執事さんがシエルに花を渡す。そしてその花は私を向く。


「イアリス、好きです。ずっと昔から」


私は困惑してしまった。顔が赤くなるのを感じる。まさかこんなところで……。


「貴女を大切にしたい、幸せにしたい。よかったら僕と、付き合ってくれませんか」


シエルと目がバッチリあっている。逸らすわけにはいかない。わかっているけれど、自分が今どんな顔をしているか分からなくて、背けたくなってしまう。


シエルは好きよ。私も昔から。再会した時だって運命だとも思った。これが…好きという気持ちなの?



「本当に幸せに……してくださるの_?』


「勿論だよ」



シエルはそう、笑顔で答えてくれた。







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