第34話 最後の雪の日

目が覚めるとベッドの横にある窓からは朝日が降り注いでいた。窓の外を見ると昨日降った雪が少し積もっており、キラキラと反射している。


「キヨト、眩しくない?」


僕は指を動かしてNOと合図した。本当は少し眩しかったけれど、陽の光を浴びていたい気分だった。


「昨晩はすごく雪が降ったんだよ。外は寒そうね」


うん。久しぶりの雪だね。

僕は雪の日はいつも暖かな部屋の窓から降り積もる雪を見ていたな。


雪と同じ名前のユキは元気かなーと、ふと思い出した。最後に会ったのは、もう一年位前だっただろうか。もしかしたら、もう会えないかもしれないな。

ユキの温かで優しいエネルギーを思い出した。


最近は自分で呼吸ができなくなってしまったから、在宅用の人工呼吸器を付けている。ご飯も口から食べられなくなったので、経管栄養で摂取していた。


在宅なんて母さんが大変かもしれないけど、僕は最後まで母さんの優しさに甘えてしまうことにした。


「苦しいところはない?」


僕はNOと指で答えた。でも、ダルさと眠気でウトウトと眠りの世界が僕を誘う《いざなう》。


最近はまともに意識を保っていられる時間がだんだん短くなっている。もう、このまま目覚めないかもしれないと思いながら、眠りにつくことも多かった。


でも、僕は死ぬことはそんなに怖くないんだ。もう随分前から死に対する覚悟できているからね。それに、僕は生まれる前の記憶もあって、魂はずっと続くことを知っているから大丈夫なんだ。


心配なのは母さんのことだった。母さんは僕が居なくなったらきっとすごく悲しむと思う。なるべく早く、僕がいない新しい生活に慣れてもらいたいけど、こればっかりは僕にはどうすることもできないんだよな。


ふと、思い出した。

神さまと約束したことを。


この人生で『どんなことも受け入れられる強い人になる』という望みは、クリアできただろうか?


――ちょっと振り返って自問してみた。


うん。たぶんクリアできたと思う。僕はこの人生を僕なりにしっかり楽しむことができた。だからきっと大丈夫だと思う。


神さまが言っていた『この人生を通して沢山の人に光を届けることができる』というのはどうだろうな。


これは今の僕にはちょっとわからないや。

今度、神さまに会ったら聞いてみようかな。




……どこまでも続く気持ちのいい青空の下、明るい太陽の光に照らされながら、彩り鮮やかなの美しい草花が咲き乱れるお花畑の夢を見ていた。


向こうの方で誰かが僕を呼んでいる。


その瞬間もう現実の世界には戻れないと悟った。最後に母にさよならを言えなかったことが一瞬頭をよぎった。でも、僕はアレを残した。だから大丈夫だ。


僕は安心感に包まれながら優しい光に溶けていった。

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