第25話

「ハクライ、少しいいか」

 その日の夜、珍しく茶髪の人物は男の部屋に顔を出した。滅多にない行動に、尋ねられた男は切れ長の目を瞬きして、間をとって答えた。

「……どうしたの、ミズミから俺の部屋来るなんて珍しい。しかも夜」

 言いながら部屋の中に入るよう促されれば、素直にミズミも中に入る。案内された部屋はやはり王の寝室同様、殺風景でただ広いだけの部屋だ。部屋の真ん中に机が一つと椅子が二つ、天蓋はないベッドに、壊れかけの棚が一つ、その棚には特段何を置くでもなく、本が数冊積まれているだけだ。机の上に明々と燃えるろうそくの火がある以外、特段光源もない。

「すまないな、寝るところだったか」

 部屋の様子に気が付いて少しばかり気を使う相棒に、長髪を揺らして男は頷いていた。

「うん、そろそろ寝ようかなーって。どうしたの、こんな時間に俺に何の用?」

 本気でそこが疑問らしい男はベッドに腰掛けて首を傾げている。

「……あ、もしかして、俺と一緒に寝る気が」

「ないに決まってんだろ」

 男が少しばかりの期待を込めて言う言葉は最後まで言うことも許されないまま、冷たい声に遮られる。

「やっぱり。ちょっと期待したかったんだけどなー」

 そう言ってベッドに既に横になる男に視線を向けながら、茶髪の人物は机によりかかるようにして部屋の主の正面の位置に立つ。

「ハクライ、昼間の話を少ししてもいいか」

「昼間の話? なんか話してたっけ?」

 闇族王の呼びかけに本気で会話を覚えていない男は、首だけあげて瞬きしている。そんな男に緑色の瞳を細めて、相手は答えた。

「たしか……お前の夢……みたいな話だった気がするが。結婚して子どもを持つとか」

 たちまち、ああーなどと言いながら体を起こして、前かがみに座り込む男の顔は無邪気に微笑んでいた。

「その話か。うん、いずれは、なんてずーっと思ってた事。あれ? ミズミも興味あるの?」

 相棒に話を振る男に、茶髪の下で目を細めるようにして王は視線を外す。

「俺は……いや……。それより、どうしてそんなことを思ったのか、と思ってな」

 その問いかけに、長身の男は珍しくすぐには答えなかった。その間を不思議に思って視線を向ければ、バッサリと切った前髪の下で穏やかに微笑む男の顔があった。

「……俺の父さんと母さん、一緒だった時幸せそうだったから。俺もそうなりたいって、なんとなく思ってただけ。叶えば、だけど」

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