第2話:お前は俺で、オレはお前で

 今目の前に寝巻きを着ていて、女の姿をした自称俺が居る。

 うーむ、やはり信じられない。この女が俺だって……?

 もう少し確証が欲しい。しかし、どうしたら――

 あ、そうだ。こういう時は記憶を頼るしかない。いくつか質問してみて、本物かどうか判断してやる。


「なぁ。お互いに質問して確かめてみるってのはどうだ?」

「奇遇だな。オレも同じ事を思っていた」


 む。こいつも同時に同じ事を思っていた訳か、さすが俺――いやいや、判断するのはまだ早い。


「じゃあ、俺からな」


 さて、何を聞くかな。

 …………………よし決めた。


「今、俺の母さんは何していると思う?」

「……………………」

「おい、どうした」

「……母さんは4年前に亡くなっただろ」

「…………正解だ」


 確かに、母親は4年前に他界している。しかし、この程度なら知っている人は他にもいる。違う質問にすりゃよかったかな?


「んじゃ次はオレな」


 そう言って腕を組み、考え込んだ。そして、複雑な顔をしながら質問をしてきた。


「お前、犬は好きか?」


 ぐっ……こいつ何故それを……


「…………い、犬より猫派だ」

「好きかどうか聞いているんだ」

「………………」

「ほら、答えてみろよ」


 くそっ。正直に答えるしかないか。


「わかったよ……言うよ。犬は嫌いだ」

「何故嫌いになった?」

「ガキの頃に噛まれたのがトラウマでな……」

「正解だ」


 小さい頃に犬に腕を噛まれ、それがトラウマになっていて犬に対して苦手意識を持っている。

 しかしこれに関しては、極一部の人間しか知らないはずだ。


 その後も質問は続いたが、どれも的確に答えてきた。


「やっぱりお前は俺か?」

「お前はオレなのか?」

「…………」

「…………」


 信じられないが――この女の中身は俺らしい。容姿以外は全て俺と一緒だった。まるでクローン人間を見ている気分になってくる。


「ああ、そうだ。今のオレってどんな姿だ?」

「そっか。まだ見てないのか」


 立ち上がり、引き出しから手鏡を取り、手渡した。そいつは手鏡を受け取り、鏡を見た瞬間――驚きの表情を見せた。

 その後も、手鏡片手に表情変えたり、ポーズ取ったりしている。

 そして真剣な顔をしてこっちを見た。


「確信したわ。やっぱオレはお前だ。間違いない」

「……随分と自信たっぷりだな」


 今まで以上に自信満々な表情をしている。一体何があった?


「まぁ、見てなって」


 そいつはゆっくりと立ち上がる。そして――ニヤリと笑った。


「こういうのが好きなんだろ?」


 そう言うと、髪をかき上げ――なびかせた。

 サラサラとした長い髪が、綺麗に宙を舞う。その光景はとても絵になっていて、映画のワンシーンの様だ。

 そんな光景に目を奪われてしまう。仕草一つ一つが俺のツボを得ていた。


 更に、そいつの容姿も自分好みだった。

 腰まで届きそうな長い黒髪。整った顔つき。大き過ぎず小さ過ぎない丁度いいサイズの胸。腰のライン。

 まるで妄想を具現化したかの様なスタイルは、全てが理想的だった。街中で似たような女性が居たら、間違いなく目で追ってしまうだろう。

 なるほどな。確信したのはそういうことか。確かに今のこいつは、これ以上ない程の好みのタイプだ。


「理解した。確かにお前は俺だ」

「だろ?」


 信じられないが、やはりこいつは女になった俺みたいだ。

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