第十六話 三馬鹿は多分ボスっぽい地竜さんにも容赦しない
地竜と呼ばれる竜が存在する。
亜竜種に属する翼を持たない竜であり、また亜竜であることから知性も動物と大差ない。多少の賢さはあるが、あくまで動物の範疇を出ることはなく、当然人の言葉を話すことはない。これが真竜種となると人を遥かに超える知性を見せ、人語を介して人と関わることもあるのだが、そこは割愛する。
竜の階位としては飛竜と並んでいて、
まず巨大な体躯はそれだけで生物として上位であるし、それに伴う重量と筋力は即ち破壊力に繋がる。そして身体を用いた攻撃が多いことから当然、頑健になって凄まじいほどのタフさも見せる。竜種であることから外皮も強靭な鱗によって守られており、頭部に備えた二本角や岩すら砕く牙と顎はあらゆる下位生物をものともしない。
現代人に分かりやすく、そして結論から言えば地竜とは意志を持つ重機そのものである。
剣や槍などを装備しただけの人間が、装甲板でガチガチに固められた自我搭載型のユンボやダンプに挑むとして如何にして勝つか。地の利を生かすか、重火器を用いるかだ。だが、地の利を生かすには相応の準備が必要となり今回は適さない。となれば重火器を用いるべきで、この世界で言う重火器は即ち魔法である。
とは言えそこは竜種。その鱗は魔法耐性を備えていることが多く、地竜もある程度の魔法を無効化する。これをぶち抜くには高魔力を込めた魔法か、長尺詠唱を必要とする上位魔法を用いるしか無い。
地竜は強い。そもそも生き物としての基礎スペックが違いすぎるのだ。とは言え勝てなくはない。魔導士を主軸とした編成を組んで、複数人で対抗すれば脆弱な人間でも勝機はある―――というのがこの世界での一般認識だ。
因みに、これらの対策は一匹だった場合の話だ。では今回のように地竜が百を超える群れだった場合はどうするか。
基本的に詰みである。
対抗するには最低でも軍団規模の軍が必要で、それとて入念に準備した上でないと戦略的な意味での全滅を覚悟しなければならないだろう。台風や津波などの災害とさして変わりなく、戦う力を持たない一般人に出来ることは精々それが通り過ぎるのをじっと待つことのみ。それほどまでに脅威であるのだ、地竜の群れというのは。
脅威である―――はず、なのだが。
「あーらよ地竜一丁!―――あー、さっきラーメンの話ししたからか、久しぶりにラーメン食いたくなってきたわ………」
レイターが聖武典に馬鹿みたいな量の魔力を
「くっくっくっく………ふははははは………はぁーはっはっはっは!
「何か野郎どもがはっちゃけてますわねー。ジオとか後で素面に戻ったら恥ずかしくて寝込むんじゃありません?―――あら?今度は地竜の目玉ですの?貴重な素材ですわねー」
マリアーネはそんな二人を眺めながら、配下である影の獣達に無傷の素材を集めさせて検品していた。地竜の内臓やら何やらをニマニマご満悦な笑みで眺めているので魔女のようだ、と避難民達は思った。
地竜の脅威ってなんだっけ?と避難民達がこの世の不可思議に直面して、背景を宇宙にして瞳のハイライトを失っていると地竜達は程なく三馬鹿の手によって狩り尽くされた。
そして最後に残ったのは一等巨大な地竜―――群れのボスである。全長60メートルを超えるその地竜は最早タワマンサイズなのであるが、そんな巨大な地竜さんは目の前の理不尽に理解が及ばずプルプル震えるばかりである。
ほんの数分前まで圧倒的優位にあった自分が、何でこうも窮地に立たされているのかと考えが追いつかず、しかしどうにもまずい状況なのは理解したようで即座に回頭、ドタドタと地震でも起こしているような騒々しさで撤収を図るが―――。
「ふむ。逃げる気かね?全くこれだから美学も矜持もない魔物は見苦しい。竜としての誇りがないのならば、人前に姿を現すべきではないだろうに。―――マリー、手を貸せ」
「さっきからその妙に背筋がぞわぞわする喋りは気になりますが、よくってよ」
「ではさっさと仕留めるとしよう。―――
三馬鹿が食材を見逃すはずもなかった。ジオグリフの言葉とともに、強烈な重圧が地竜に降り注ぐ。上級に分類される重力魔法なのだが、地竜さんにはそんなこと知るはずもなく、突然自分の体が支えられないほど重くなって大地に這いつくばる。
「もう、埃が立ちますわ。お行儀よくしなさいな」
ジタバタ足掻いていると、今度はマリアーネの指示で影の獣達が地竜さんの身体に噛み付いた。そして影の獣達は自身を影の鎖へと変貌させて大地へ固定。まるでガリバー旅行記の一幕のような体勢で地竜さんは身動きが取れなくなった。
「仕留めろ。レイ」
「応ともさ」
そしてジオグリフの指示を受けて、レイターがふるふる震える地竜さんへと近寄る。
「なぁーに今更ブルってんだよ。力及ばず食い物にされるのは世の摂理だろ?俺も、お前もさぁ………!」
手にした聖武典が輝きを放ち、天を突かんばかりに拡大、伸長した。タワマンサイズの地竜を斬るのだ。ならば同じサイズの剣が必要、とレイターは判断して剣を巨大化させたのだが―――何故か出てきたのは巨大な鮪包丁であった。
重ねて言うが、鮪包丁である。どう考えても活き締めには向いていない。
それを見て、ジオグリフとマリアーネはゲラゲラ指差して笑っていた。
何でこの大事な場面で鮪包丁なんだよせめて出刃包丁か骨切り包丁だろうが、と憮然としたレイターだが、でもまぁもうぶっちゃけ戦いというよりは解体と変わらんか、と判断して諦めた。そして怯えた瞳でこちらを見る地竜さんにイイ笑顔を向け―――。
「チェスト―――!!」
まるで断頭台が如く、振り下ろされた鮪包丁が地竜の首を容易く撥ねた。
●
その様子を眺めていた『霹靂』の面々は避難民と同じく言葉を失っていた。
「マジかよ、あいつら………」
「嘘だろ、おい………」
「ねぇ二人共………これ、銀等級より強いよね………?」
ミラの自信なさげな声にラルクとアランは首を横に振って。
『地竜の群れを単独パーティで狩るとか白金等級並だよ!何でアイツら黒鉄等級なんかやってんだ!!』
等級詐欺かよ!と世の理不尽を嘆いた。
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