第21話 これから

 

 何だろう?あの不気味な笑いは?僕は首筋に寒気を感じた。


 その男はまたもナナヨさんに助言をした。

「騙されてはいけませんぞ。奴の話など適当な嘘です!語るだけなら何とでも捏造出来ますゆえ……」


 まあ確かに。イグの話を今更証明することはほぼ無理だろう。――あ!でも。……ここで僕はある事を思いついた。


「確認したいんだけど、君が魔術師の長だよね?」


 僕は先程からナナヨさんにイグの危険性を繰り返し伝えている魔術師達のリーダー格の男に尋ねた。


「そうですが?……」


 シュッ――バクーッ!!


 その答えを聞くやいなや、僕は超高速で男を足元まで一気に飲み込んだ!!それは恐らく今までの「のみこむ」の最速記録を更新したであろうとんでもない速さだった!


 それから僕はいつもの「のみこむ」の通り、その男の全身に舌を這わす。もちろん僕としては物凄く不本意なことではあるけれど、これで真実が判明する。


 今飲み込んだ男が本当にただのであれば、僕は物凄い嫌悪感と共に拒絶反応が起きてすぐさま吐き出そうとするはずだ。

 かつて一度だけ僕は男を飲み込んだ事があった。初めてその人を見た時、見た目は完全に女性だったが実際は男だったという稀有な例だ。

 僕がその時受けた精神的ショックはイグに転生して以来最も大きなものだった……。出来るならもう二度と味わいたくない!そう思いながら男の全身をペロペロする。

 出来れば人間じゃないパターンを望むぞ!


 アルティーナもライラもバダガリ君もナナヨさんも、皆が僕の口内に視線を注いでいる。




 ――そして結果を言うと、僕の身体には拒否反応が一切出なかった!……つまり、口内の生物は人間ではなかったのである。

 そして僕の口の中でもがいている生物は最初は無言だったが、途中から恐ろしげな唸り声を上げ始めた!!



「ウゥゥッグルルルルル……!」



「えっ、何この唸り声!?」


 その明らかに人間のものでは無い声に皆は驚きの表情を浮かべる。

 僕は皆にもわかりやすいように口内の男の姿を説明した。



「おや?君、額に大きな角があるね?あとそんなに大きな牙に長くて太い爪……これは獣人……その中でもかなり強い種族のようだね」



 僕の落ち着き払った態度で説明したことが頭にきたのか、その口内の魔物は人に擬態する事を止めた。

 というよりそんな余力は無かったと言ったほうが正しいか……。


「グオオオオオ!皆の物!この不埒で邪悪な蛇を殺せっ!殺すのだ!!」


 僕の口内からでも辺りに響く程度に大きな声で、(おそらく擬態しているであろう)他の魔術師達に向かって叫ぶ獣人!


「ちょっとお腹すいたなー。君が人間じゃなくて食べやすい魔物で良かった。頂きます!」



 ゴクン!



 僕はその獣人を今度は口内から食道に押し込んだ。


「ギャアアアアアアア!」


 一瞬で胃まで送られた獣人君はほとんど数秒で僕の超強力な胃酸に溶かされ叫び声とともに消化された。



 その時僕が周りを見回すと、大勢いた魔術師達は凶暴な獣人系のモンスターへと姿を変えていた!!


ゴブリン、オーク、オーガ、他にも色々な種類の人族の魔物達……。これはちょっとした戦いになりそうだ!

 彼らは今まで人の姿でいた事で我慢していたのだろうか、その恐ろしい計画を口走った。


「ぬうう、聖魔法でイグを無力化させ、町の住人を奴隷にしてするハズだったのだが……」

「しかし今のイグは不完全で本来の力が出せぬはず。こちらは数の多さで有利!叩き潰してやろうぞ!!」


「オラアアアアアア!!」


 獣人達が本性を現すとすぐさま突っ込んでいく者が一人、名前を言うまでもなくバダガリ君である。



 ドゴゴゴッ!!



「ぐあああ、なんだこの男は!?強いぞ!」

「ふははははははっ!存分に暴れられるこの時を待ってたぜぇー!!うおおおおお!!」

「だが一人だ。皆で囲んで叩けー!」


 バダガリは敵の集団に躊躇なく突撃していく。後のことは恐らく一切考えていないだろう。うん!


