第12話 代行者〜双子座〜

「ねぇ、一つ聞きたいことがあるんだけどいい?」


「もちろん、いいよ」


なるべくジャックの目線までかがむデュイ。ジャックは少年で背があまり高くない。自分達に見下ろされるのは嫌だろと思いそうした。


「なんで、神様なのに化け物みたいな姿なの?」


デュイが自らを神だと名乗ったときからずっと疑問に思っていたことを尋ねた。


ジャックにとって神とは人間が決して敵わない美しい存在で無条件で人類から愛される者だと思っていた。だが、目の前にいるデュイの姿はそれとは真逆の醜い化け物の姿だった。デュイが神と名乗った瞬間自分の中の何かが壊れていく気がした。


ジャックは自分が信じていた神とは一体何だったのかと思い尋ねずにはいられなかった。


「(化け物って僕(俺)達のこと言ってるんだよね(言ってんのか))」


二神は互いの顔を見つめるが本来の姿と全く変わっていないためジャックの言っている意味が理解できなかった。人間の感性では自分達は化け物という扱いになるのかと悲しくなるデュイ。


ジャックはデュイに自分の姿を見せるために鏡っぽいのを探すがそんなものどこにもなく仕方ないかと諦めかけたとき、少し離れたところに水溜まりができているのを見つける。


あれなら見えるか、と思いデュイの手を掴んで水溜まりの所まで連れて行く。


「どうしたの急に」


いきなり自分の手を掴んで歩きだしたジャックにそう尋ねると、んと言って水溜りを指差す。


「(見ろってことかな)」


ジャックの意図はわからないが言われた通り水溜りを覗くデュイ。そこに映ったのは醜い姿をした化け物だった。


「えっ…嘘だろ…なんで僕…こんな姿に」


水溜りに映った今の自分の姿を見て戸惑いを隠せないデュイ。


「おい、どうしたんだ」


急に様子がおかしくなったデュイも心配して近づくと水溜りに映っている化け物が目に入った。その化け物はとても醜い姿をしていて視界にいれるのも嫌なくらい酷い。


「ディ…モ…。どう…して…僕…こんな…姿に」


途切れ途切れに話すデュイの言葉でようやく水溜りに映っている化け物がデュイなのだとわかったディモ。


「おい、ジャック。お前の目にはデュイがこう見えているのか」


そう尋ねるもジャックにはディモの声は聞こえていない。


ディモは何も言わないジャックの反応で肯定しているのだと思った。


「あのくそ王の仕業か。殺してやる」


すぐにこんな事ができるのは王だけだと見抜き天界にいるであろう王に殺意を向ける。


「王…か。なら、受け入れるしかないか」


デュイも何となくだが王がしたと気づいていた。自分は黄道十二神の一神。そんな自分にこんなことができる存在は王以外あり得ない。


「あのクソ王はなんでこんなことを」


「さぁね、王には会いにいけないし聞くことはできないよ」


デュイは自らの罪の重さも自覚しているため罰としてこの姿にされたのだと考えた。


「王に聞けないのなら他の奴に聞けばいい」


そんなのは無理だと否定するデュイ。だがディモは誰に聞けばいいのかわかっていた。


「そんなことはない。そいつをここに呼べばいい」


デュイにそいつを呼ぶように言うが誰を呼べはいいかデュイにはわからない。


「アスターだ」


ただ一言そう言うとようやくディモの意図を理解した。


「あぁ、そうかアスターがいた」


デュイがそう言うと二神は互いの顔を見て頷き「(アスター、僕(俺)達の代行者が決まった)」と天界にいるアスターに通信した。


それを聞いたアスターは天界からデュイがいる所に降り立った。


「お呼びでしょうか、デュイ様ディモ様」


アスターが二神に頭を下げ挨拶をする。


ジャックはいきなり現れたアスターに驚いたがその姿を見てデュイよりこっちの方が神様っぽいなと思う。


「(そういえば、この人デュイ様ディモ様って言ってた。この人にはディモ様が見えてるってことか)」


自分には見えないディモが見えていることに少しイラつくジャック。


「あぁ、僕達の代行者が決まったからその報告でね」


「では、こちらの少年が代行者ですか」


少年の方をむき尋ねる。


「うん、そうだよ」


デュイがそう言うと「初めまして私はアスターと申します。以後お見知りおきを」とジャックにも頭を下げて挨拶をする。


「僕はジャック。こちらこそよろしく」


