ほんの些細な……世界への抵抗というやつだ。


「……解毒剤を、自分に使わないで……わたしに使ったってこと?」


 またもや泣きそうな顔での質問。


「いやいや、一応自分でも使ったよ?」


 解毒魔術を、というのは黙っておく。


「ただ、毒に耐性を持つとどうしても薬は効き難くなっちゃうからね。そんな感じなんじゃない? 体質にもよるし。あ、ちなみにわたし・・・。性格的なアレだけじゃなくて記憶もところどころ欠損ありで、君に迷惑とか掛けちゃうかも。そのつもりでよろしく~」

「アンタはっ!? なんでそんな重要なことを先に言わないのよっ!? こんのっ、馬鹿ツェーンっ!?」

「あははははははっ……」

「全っ然笑い事じゃないでしょーがっ!!」

「ごめんごめん」


 と、謝ったのに、なぜか余計にブチ切れたノインに懇々こんこんとお説教を食らった。


 まぁ、彼女も以前よりは感情の起伏が激しくなっているような気がするけど・・・元気そうでなによりだねっ☆


 解毒の魔術がちゃんと効いて、間に合って……ノインが、ゲーム内の『暗殺者』のように感情を失くして、命令に忠実な傀儡状態なんかにならなくて、本当によかった。


「・・・それで、これからどうするつもり?」

「これから、か・・・」

「アンタ、まさかノープランとか言わないでしょうね?」

「いや~、ほら? 孤児の未成年で、真っ当に・・・・稼ぐ手段なんて限られて来るでしょ」

「・・・そう、ね」


 どんよりと顔を曇らせるノイン。なにを考えてるんだか? 全く……


「というワケで、ギルドに登録して冒険者にでもなろうかと」

「え?」

「折角、組織抜けて逃げてんだからさ。わざわざまた裏家業することもないでしょ。幸い……と言っていいのかはわからないけど、わたしと君はそこそこ身体能力が高い。なら、チャレンジしてみるのもいいんじゃない? って思ったけど、わたし・・・と組むのは嫌かな?」

「っ……そんなワケ、ないじゃない」

「それじゃ、名前。新しく決めない?」

「え?」

九番ノイン十番ツェーンって、番号なんかじゃない名前をさ。あ、元々の名前があるなら、君はそれ使ってもいいよ?」

「そ、それじゃあ・・・カナリア、なんかどうかな? 可愛いと、思わない?」

「・・・」


 ふむ、ここでそう来るとは思わなくて驚いた。


「えっと、カナリアって変な名前だったり……する?」


 わたしの沈黙に、彼女の眼差しが不安げに揺れる。


「ううん。『カナリア』、ね……悪くはないと思うよ? でも、そうだね。カナリヤ・・・・、にしてみない?」

「? なんで、ヤなの? 大して違わなくない?」

「ん~……ほら? 名前、『カナリア』の愛称呼びでリーアよりもカナリヤ・・・・のリーヤの方がわたし・・・が言い易いなぁって思って」


 まぁ、ノインが『カナリア』という名前を自分に付けたいというのであれば、それはもしかするとシナリオの強制力なのかもしれない。わたし・・・が『カナリヤ』の愛称の『リーヤ』を推すのは、ほんの些細な……世界への抵抗というやつだ。ゲーム内では、カナリア嬢が愛称で呼ばれることは無かったし。


「愛称……で、わたしのこと呼んでくれるの?」

「勿論」

「じゃ、じゃあカナリヤにする! アンタは?」


 パッと嬉しそうな笑顔になる彼女。


「う~ん……そうだねぇ……」


 これから先、ノインが『カナリア』の役割を負う可能性があるなら――――


「それじゃあ、わたしは『ハラリエル』ということで」


 わたし・・・も、一緒に背負うことにしよう。


「ハラリエル? なんでまた、そんな名前を?」


 きょとんと首を傾げるノイン……リーヤに、にっこりと笑みを返す。


「愛称はハリーかハル、ハラルってとこかな?」

「わ、わたしもアンタを愛称で呼んでもいいのっ?」

「うん。どれが呼び易い? 呼び易いので呼んで」

「ハリー……ハル……ハラル……ハリー? ハル? ……う~ん。え~っと、それじゃあ、えっとね、ハル!」

「ふふっ、これからよろしくね? リーヤ」

「よろしく、ハル!」


 と、ノイン改め『カナリ』ことリーヤと、ツェーン改め『ハラリエル』のハルとして、わたし達は冒険者登録をすることにした。


 やっぱり、二人共『暗殺者候補生』で基本スペックが高いせいか、あっという間に初心者階級を卒業。


 同業者のやっかみや嫌がらせもなんのその。暗殺者訓練のがキツくて死ぬ思いを何度もしたし。リーヤなんて、同業者の嫌がらせにほとんど気付いてなかったくらいだ。


 どこぞの冒険者が猛毒の蛇をわたし達へのプレゼントだとニヤニヤ面で持って来たときなど、リーヤは笑顔でお礼を言ってスパンと鷲掴みにされた頭をナイフで切り落とし、落ちる胴体をむんずと掴んで、


「見て見てハル~! 親切な人におかずもらった~! 捌いて食べよう!」


 と、ビチビチ活きが良く動く蛇(頭無し)を振り回して喜んでいた。冒険者の男はドン引きしていた。更にリーヤは手を差し出し、


「頭はくれないんですか?」


 いい笑顔で聞いて、更にドン引きされていた。


 ちなみに、猛毒の蛇の頭は毒腺の方も有効活用させてもらった。医療ギルドや錬金ギルドに持って行くと、血清や新薬の素材として良い値段で買い取ってもらえる。普通に毒物としても使えるし。


 他にも、夜営に丁度いいという場所を教えられ、そこでキャンプをすると夜盗の襲われたりなど。


 無論、返り討ちにして賞金に替えてやった。リーヤは、夜営場所を教えてくれた人にあそこの賊はいいカモだったと、教えてくれてありがとうとお礼をしていた。男は青ざめた顔で逃げて行った。


 嫌がらせに気付いたわたしが、軽~くやり返しておいた。例えば、どこどこの誰々って人が「ルーキーに命の危険に関わるような嫌がらせをしている」や「ルーキーを潰すために、盗賊と手を組んでいる可能性が高い人がいる」なんてギルドにチクったり。


 パーティーを組んでいる野郎だったら、他の女性メンバーへ「あなた達のメンバーにこんなことされたんだけど……」と詳しく話し、「あなた達は大丈夫? 変なことされてない?」なんて親切に教えてあげたりなど。


 だってほら? そういうことして恨み買ってる人達と一緒にいて、無関係な人が闇討ちされちゃったら可哀想だし? 嫌がらせとは無関係なメンバーが去って、パーティー自体が解散しちゃったりとか?


 嫌がらせをした野郎は、一緒にいると危険、または素行不良な輩認定されて、ソロでしか行動できなくなり、段々と落ちぶれて行ったり。


 パーティー自体で嫌がらせをして来る連中には、ソイツらが受けそうな任務を先回りして受けて、連中よりも品行方正に振る舞って、連中の評判を潰したりとか。


 そしたらなんか、見た目美少女のクセに『パーティークラッシャー』だと噂され、関わるとやべぇ二人組だと言われているような気がしなくもない。


 犯罪は犯さず、真っ当に……ほんのちょっとやり返しただけなのに。なぜか恐れられている……ような気がする。


 ・・・解せぬ。

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