「アイツ、……絶対後で袋叩きにされるパターンだよコレ!もう、バカ」

 ライラはしょうがないなーといった風にバダガリ君を取り囲む獣人達に向かっていく。僕はアルをチラッと見た。


 するとアルはしっかり魔法の詠唱をしていた。うん、成長してるねー!


 ライラは体格の小さいゴブリンやゴブリンマジシャンを一撃で倒していく。

 やや大柄なオークやゴブリンチャンピオンなどは相手に大振りで攻撃させ、その隙をついて急所の首や足の腱などに蹴りを打ち込みゆっくりと確実に仕留めていく!

 ライラは冷静に周りの状況を見ながら戦う事が出来ている。いいぞー!


 一方アルティーナも相手の中の魔術師タイプの獣人を中心に土系と炎系の魔法で攻撃しつつライラやバダガリのサポートも行っている。素晴らしい!成長度合いはアルが一番大きいかな。


 ――あれ?そういえばさっきからナナヨさんの姿が見えない。どこ行ったんだろ?

 僕が不思議に思っていると、目の前の獣人族達がなんと同士撃ちを始めたのだった!


「グオオオオオッ!」

「ギェアアアアッ!!」


 阿鼻叫喚の叫びが聞こえる。


「ええ!?……何コレ?」


 その答えはナナヨさんだった。


 ナナヨさんはバダガリ君よりも敵陣の奥に立っていて、見たこともない色のオーラを纏っていた。ナナヨさん、それ何??

 するとナナヨさんはグチをこぼすように言った。


「まったく……、イグを消滅させるために無償で手を貸しますと申し出て下さった時は感謝いたしましたのに、まさかの結末ですわね……」


 それからナナヨさんは薄く笑って怖い事を口ずさんだ。

「最初から私があなた達を操っておけば良かったのでしょうか?……このように……」


「ギャアアアアアアッ!!」

「ギョオオオオオオッ!!」


 ぼ、僕は恐怖した。ナナヨさん、その……洗脳魔法を使ってるんだと思うけどソレ、なんか邪神よりも怖い気がするんだが……。僕はいつの間にか自分も洗脳されるんじゃないかという想いで身がすくむのだった。でもすぐさまこういう考えに変わった。


「ま、でもナナヨさんに洗脳されるならそれもまた良いかもー!」


 相変わらず僕は呑気だった。



 ――そんなこんなで、この広場で立っている敵の獣人は一匹もいなくなってしまった。そこで僕はある事に気付いた、あれ?このメンバー強くない!?僕を入れなくてもAランク程度の実力はありそうだが……。


 そんな事を考えていると、散らばっていた皆が一旦僕の元へと集まってきた。

 そしてナナヨさんがまず心底申し訳なさそうな顔をして僕|(……というよりイグ)に謝ってきた。


「イグ、ごめんなさい。あなたの言う事、信じられなくて……」


 対して僕の中のイグが答える。


『フン。言っておくが我は我が領域を守る存在であって貴様ら人間の事を庇護するつもりは全くない』


「またまた〜。さては照れているね?イグ君?」


 僕は親しみを込めて馴れ馴れしくイグの魂に話しかけたところ、もちろんイグは激怒した。


『お、お前だけは許さんぞ……!他の神が攻めてきてももう助けてやらぬ!!』


 それ以降イグは言葉を発しなくなってしまった。


「うーん、イグ君と友達になろうとしたんだけど、なんか彼いつもツンツンしてるんだよね……」

「いや、怒りの原因の99%はお前だろ!」


 バダガリ君に端的に指摘される。君は普段頭おかしいクセにこういうところはちゃんと常識的な見解を示すから不気味なんだよね。


 ナナヨさんを見ると悩ましげに息を吐いていた。

「でも……、タローは今の大蛇の体しかありません。もし他の人間に転生出来れば良いのですが。相手側の都合もあるでしょうし簡単にはいきませんね……」


 それを聞いたアルは悲鳴にも似た叫びをあげた。


「ええー!?ヌメタローさんの中の人がいなくなっちゃうの私嫌ですっ!今のヌメタローさんの魂がそのまま入ってて欲しいですー!!」


 アルは僕の首元に抱きついて泣いている。泣き顔も可愛い。

 それを見ていたライラも同じような事を言った。


「私も今のヌメ師匠だから一緒に行動したいなって思ったんだよね。だからもう転生して欲しくないなー」


 うーん、嬉しいといえば嬉しいんだけどねえ。


 そしていつものようにバダガリ君は独特の意見を述べるのだった。

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