第9話 波野雪花はあれこれ考える

 換えたばかりの室内灯が煌々と灯る自室に雪花は入った。

「良かった、近所の人ってだけで」

 ふいに口をついて零れる。同時に、床に腰を下ろし、洗って乾燥機にかけたサワから借りたティシャツとジャージをたたみ始めた。

サワを謙吾のいい人だと勘違いをした時の鼓動の高まりや、ほっと一安心にクールダウンした感覚が蘇る。集中豪雨を受けたとはいえ、CDは渡せた。明日も洗ってもらった制服を取りに行く&借りた服を返しに行くという口実で、謙吾の家の前を通ることができる。

 ――もしかしたら、たまたま玄関から出てくるかもしれないし、何か用事をつけて家に行こうかな。けれど、CD渡した昨日の今日で、またってのも怪しく思われるかな

 思いがうたかたに浮かんでは消える。手にしたサワのティシャツ。掲げて広げる。首元がいささかよりも緩い感じだと改めて思った。

 ――もしかして、龍宮くんは、お風呂上りの私を見て……どう思ったかな。ドキドキとか……してたりして。この首元なんかが……

 ティシャツを見ただけで想像が頬を熱くしていく。

 謙吾の家の前から自転車を滑らせた時、何度も振り向こうとしていた。

 ――振り向いて龍宮くんがいなかったらさびしいけど、それは無理もない。でも、見送ってくれるくらいは。でも、火照って、何よりうれしくって緩んだ顔になっていたら……そんな表情を見せるわけにはいかなったし

だから、ペダルを漕ぐスピードが尋常でなかった。

 ――早く明日にならないかな、楽しみだな

 たたみ終った衣類を白色のビニル袋に入れ、講習の復習のために机に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る