第7話 クロウの過去 



「クソ…俺は、違う」



予想してなかった展開に、予測できなかった天気。


クロウは雨に濡れながら、ボツボツと呟きながら、死んだ目をして言った。



だだ彼女に愛されたかった_____。



その思いがクロウの胸を締め付ける。自分がイアリスを傷つけていたことは薄々気がついていた。しかし、それ以上にクロウが浮気をするたびに、イアリスとクロウの距離は縮まっていく。



じゃあ、色んな人と遊びまくっていれば、イアリスは嫉妬してくれる。



あの美しく、賢い彼女が俺だけを見てくれている、と自分に自信がつく。



………はぁ、イアリスと出会ったのはいつだったか。



クロウにとって電流が走ったかのように衝撃的な思い出だった為、はっきりと覚えている。



『~8年前、クロウ視点』




正装をして、母上と父上に連れられ客間室まで行くと、そこには女の子が親を連れて立っていた。年は俺と変わらない10歳ぐらいでとても美しく、声も可憐だった。確か母上は前に俺に婚約者が出来るとか言っていたな…その件が彼女か。俺が椅子に座ると彼女は立派なカーテシーと挨拶を披露した。


「お初にお目にかかりますクロウ様、私イアリス・ガドナーと申します。これからよろしくお願い致します」


まだ年相応の幼さが残るものの彼女からは気品で溢れていた。父上も母上もうっとりとしていた…珍しい、あのいつも冷徹な父上が母上以外にこんな表情を向けるなんて。

少し緊張してしまう。


もし挨拶を失敗してしまったら、婚約も失敗してしまうのでは等考えてしまい胸の中は不安でいっぱいであった。とりあえず足が疲れてしまっている可能性も俺は彼女を座らせた。


そして緊張が 解けぬまま、素早く挨拶を終わらせてそ部屋を立ち去った。


ーあれから6年後俺もイアリスも16歳になっていた。


この政略結婚の利益も、しなければならない事も理解できる年齢になっていた。


16歳からだろうか。イアリスが急に俺への態度が変わったのは。



俺はなぜ急に、と困惑した。しかし、すぐさま理由を思いついた。そう言えば、今日姪と遊んだな、と。もしやイアリスは俺に嫉妬してこんな甘い対応になったのではないか。そう考えるととても嬉しかった。

あのイアリスが。



「クロウ様、良かったらご一緒に」



友人とお茶会をしてるのに関わらず、俺が近くを通ると必ず声をかけてくれた。友人はあからさまに俺を見て嫌な顔をしている。それが優越感を感じて嬉しかった。



「クロウ様~、これっ…本当に貰っても良いのですか?」


「ああ、やる」



彼女に安物のネックレスを授けた時も喜んでくれた。きっと彼女もそれが安物だと知っているだろう。それなのに目を輝かせて。



「クロウ様、誕生日おめでとうございます」



俺が彼女の誕生日を忘れていても、彼女は必ず笑顔で祝ってくれた。そんなに俺の誕生日を祝いたかったのか、と俺まで嬉しく感じた。俺素っ気なくすればするほど、大人になるほど、彼女は俺に優しくなる。



俺は、本当に彼女に愛されているんだな。



新しく愛人を作った日はイアリスがいつも、俺の捨てた愛人を泣かしていた。そうか、そんなに嫉妬していたのか。しかし、不可解なのは泣いた令嬢がいつも彼女に懐く事だ。まあいい、嫉妬していると分かっただけで愛人の事などどうでもよく感じる。



シェリーは何故か俺に執着してきた。だから利用した。



いつも通り、イアリスが嫉妬きてこちらに来た…が。



その日からイアリスの俺への態度は変わった。ドクドクドクと、不安を感じる心が震える。耳を済まさなくても、体の中で大きい音が鳴っているとわかるほど。



なぜ?どうして俺に冷たくする。


お前は俺を愛しているのだろう?





そして、今日。




『どうして私が貴方を好きだということを、前提に話しているんです』



は。



どういう事だ。もしや、もしや、彼女は俺のことを。利益になる婚約を結んだ男とでも見ているのか。いやそんなはずは無い。だって彼女は俺に尻尾を振るほど好いていたではないか。


もしかして…全部演技だったとでも言うのか。



雨音を感じない。全てが俺の周りから排除されたかのように、静まっている。


……この婚約が彼女と俺の間に邪魔なんだ。

こんな婚約さえ結ばなければ、彼女も俺に冷たくしなかったし、酷くしなかった!!最初から自然に出会っていれば、愛しあえていたはずっ…!!



…ああ、いい事を思いついた。婚約を無くせば良いんだ、そしたらまた一から始められる。

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