第10話 身近なもので比べると

「イスラエルとパレスチナとして、関係が始まっていくのはここからだけど、ここまでを見たところで一つ触れておきたいことがあるの。アラブ側の歴史観というものね」

「歴史観?」

「例えば、日本に関して言えば南京大虐殺とか従軍慰安婦問題なんかがそれね」

 非常にセンシティヴなテーマだな。


「これらについて、結論は置いておくとして、それぞれの国でどういう意見状況かを考えてほしいの。日本は色々な意見があるわね。韓国は日本ほど自由じゃないけど意見自体は複数あるし研究もされているわ。中国は表向きの意見はほとんど変わらないけど、研究はしているし国家主席が変われば若干の変化はあるわ。北朝鮮は全く変わらないわね」

「北朝鮮は体制が変わらない限り、変化がないだろ」

「これをイスラエルとパレスチナにあてはめた場合、それぞれがどこになるか。おそらく、アラブ側は北朝鮮で、イスラエルは韓国くらいでしょうね」

 確かに北朝鮮は金王朝みたいなものだが、アラブ地域も王国のようなところが多いな。体勢が変わらない限りというのはアラブ諸国にも言えるわけか。


「アラブとイスラエルの在り方については、ここまで見てきた通り、どちらにも大きな問題があるわ。でも、それを多少なりとも認識しているイスラエルと比べて、アラブ側は認識すること自体を放棄しているの。これはユダヤ教とかイスラームという問題ではなく、国家体制の違いによるものね。宗教が理由ではない、という素晴らしい例として北朝鮮が東アジアに存在しているのよ。イスラムが、ユダヤが、キリストが、と頭に来そうになった時には、落ち着いて北朝鮮のことを思い出せばいいわ」

「いや、北朝鮮はそのために存在しているわけではないと思うが」


「不思議なことに、日本周辺の問題では中国や北朝鮮を批判しておきながら、イスラエルとパレスチナの問題になると、何故か無批判にアラブ側に立つ人が多いのよ」

「あまり深く考えていないだけだと思うけどな」

「イスラエルとパレスチナの問題は世界中の関心事だけど、日本の第二次大戦のことなんて大半の国にとってどうでも良いことだわ。アラブ側の可哀相な話に立つのなら、日本の問題に関しても可哀相な話に立つべきよ。それが嫌だと言うのなら、少しでも自分達の主張を受け入れてもらいたいのなら、多角的に分析する立場を推奨すべきだと思うけどね」

『そこはほら、ミサイルとかで殺される人達がいるし』

「北朝鮮にも飢えで死んでいる人達が沢山いるという話よ。日本も韓国もそういう人達に分け与えられる食糧を持っているけれど、政治的な理由で与えていないのではないかしら? そこはイスラエルと同じなのよ。ミサイルで殺すのはダメだけど、餓死させるのはOKという理屈でもないでしょうしね」


 自国の問題で考えると、可哀相とかそういうのとは違った問題も見えてくるということか……

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