第21話:相合傘
学校から帰宅後、何か飲もうとして冷蔵庫を開けてから手が止まった。何故なら冷蔵庫に入っていた食材が殆ど無くなっていたからである。
いくらなんでもほぼ空になるぐらい消えてるのはおかしい。というか晴子の仕業に違いない。
急いで部屋に戻り、晴子を問い詰めることにした。
「おい。なんで冷蔵庫の中が尽きかけてるんだよ」
「あー悪い悪い。料理の練習しててな。それで余ってる材料を使ったんだよ」
「だからって使いすぎだろ……」
元からそこまで買い溜めしてあったわけではないが、それでも量はあったはずなのだ。
「いやいや。冷蔵庫のなか漁ってたら腐りかけてたやつとかもあったぜ?」
「えっマジで?」
「だからそういう物とか選別してついでに整理したんだよ」
言われてみれば冷蔵庫の整理とか何年もして無かった気がする。
「あとは賞味期限がだいぶ過ぎてたやつも全部捨てたぞ」
「やけにスッキリしてると思ったらそういうことか」
「感謝しろよ。オレのお陰で綺麗になったんだから」
「お、おう」
たしかに有り難いけど……
「というわけで買物に行くぞ。今晩のおかずも無くなったからな」
「ん? 俺も行くのか?」
「そりゃそうだろ。明日の分もあるし、色々買い溜めしないといけないからな」
ああ……なるほど。つまり俺に荷物持ちをやらせるつもりなのか。まぁいい。どうせ後で買いに行く予定だったしな。
すぐに支度を済ませ、晴子と一緒に出掛けることにした。
買物を終えてスーパーから出ようとしたときだった。複数のレジ袋に入ってる荷物にゲンナリしそうになったのだ。
「さすがに買い過ぎじゃねーか?」
「そうか? このくらいすぐ無くなると思うんだけどな」
両手には買った物を大量に詰め込んだ袋を持っている。というか重い。それに比べ、晴子の持ってる袋は明らかに俺のより軽そうだ。
晴子め……これだけの量を買うのを想定して俺を同行させたんだな。
「よーし。さっさと帰るぞ。雨降りそうだしな」
「はいはい」
だがしかし、悪い予感は的中することになる。歩いて数分も経たない内に雨が降り出したのだ。
急いで屋根の下まで走り、雨宿りをすることになった。
「本格的に降り出したな……」
「どうする? こりゃ止みそうにないぞ」
「そうだな……どっかで傘でも買いに――」
隣に居る晴子を見て言葉を失い、固まる。
何故なら今の晴子は白いシャツを着ているからだ。そして全身が雨のせいで濡れている。
すると当然――
「ん? どうした?」
「あ……い、いや。なんでもない……」
「何だよ。急に顔を背けたりして」
「き、気にするな……」
服が濡れているせいで、薄っすらとブラジャーが透けて見えるのだ。
あのブラは見たことがない。恐らく新しく買ったやつだろう……っていやいや。そんなアホなこと考えている場合じゃない。
とりあえずこの場を何とかしないと。
「おい。何でオレを見ていきなり…………ああ、そういうことか」
くそっ。気付きやがった。
案の定、悪い顔をしてやがる。
「そういや透けブラに遭遇するシチュエーションに憧れてたよなぁ? また一つ夢が叶って良かったじゃねーか」
「……うっさい」
「あっ思い出した。たしか美雪の服が透けてるところを想像した頃が――」
「思い出さなくていい!!」
今日はついてない……。
なぜこんな目に遭わなきゃならんのだ。
「と、とりあえずこれ着てろ」
着ているパーカーを脱ぎ、手渡す。それを受け取った晴子はすぐに着始めた。
「傘買ってくるから待ってろ」
「おう、頼んだぞ。スケベな春日君」
……本当についてない。
「言っとくが傘は1本でいいからな」
「えっ? なんでだ?」
「傘持ちながらどうやって荷物持つんだ」
晴子が指差した先には、さっきまで持ち運んでいた重そうな袋があった。とてもじゃないが片手で持てる量じゃなかった。
「あー……そういうことか」
「だから傘はオレが持っててやるよ」
「わかった」
雨が振る中、気合を入れて全力で走った。
あの後、無事に傘を手に入れてから戻ることができた。
そして晴子が傘を持つことになったのはいいんだけど……。
「あの……歩き難いんだけど」
「文句言うな。この傘そんなに大きくないんだし」
「仕方ないだろ。それしか売ってなかったんだから」
「なら黙って歩け」
一緒に同じ傘に入ってるせいで、肩どうしが密着しているのである。しかも荷物も持ってるのでかなり歩き難いのだ。
この調子だと家までだいぶ掛かりそうだ。
肩から晴子の体温を感じつつ、ゆっくりと歩いていった。
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