親が国際再婚した結果、大型犬みたいにじゃれつく義妹が送られてきた
あらばら
第1話 妹、爆誕
5月中旬のある日。
海外でスポーツ選手の通訳をやっている親父からこんな連絡が届いた。
『おう
「へ……?」
1人暮らし中の一軒家。
俺は朝食のトーストを囓りながら素っ頓狂な声を上げている。
久々に連絡を寄越したと思ったら、この自由人は一体何を言っているんだ……?
「……親父、悪いけどもっかい言ってくれ」
『だから妹だよ妹。今日の夕方にはそっちに着くはずだから、面倒見てやってくれると助かる』
「ま、待て待て……だからその妹ってなんだよ? ……俺は1人っ子だぞ?」
『それはもう過去のモンになったんだよ――実は父さんな、こっちで再婚したんだ』
「――はあっ!?」
『パイオツカイデーの白人とな!』
「ウソだろっ?」
『マジだよ♪』
「かぁ~……」
数年前に母さんから愛想を尽かされた理由が「こっちのこと無視して勝手に決め過ぎ。もう付いていけない」なだけはあるな……。
……いきなり過ぎる報告に俺はどう反応すべきか迷ってしまった。
今まで親父から数多の衝撃展開を食らってきた俺だが、さすがに再婚はサプライズ過ぎる……。
まぁ親父の人生だし好きにしたらいいとは思うが……そうか……ってことはその再婚があるからこそ、冒頭の話に繋がってくるわけか……。
「……妹っつーのは……そのパイオツカイデーの連れ子ってことか?」
『そう。お前の1個下の16歳。学年で言えば高1。そんな妹ちゃんがなんと今日そっちに着くんだよ』
「……親父たちも帰ってくんの?」
『いや、俺と新しい母さんは仕事の都合上こっちを離れられない。でも妹ちゃんは日本に興味があるっぽいからそっちで暮らしてもらおうってことだ。学校とか諸々の手続きは済ませといたから、面倒見てやってくれ頼む」
「あのさぁ親父……普通そういう話って少なくとも数日前には知らせるもんじゃねーの?」
『その点については済まんと思ってる。でもお前は器用だからな、大丈夫だろ』
無駄に評価しやがって……。
まぁ昔から共働きの狭間に居た俺は、小学校低学年の頃から放任主義の荒波に揉まれてきた。母さんが去ってからは全部自分でやってる。何事にも臨機応変に対応出来る自信はある。本当に妹が来るんだったら……まぁ、やってやろうじゃないか。
って言いたいところだが……さすがに急な妹の出現に対応しきれるかは分からない。でも今更どう足掻いても撤回出来る事象じゃないんだろうし……やるしかないわな。
「分かった……任せとけ」
『さすがは巧己。頼もしいな』
「……ちなみに確認だが、その子は日本語話せんの?」
『話せるには話せるが、完璧ってわけじゃない。そういう部分も含めてサポートしてやってくれると助かる』
「了解」
『よし、じゃあ今日の放課後は寄り道無しでサッサと直帰しろな? 頼んだぞっ』
そんな言葉と共に通話が途切れた。
やれやれ……改めて自由過ぎる親父だ。こうやって色々自己都合を押し付けてくる性格だから、母さんも愛想を尽かしたわけだな。
……まぁでも、義妹か。
どういう子が来るのかは知らんけど、俺1人にこの一軒家は広すぎるし、家族が増えるのはちょうどいいかもしれないな。
◇
「――えっ! 巧己に妹が出来るの!?」
「――マジかよ聞いてないぞ!」
「俺だって聞いてなかったんだよ」
この日の昼休み。
俺が在籍する都立杉岡高校の2年1組教室にて――今朝のことを話した結果として、友人たちが驚きの表情を見せていた。
「ち、ちなみに妹ってどういう子なのよ!?」
と尋ねてきたのは、幼なじみの
長い黒髪がトレードマークの、まぁ美少女とも言えなくもないヤツだ。
去年の文化祭ミスコンでグランプリだったが、そこまでか? と思ってしまう。
「親父さんが外国人と再婚ってことは、その義妹も洋物ってことだよな!?」
そしてなんか妙なワードを絡めてきたこいつは、
名字通りにイガグリ坊主の野球少年で、幼なじみじゃないが中学から一緒の腐れ縁である。
「洋物は確定だろうが、俺もまだ詳細は知らない」
「ほーん、じゃあ可愛い子だったら僕に紹介しろよな! お前は見城さんが居るから今更可愛い子は要らねえダルルォっ!?」
「いや妹をお前なんかに紹介するわけねーだろ。それに眞水はただの幼なじみだしな。もっと可愛い子が欲しい思いは尽きない」
「うわ見城さんっ、コイツこんなこと言ってますぜ!! 現場のイガグリからは以上です!」
「ふん、別にいいわよ……私からしても巧己はただの幼なじみだしね。ハゲだし」
ぷりぷりとそっぽを向く眞水であった。
ハゲてねーし。
そんなこんなで数少ない仲間内にも現状を報告しつつ、やがて問題の放課後を迎えることになった。
眞水は塾。
イガグリは野球部。
そんなわけで俺1人で寄り道せずに帰路に就く。
……新しい家族が1人増える。
しかも外国人。
今更ながらに緊張してきた。
それでも足取りは不思議と軽い。
なんだかんだ楽しみな部分もあるからだ。
自分で言うのもなんだが、俺の日常には波風がなく刺激だってない。
そんな日常に外部からの風が吹き込んでくれるのは、きっと悪いことじゃないはずだ。
そう考えながら見慣れた住宅街に突入し、それから1分もすれば我が家が見えてきた。
ちょっと古臭い平屋建ての屋敷。
その門前に目を向けたとき、俺は心臓がひとつ跳ねる思いに包まれた。
(――っ、あの子か……)
キャリーバッグを横に置く形で、1人の美少女が手中のスマホを眺めていた。
白銀の髪の毛をウルフカットに仕立てた、手足の長い人形じみた美形女子。
世界がそこだけ煌めいて見えるほどに、神々しい存在感がばらまかれていた。
(うわ……可愛いな……)
俺はつかの間、世界の時間が止まったかのように立ち尽くして見とれた。
この状況に遭遇したら、きっと誰もがそうなる。
だって創作の世界から飛び出してきたような、抜群のオーラが彼女にはあるから。
そんな中――
「あっ」
俺という傍観者の気配に気付いたようで、彼女はスマホから顔を上げていた。進研ゼミで見たヤツだ、みたいな反応をしながら、俺とスマホを交互に確認している。
そして次の瞬間、その口から放たれたのは――
「――待ってましたおにいちゃんっ!」
おにいちゃん……おにいちゃん……おにいちゃん……。
エコーのように響く甘美な響き。
ときめかざるを得ない強烈なひと言。
それが今確かに――俺のハートを貫いていった……。
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