第5話:俺とオレの違い

「めっちゃ腹減ったな……」

「昼は何も食ってないからな」


 ランジェリーショップを出てから、空腹を満たすべく、飲食店を探して商店街を歩き回っていた。

 さて、どこにするかな……


「おっ、アレにしようぜ」

「アレでいっか」


 視線の先には、某カツ丼チェーン店があった。比較的安価で腹を満たせるので、何度も通っている。

 両隣も飲食店だったが、「アレ」と言っただけで晴子にも通じた。

 さっそく店内に入り、食券を買った。ガッツリ食いたかったので大盛にした。晴子も同じ大盛を買ったみたいだ。

 二人で空いてる席に座り、店員に食券を渡す。そしてさほど時間がかからず、二人分の食事が出てきた。美味そうだ。


 既に俺は全部食べ終えているが、隣に居る晴子はまだ残しているようだった。


「おかしい……このくらいなら残さず食えたはずなのに……」

「晴子?」

「なんかこれ以上食えないんだよ……もう腹いっぱいだ……」


 あー……何となく分かった。


「もしかして女になったせいじゃね?」

「それだ。この体だと胃まで小さくなってるっぽいな」


 晴子も同じ大盛を注文していた。しかし女だという事を考慮せずに、つい男の感覚で大盛を注文してしまったのだろう。


「やっべ……もう無理だ……」

「おいおい、無理すんなよ」

「これ以上食ったら吐きそう……」

「だったらそれ俺が貰っていいか?」

「悪い……頼んだ……」


 食器を引き寄せ、晴子の分も食べる事にした。

 基本的には、出された食事は全部平らげることにしている。例え苦手な物でも胃に押し込む。残すのは俺の性分が許さなかった。それは晴子も同じだろう。

 そして全て食べ終わり。店から出る。


「さすがに腹いっぱいだ……大盛+αは食いすぎた……」

「すまん……オレのせいで……」

「気にすんな」


 その後、腹ごなしに街中を散策することになった。

 しばらく歩いていると、視界にはアイスクリーム屋が目に入った。食後のアイスも悪くないが……さすがに今は食う気にはなれん……


「…………なぁ」

「なんだよ」

「アレ食べないか?」

「えっ」


 アレというのはアイスの事だろう。いやしかし――


「さすがに今は食えないだろ。また今度にしようぜ」

「今食いたくなったんだよ」

「……は? お前さっき腹いっぱいって言ったよな!?」

「なんつーか……体が求めてる感じがするんだ」

「言っておくが、残しても俺は知らんぞ」

「たぶん大丈夫だ」


 そして、一人でアイスを買った後、美味しそうに食べている。

 信じられない事に、本当に溶ける前に全て食べきったのである。

 こいつの胃はどうなってるんだよ……。あれか、デザートは別腹ってやつか?


「あー美味かった」

「…………」

「なんだよ。全部食えただろ」


 俺ってこういう奴だったっけ?


「デパート行こうぜ。あそこなら休める所あるし、涼しいし」

「……そうだな」


 その後、大型のデパートに向かう事になった。


 デパートに到着し、店内に入る。休日だけあって、大勢の人々が行き来していた。

 様々な店を見て回った。特に欲しいものが有ったという訳ではない。ただ腹ごなしに歩きたかっただけだ。

 ある程度散策し終えた時だった。トイレの案内板が目に入った。


「トイレ行ってくるわ」

「んじゃオレも」


 トイレのある場所へと近づいた時だった。

 いつも通り男性用・・・へと入ろうとする。すると晴子も着いて来たのだ。


「バカッ! お前はこっちじゃない!」

「へ? 何で?」

「晴子は向こうだ!」


 女性用と表示されている場所を指差す。


「あ……そういうことか」


 中身は俺とはいえ、今のこいつはどう見ても女性なのだ。さすがに男性用に来てはまずい。

 今の状況を知った晴子は、腕を組み、悩む様な表情をしている。


「そっか……これからはあっち側なのか……」

「何なら家まで帰るか?」

「………………」


 30秒程沈黙が続いた。


「……いや、向こう行くわ。どっちみち慣れないと駄目だろうし」

「が、がんばれ」


 ゆっくりと女性用へと近づき、目の前で立った。そして決心したような表情をし、中へと入って行った。


 用を足した後、外で待機しているが、既に5分は経過している。それでも未だに現れなかった。更に5分程経過したとき、ようやく晴子が出てきた。しかし、暗そうな表情をしている。


「お、おい。大丈夫か?」

「……大丈夫だよ。見慣れないものに手間取ってただけだ……」

「そ、そうか」


 あまり追求しない方がよさそうだ……


「とりあえず、さっさと買物済ませてから帰ろうぜ。な?」

「……そうだな」


 デパートから出て、近くのスーパーへと向かう事にした。最初は暗い表情だったが、歩いている内に次第に元気を取り戻し、スーパーに着く頃には元の調子に戻っていた。

 そしてスーパーで食材を買い込んだ。デパートで買っても良かったが、こっちのが品揃えが良く、何より安かったのだ。


 そしてその帰り道の出来事だった。家へと帰る途中で、後ろから声をかけられたのだ。


「……はる君?」

「「えっ?」」


 後ろを向くと、そこには小さな女の子がいた。

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