アスターに一礼して笑顔デュイ名乗る。


「では、ジャック様を黄道十二神双子座の代行者として…」


と話しを続けようとするアスターに「その前に一つ聞きたいことがある」とデュイが話しを遮る。


「何でしょうか」


「僕のこの姿はどういった経緯でなったのか教えてほしい」


デュイの質問に何故この姿になっているのか誰がしたのかには気付いているのかと感じるアスター。


「わかりました。その姿は王が十二神の皆様に己の罪を認め反省させるために与えた罰でございます」


アスターはデュイが自らの罪を認め反省しているのは知っていたので、人間界に降りてデュイまでもが化け物の姿にさせられていたことに驚いた。


デュイや他の十二神達にも同じように言ったがもしかきたら自分の知らないこともあるのかもしれないと思うアスター。


「罪か、やっぱりそうか」


やっぱりそうだったかと思うデュイ。


「この姿は己の罪を認め悔い改めない限り戻れないようになっているそうです。本来の姿に戻るにはそれしか方法は無いと王が申しておりました」


アスターがそう言うと「うん、わかったよ。教えてくれてありがとう」と礼を言うデュイ。


「ふざけんな。デュイお前も納得すんな」


王の理不尽な行動に怒りを露わにするディモ。困ったように自分に笑いかけるデュイに何もいえなくなる。


デュイは自らの犯した罪を自覚しているし反省もしている。だけど後悔はしていない。あれが最善だったと信じている。もし、あの時に戻ったとしても同じことをするだろうと。だから、化け物の姿が罰だというなら受け入れなければならないと思っている。


「では、話しを戻させていただきます」


デュイが納得した様子なので話しを戻しても大丈夫だと判断するアスター。


「これよりジャック様には十二神双子座の代行者として参加する人間として体の一部にその証を刻んでいただきます」


「証?何それ面白そう。どうやって入れるの」


スタンプで紙につける感じでやるのかタトゥーをいれるみたいにやるのかと想像するジャック。


「デュイ様の神力を体に注ぐことで証は刻まれます」


目をキラキラさせてデュイを見るジャック。


「どこがいいとかある?」


あまりにも目を輝かせて見つめてくるので困ったように笑う。


デュイに尋ねられどこに入れるか悩みだす。手の甲でもいいし、足もいい、二の腕もいいなとあれこれ想像しているとどこも捨て難く中々決められなかった。


「うん、決めた。ここに入れて」


約二十分後くらいたってようやく入れる場所を決めたジャック。デュイに背中を向けて左肩の後ろ側を指差し、そこに入れるよう指示する。


「そこでいいんだね」


確認の意味を込めてそう聞くデュイ。


「うん」


「わかった。じゃあ、やるね」


そう言ってジャックの左肩に右手を置き神力を注いでいく。しばらくするとジャックの左肩に双子座の紋章が刻まれた。


「これでいいのか」


アスターにジャックの左肩を見せそう尋ねると「はい、問題ありません。では、只今よりジャック様を双子座の代行者としてアナテマの参加を認めさせていただきます。アナテマが開始するまでもう暫くお待ち下さい。では、私はこれで失礼します」


アスターは頭を下げ、その後天界へと戻っていった。


「うわぁー。消え方まで神様みたい。すごいなぁー」


光に包まれるようにして空へと登っていくアスターを見て感動するジャック。


「神様みたいじゃなくて神様だっつってんだろ」


ジャックに聞こえないように小声で悪態をつくディモ。


「ねぇ、アナテマ?ってのが始まるまで何する。町の案内?それとも作戦会議?神の力を使って悪いことする?ねぇ何する」


デュイの腕にくっついてこれからのことを尋ねる。


「うーん。まずは、外だともし他の代行者に見つかったらまずいから移動しよう」


その可能性はかなり低いが念のためそう提案するデュイ。


「確かにそうだな。あのクソ策士もいるし用心した方がいいな」


デュイの提案に同意するディモ。


「あっ、なら僕の家に行こう。それなら大丈夫でしょ」


ジャックの提案に二神は確かにそれが一番安全だと思い同意する。


パチン。デュイが指を鳴らし一瞬でジャックの家の中へと移動する。


「ようこそ、僕の家へ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る