第25話 【金貨投擲】瞬殺の姉

 急に変わった舞台と突然現れたデュラハンに硬貨拾いを中断し、大きな金貨を両手で構えたおねえちゃんは、その金色に輝く兜を見て緑の目を輝かせた。


『おっきな金の兜だよ~!』


 確かに大きな金の兜だけど、デュラハンの一部っぽいしダンジョンをブレイクしたら消えちゃう気がするよ。おねえちゃん。


 そんな俺の心の声が届くはずもなく、やる気満々になったおねえちゃんはちょっと歪んでしまった巨大金貨を両手で持つと相手に向け、第一試合と同じく宣戦布告の構えだ。


 威勢のいいおねえちゃんの行動に、鎧騎士姿のデュラハンも負けじと黄金ヘルムをおねえちゃんの方に向けた。


 そんな両者のパフォーマンスを他所に、ぞろぞろと小鬼の集団が自分と同じ大きさのものを抱えて巨大なテーブル状に変化した舞台に乗り込んでくる。


 暴動だろうかと思っていたら、抱えているのは縄でぐるぐる巻きにされた小鬼!?


『なるほど、なるほど! 配置するコインの代わりに小鬼を並べた訳か!』

『かなりボロボロね。鎮圧された暴徒が連れてこられたのかも。体のいい処刑ね』


 ローズとアルテの言葉を聞いてグルグル巻きにされた小鬼を見回せば、確かにその姿は装備がボロボロになっており、くたびれている。更に一定の間隔で転がされているので、コイン代わりというのも間違いではなさそうだ。


 先程の試合で流れ弾に巻き込まれて一番ボロボロな審判役小鬼は、おねえちゃんの巨大金貨とデュラハンの黄金ヘルムに緑の光を当てると、素早くテーブルの端まで逃げて行った。


 あんまり流れ弾を貰ったらやられてしまいそうだし。妥当だ。


 情けない審判の様子に腕を組んで呆れを表現したデュラハンは、先行は貰ったと黄金のヘルムを振りかぶり床に転がる小鬼目掛けて投げつける!


 明らかに上位の魔物からの情け容赦のない投擲により、一撃で倒されたらしい小鬼が布一枚を残して消えてしまった。


 その布を拾い肩にかけたデュラハンは、それを誇示するように胸を張った。


 机の上からじゃなくて、この世から排除したという事だろうか?


 今回は妨害を狙わずに見に徹していたおねえちゃんは、巨大金貨を小鬼目掛けて投げると両手を握りしめて操作に集中した。


『『行け』! 先に攻撃しない、だよ!』


 どうやらおねえちゃんは、ここに来るまでの約束事を律儀に守り。デュラハンの兜に当てるのは先に攻撃するのと一緒だと考えたらしい。

 今まで散々ぶっ飛ばしたりしていたけれど、敵に当たったのは弾かれた相手のコイン。


 自爆扱い、ということだろうか。


 おねえちゃんの手から離れた黄金の凶弾は、モゾモゾと逃げようとする小鬼を打ち据えると布に変化するのを待つことなく、次の獲物目掛けて飛んで行く。


 次々と小鬼を打ち据えていくおねえちゃんの巨大金貨に、焦ったデュラハンが妨害しようと金貨を操作するおねえちゃんへ兜を投げつける!


 だが、これは悪手だ。


 すぐさま敵の先制攻撃に気が付いたおねえちゃんは、その兜を流れるようなステップで回避すると、指先をひょいと動かす事により巨大金貨の軌道を変更した。


 おねえちゃんに操られてクンと急旋回した巨大金貨は、一直線におねえちゃんが避けて転がっていく兜へ急降下。


 自らに迫る金貨メテオを呆然と見つめる金兜だが、自力で動く事は出来ないらしく、そのまま巨大金貨と地面にサンドイッチされた。


 金属の激突する音が会場内に鳴り響く。


『勝負あったわね』

『一番呆気なかったな』

『勝てないからゲームを始めたのに、実力行使に出たらこんなもんさ!』


 テーブル状になった舞台に出来たクレーターの中心で、拉げた金貨の突き刺さった金兜がゆっくりと消えていく。


 すると、舞台がゆっくりと再構成されて優勝カップ型に改造されたダンジョンコアが現れた。


『え~、おっきな金兜は無くなっちゃうの~?』


 拉げた巨大金貨を素早く回収したおねえちゃんが嘆いている。


 デュラハンの居た場所に剣が転がっているので、俺が思うに金の兜はレアドロップだ。


 俺達は完全勝利したおねえちゃんの元へ、観客席から飛び出した。


 気を取り直したのか、おねえちゃんは優勝カップを確保して両手に持ち、掲げてみせた。


 すると、優勝カップは幻だったかのように消えていき、闘技場を埋める観客モンスター達も同じく消えていく。


 しんと静まり返った闘技場は、祭りの後の様な寂しさを感じさせる。


「あー、んー。ふぅ、終わった。情報と違う事が多くて大変だったわ」

「ほ〜ふ〜。自由に話せないのは、大変だったね〜」


 首につけていた首輪型魔道具を外したローズとおねえちゃんは、確かめるように声を出すとお互いの苦労を分かち合っている。


 一番騒ぎそうな奴が静かなので周囲を見渡すと、楽天エルフは屋台の料理を両手に抱えて現れた。


「ムグモク、もったいないふぁら! ホレ! 一つあげよう!」

「……ありがとう」


 骨付き肉を一つもらいつつ俺が強者の自由さに呆れていると、爆発音と共に闘技場が崩壊し始めた!?


「ローズ!? これはいったい何事なんだ?」

「これも情報と違うわね!」


 話している間にも、ステージは崩壊して観客席が土砂に埋まっていく。


 生き埋めになってはたまらないので、俺達は取るものも取らずに闘技場の入口へ引き返す。

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