第27話 代行者〜水瓶座〜

「お帰りなさいませ。ヒュドロコオス様」


ヒュドロコオスに仕える下級神マーターが出迎える。


「マーター。紅茶を」


「かしこまりました」


紅茶を淹れる準備に取り掛かる。


ヒュドロコオスはマーターに紅茶を淹れるよう頼むとソファーに座り先程の王の言葉を思い出す。


「お前達にその座はふさわしくない、か」


王が自分達に言い放った言葉を呟く。


「えっ、今何かおっしゃいましたか?」


ボソボソと聞こえヒュドロコオスが何か言ったのかと思い尋ねる。


「いや。何でもない」


ヒュドロコオスがそう言うのでそれ以上何も言わず紅茶を淹れていく。


「どうぞ」


紅茶を机の上に置く。それと今日はスコーンも添えた。


「うん。美味しい」


「ありがとうございます」


その一言が嬉しくてまた聞きたくて頑張るマーター。


「マーター。急ぎでやって欲しいことがある」


紅茶とスコーンが綺麗になくなると本題に入る。


「はい。なんなりとお申し付けください」


「俺に似た人間を見つけてきて欲しい」


「わかりました」


マーターはすぐにこれが今日王に呼ばれた案件なのだと理解した。


「任せたぞ」


「はい。お任せください」


頭を下げるマーター。そのまま部屋から出ようとしたが、ヒュドロコオスに報告しないといけないことを思い出し頭を上げて話しを続ける。


「ヒュドロコオス様。こちらを女神達からヒュドロコオス様に渡して欲しいと頼まれました」


神力で女神達から預かっていた物を取り出す。


それらを目に入れた瞬間美しい顔が歪みゴミを見るような目でそれらを見る。


「捨てろ。不愉快だ」


冷たく言い放つ。


「かしこまりました」


やっぱりかと思うマーター。予想していた通りの結果になり苦笑いをする。


ヒュドロコオスは女神達を酷く嫌っている。


本来ならヒュドロコオスに手渡したいが受け取って貰えないので自分に託すのだ。


自分は下級神なので上級神の女神達には逆らえない。仕方ないので毎回受け取り報告しないといけない。


「では、私はこれで失礼します」


今度こそ部屋から出ていく。


マーターが部屋から出て行くと自分を除いた十一神を思い浮かべどうやって殺すかを考える。


そして、ある一神を思い浮かべ「できればこいつとは戦いたくないな」と呟く。





七日後。


「ヒュドロコオス様。マーターです。いらっしゃいますか」


扉の前で声をかける。


「ああ、いる。入っていいぞ」


ヒュドロコオスから許可をもらい失礼しますと言って部屋に入るマーター。


「ヒュドロコオス様。こちらにまとめてあります」


そう言うと水晶をヒュドロコオスに渡す。


「ありがとう、マーター」


ヒュドロコオスが礼を言うと嬉しそうに一礼してから部屋からでていく。


水晶に手を置きマーターが誰を選んだが早速見ようと神力を注ぎ情報を読み取る。


マーターが選んだ代行者候補は三人いた。三人共自分に似ているところは異なっているので誰を代行者にするか決めるべく、三人の普段の様子を観察することにした。


三人を観察して四日が経ち漸く誰を自分の代行者にするか決めた。なら、ささっと了承をもらい今後の対策を考えるためなるべく近くでその人間の事を知るべきだと判断し人間界へと降り立つ。





「えっ…」


急に現れた化け物を見て体が固まる男。何で、どうして、俺は今から死ぬのか。化け物に対する恐怖で逃げ出すこともできない。


今日は仕事が休みで家でゆっくりしようとずっとテレビを見ていた。四時間くらいぶっ通しでドラマを見ていたら急に画面が見えなくなり、変わりに黒い何かが見えた。


それが何かわからず目線を上げていくと凶悪な顔つきをした化け物と目があった。それで、この黒い何かは化け物の体だと気付いた。


ドスッ。ドスッ。化け物の歩く音が響く。


男の目の前にまで近づく。男はもう駄目だ殺されると生きる事を諦める。


「俺はヒュドロコオス。黄道十二神の一神水瓶座を司る神だ。人間。君にやってもらいたいことがある」


「神様?あんたが神様?」


男は酷い冗談だ思った。化け物を姿をした存在が神を名乗るなんてあまりにも笑えない冗談だと。


「ああ、そうだ。君の言いたいことはわかるが、まずは俺の話を聞いてもらう」


ヒュドロコオスは今の自分の姿が化け物であることを知っていた。王のことだから何か仕掛けてくると予想していたので、人間界に降りてすぐ神力に問題はないかあらゆるものを確認していった。


どれも問題はなく自分の勘違いかと思ったが最後に自分の姿を確認すると化け物の姿に変わっていた。


念のためアスターに確認すると王の仕業だと認め戻るには己の罪を自覚し反省しないといけないと言われた。


ヒュドロコオスは自分がどんな姿になっているか知った上で男の前に現れた。


そのため、男がどんな反応をするか予測していたし男が絶対に逆らわないと確信していた。


「話しとは」


男は恐怖で声が震えていた。本当は逃げ出したくて仕方なかったが、どうすれば生き残れるか瞬時に判断する。


「これから話すことに嘘偽りはない。君が信じよと信じまいと全て真実だ。聞いた後でどうするか決めて欲しい」


そう言うとヒュドロコオスは男に全てを話した。


「つまり、あなたは神様で王の命令で代行者を見つけた。そして俺は他の十一神が見つけた代行者達と殺し合いをしないといけないということですか」


化け物が話した内容があまりにも非現実的で、まるで自分が漫画やアニメの主人公になった気分に陥る。


小さい頃から思っていた。頭の中で何度も想像した。


主人公達のような特別な力が自分にもあって凶悪な敵と戦う姿を。今まさにそれが最高の形で叶おうとしている。


今を逃したらもう二度とこんな機会は訪れないだろう。


「ああ、その通りだ。代行者になって俺のために戦ってくれるか」


「もちろん。喜んで」


男は神の代行者として第二の人生を歩んでいくことにした。

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