第6話 リフォーム

「何してるの? あ、テーブルの修理の相談?」


 絵梨が父・滋に問い掛けた。母の美鈴は厨房へ戻ってゆく。飲み物でも出してくれるようだ。


「修理って言うより買い替えだね。テーブルって言ってもいろいろあり過ぎてさ、業務用のカタログってこんなに分厚いんだよ。それにテーブルって内装の一部だからね、気に入ったからって店に合うとは限らんって、周防さんが」


 滋が厚くて重そうな冊子を指してボヤいた。すると周防カンナが口を開いた。


「ここのお店の内装は古くなってるけど、レトロって言うほどでもないからあまり凝ったものを選ぶと妙な感じがするのよね。合わせるなら内装ごと全部合わせなきゃ」


 隣で三咲が興味津々だ。


「あの」


 絵梨はおずおずと切り出す。


「『1卓』は捨てないで下さいね」

「ん? 1卓?」


 カンナが不思議な顔をする。三咲も怪訝な表情で絵梨を見る。


「ええ、一番奥の右側のテーブルです。私の勉強机なので」

「ああ、あれね。他と違うからてっきり物置台かなんかかと思った。ちょっと長細いもんね」


 滋が絵梨に微笑む。


「絵梨、高校の入学祝いもあげていないことだし、勉強机はちゃんと見よう。2階のどこかに置けるだろう」

「いや、そうじゃなくて、『1卓』がいいの。新しいのが欲しい訳じゃない。『1卓』で充分なの」


 カンナの瞳がキラリと光る


「そうか。『1卓』がキーアイテムになるかも知れないね。素材はいいなとは思っていたのよ。リフォーム案を『1卓』中心に描いてみよう」

「いや、そこまでしなくても…」


 絵梨は手を振って謙遜した。三咲が絵梨を突っつく。


「ねね、お店、リフォームするの?」

「あ、いや、テーブルが次々壊れるから、何とかしなきゃって話だったんだけど、スケールが大きくなってるみたい」

「そうか! それでリフォーム! 絵梨の勉強机がセンターになるのね」

「いや、それはどうかと思うけど…」


 リフォーム話に瞳キラキラの三咲に絵梨が困惑していると、


「えっと、垣内さんって言ったっけ? これ、飲んでいってね。カンナちゃんもね」


 母の美鈴がトレイを持って来た。絵梨は三咲に近くのテーブルを勧め、二人で座る。美鈴が二人の前にティーカップを置いた。またもや三咲の目が輝く。中の紅茶には桜の花びらが入っていた。


「うわー、これ何ですか? さくらティー?」


 美鈴はトレイを抱えなおすとテーブルにメイプルシロップを置いた。


「そう。ウチの名物なのよ。花びらは塩漬けだから、しょっぱいようだったらメイプルシロップを入れてね」

「すっごーい!」


 三咲はスマホを取り出してパシャパシャ写真を取り出した。絵梨は何だか恥ずかしくなった。


「桜の塩漬けなんて知りませんでした! 誰の発明ですか? 絵梨? お母さん?」

「いいえ、桜花の塩漬けはよくあるんだけどね、メイプルシロップとの組み合わせはお父さんよ」


 滋がガッツポーズを見せている。美鈴がそれをチラ見して付け足した。


「でもね、ウチの桜の木も、この頃花が減っちゃってね。1年分を確保しておくのは大変なの」


 やっぱり…。絵梨は頷いた。何だかお花も減ったしすぐに散っちゃうし、木も歳を取るとこうなるのかな。考えていると、


 ♪ カランコロン


と扉が開き、馴染みの顔が見えた。

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