第2話


 カラスは羽根でぴょんぴょんと器用に跳んで、手のような脚も使って素早く城の入口に向かった。黒い石で作られた城は長い年月による劣化と、過去の扱いの酷さ故に痛みも激しく、所々床も壁も欠けていた。そんな廊下を素早く駆け、城の扉の前、煤けた赤い絨毯の上で、カラスは姿勢を正して王を待った。

 闇族の王となるくらいだ。おそらく大男か、凶暴な男か、もしくはずる賢い男か……何れにせよ、恐ろしい姿であろうことは想像できた。固唾を飲んで黒い城の黒い金属製の扉を睨んでいると――

 扉が軋む音と共に両開きの扉の片方が押し開けられ、そこから王が姿を現した。王の証である「ガイアサンジス」という揺らめく石を首につけ、今しがた入ってきたばかりの城を見上げるのは、茶髪をサラサラとこぼす色白の人物。その上体つきは細く、扉を押し開けた手は女性のように指も細く美しい。天井を見上げるようにして上に向けているその顔は、まさに彫刻のよう。わずかに弓を描くキツめの眉、通った鼻筋に形の良い唇、上を見上げてサラリと溢れる茶色の髪の隙間から見えるのは、長いまつげに縁取られた緑色の垂れがちな瞳。――そう、現れた人物は、カラスが想像していた姿とは大きくかけ離れた、驚くほどの美青年だったのである。

「あ……貴方様が……今回の闇族王であらせられますか……?」

 困惑の気持ちから、かろうじてそれだけ問いかければ、茶髪の隙間から緑色の瞳を向けられた。正面から見ても綺麗な顔立ちだ。思わずぱちくりと瞬きするカラスに、目の前の人物は訝しげに目を細めた。

「……いかにも。今回このガイアサンジスを手に入れたのは、この俺だ」

 低すぎず高すぎず、どことなく中性的な雰囲気を感じるその声は、今の質問に不機嫌そうな色が現れていた。それを察した老人は、慌てて腰を折るように頭を垂れた。

「申し遅れました。私、代々闇族王に仕えております闇烏の一族でございます。貴方様には、この私がお仕えいたしますので、何なりとお申し付けくださいませ」

 その言葉に、頭を垂れたその上からため息のような音が聞こえた。

「……見たところ……かなりの高齢だな。じいさんか? ばあさんか?」

「は、はい。性別は一応オスでございますゆえ……」

「そうか、ではじいさんか。……じいさん、何だか随分怯えているな? 安心しろ、いきなり初対面の従者を襲うほど礼儀知らずではない」

 主のその言葉に心底ホッとして顔を上げれば、口の端を歪めて笑う緑色の瞳と目があった。少々意地悪い笑顔ではあったが、それでも薄っすらと笑うその顔は美しく、思わずカラスも見惚れてしまうほどだった。

「俺の名はミズミだ。この城を今後使っていいとのことだったから来てみただけだ。使い勝手もよくわからんから、じいさん、折角だ。世話になるぞ」

 思ったよりも穏やかな挨拶に、年老いたカラスはほっと安堵から胸をなでおろしていた。

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