マヤ ~episode 18~

 都総体予選は何とか切り抜け、女子も男子も決勝に進んだ。

予選では二中だったけれど、気持ちを完全に切り替えた私の弓道の成績は、右肩上がりだった。立で久しぶりに皆中を出したとき、タッキーは私に抱き着かんばかりで、流石にそれはセクハラになるからと先輩たちが慌てて止めに入った。私がスランプを抜け出したことは他のメンバーにも良い影響を与えていて、栗原のスランプ以外に怖いもんはなし、という空気感が漂っていた。こんなにも周りを不安にさせていたことを申し訳なく思うと同時に、私は弓道部の愛をもう一度深く噛みしめた。

「全員で十五中か。」

立が終わって奈々子先輩が言う。大前から順に四、三、四、二、二の十五中だった。

「例年ならいけますよね、インターハイ?」

美鈴先輩がタッキーに聞くと、タッキーが頷いた。

「前三人は全員三中以上で後ろ二人は羽分け以上、これが出来ればインターハイはいける。その後は厳しかもしれんが。」

それから先生は私の方を振り返った。

「栗原、おまえなら出来る。俺は、弓道部員は、栗原を信じている。」

「その通り。」

奈々子先輩が言った。

「それにたとえ負けたとしても、それは真綾ちゃんだけのせいじゃない。団体戦は誰かが、とかじゃないの。真綾ちゃんが安心して引けなかったとしたら、それは真綾ちゃんに絶対負けるはずがない!って思わせてあげることの出来なかった私たちの的中率にも問題があるんだから。」

「そうよ。」

美鈴先輩もにっこり笑って言った。

「真綾ちゃんが緊張しちゃうとしたら、それは私たちを信用していないってことになるんだからね。」

「はい」

私は大きく頷いた。

「このメンバーは、私にとって最高のメンバーです。心の底から、信じています。私たちなら、絶対優勝できます!」

「ん」

タッキーも大きく頷いた。

「それじゃ、七時まで射込み。その後もう一回立入れるぞ。」

「「はい」」

「なんだかワクワクするね。」

楓が私の隣に来て言う。

「こんな夜遅くまで練習だなんて、合宿みたい。」

「そうだね。」

私は電気のついた矢道を見つめて言った。今日は都総体前最後の土日の練習なので、外部道場を貸し切って選手のみ、夜遅くまで練習しているのだ。

「それにしても、真綾がもとに戻ってくれて良かったよ。」

楓が矢を取り出して言う。

「スランプを乗り越えられたのは、真綾が強いからだと思う。」

楓が真剣な表情で言う。私は微笑んだ。

「ありがとう。」

気を引き締めて的前に向かう。私に後必要なのは、自信だ。練習では一本も外さないよう心がけ、これだけ中っていれば本番でも外すわけがない、と自分に思わせることが必要だ。

全国大会一位を獲得した、伝説の明日香先輩の連続的中数の記録を塗り替えるぐらいの気持ちで引こう、と私は気を引き締めた。


 都総体の前日、私たちは一つの大きな円陣を組んだ。部長が私たちに向かって言う。

「今まで、皆真面目に練習を積み重ねてきました。このメンバーなら絶対インターハイに行ける。伸び合いを忘れず、それぞれが自分の思う最高の射をして、この十二人で広島に行きましょう。絶対優勝するぞ!」

「「おー!」」

私たちは体を起こし、お互いに向けて拍手をする。私はバシリ、バシリ、と背中を二度叩かれるのを感じた。まーくんと真央が私を見てにっこりと笑っている。

「他校のやつらをぎゃふんと言わせてやろうぜ。」

まーくんがニヤッと笑った。私は二人に向かってハイタッチのポーズをとる。

「当たり前じゃん。」

私の両掌が、力強く叩かれるのを感じて、私もにっこり微笑んだ。

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