第10話 代行者〜牡牛座〜

「あっ、目が覚めた」


目が覚めた男は見慣れた天井を眺めていたらいきなり化け物が視界に現れ発狂しながら布団に包まる。


「(夢だ。絶対夢だ。消えろ。お願いだから消えてくれ)」


「もう、なんで隠れるの。君をここまで運んだのは僕だよ。感謝してくれてよくない」


タウロスは男の態度が気に入らず不貞腐れる。


「(ふざけるな。俺が気を失ったのはお前のせいだったつーの)」


心の中で化け物に対して叫ぶ。


「君に危害は加えないよ。約束する。だから布団から出てきてくれない」


男はタウロスの言葉を信じて頭だけを布団から出して「本当に?」と聞くと「あぁ」と頷くタウロス。


「悪かった。運んでくれてありがとう」


「どういたしまして」


タウロスはいつものように笑うが今は化け物の姿なので凶悪な顔になっている。


「(絶対今顔を上げたらやばい)」


本能でタウロスを見てはいけないと感じる男。


「なぁ、あんたはなんで俺の前に現れたんだ。俺に何の用があるんだ」


男は顔を上げずにタウロスに尋ねる。男の問いに「(あーそういえばそうだった)」と人間界に降りた目的を思い出すタウロス。


「会ってすぐに行ったじゃん。僕の代行者になってって」


言っている意味がわからず抗議しよとタウロスの顔を見ると凶悪な笑みをしていて、また気を失いそうになる男。


「あんたさっきから本当に何言ってんだ。代行者ってなんだよ。ちゃんと俺にもわかるように言ってくれよ。そもそもあんた何者なんだよ」


とうとう感情が爆発して思っていたことを口に出す。男は言ってからハッとする。自分はなんてことを言ったんだ。化け物が怒って自分を殺すかもしれないと。悪い方にばかり想像してしまい恐怖で体が震えだす。 


「あれ?言わなかったけ、僕はタウロスだって」


「それは、あんたの名前だろ。俺はあんたの名前を聞いたんじゃなくて、何者か聞いたんだ」


お互いの話が噛み合わず「(こいつ頭大丈夫か)」と互いに心の中で悪態をつく。


「(えっ、タウロスだよ。それでわからないの、嘘でしょ。普通わかるでしょ。人間ってここまで馬鹿な生き物なのか可哀想)」


タウロスにとって名を名乗ることは自分が何者か現すことだった。それで自分が何を司る神なのか一瞬で周りに教える。だけど、男にはそれが伝わらなかった。タウロスは男に一から全て教えないといけないことに失望した。


「(こいつ絶対今俺のことを馬鹿にしたよな)」


タウロスのだす雰囲気でなんとなく察した男。


「わかった。一から説明するよ。いいかい僕は黄道十二神の一神牡牛座を司る神タウロス。つまり星座の神様。これで僕が何者かわかったよね」


「…あー、つまり。…化け物の姿をしたあんたが牡牛座の神様だと」


全くタウロスの言葉を信じていない男。


「君、よく失礼だって言われない?全くこの僕のどこがばけ…」


化け物に見えるっていうの、と続けようとして止めるタウロス。今の自分の姿は王によって醜い化け物の姿にされていることを思い出した。


「(はぁー。今は本来の姿じゃないんだった)」


クソっと悪態つく。


「確かに今の僕は醜い化け物の姿をしているけど、本来の僕は神の中でも美しいと言われているくらい美しいんだよ」


そう言って神力を使って本来の自分の姿を幻影として作り出す。


「この人は?」


男はタウロスが作り出した幻影の人物を見てこんな美しい人がいるなんてと感動した。


「僕だよ」


タウロスがそう言うと男は「えっ」と驚きタウロスと幻影を交互に見る。男が本当に同一人物なのかと疑いの目を向けると「本当に僕だよ」と言われた。


「嘘だ。絶対に嘘だ。ありえない」


男は目の前の化け物と幻影が同じ存在だということを認められない。自分が生まれて初めてこの人のためならなんでもできると思った存在が今は化け物だなんて信じたくなかった。


「嘘じゃないし、ありえないないなんてことはないよ。これは僕達神々の王がやったことだし。王の力は絶対だから逆らえない」


「じゃあ、本当にこれはあんたなのか」


まだ信じきれない男。でも少しずつタウロスの言っていることは本当なのではと思いはじめている。


「だから、そうだって言ってるじゃん」


いい加減信じてくれないかなと、このやりとりが面倒くさくなりはじめているタウロス。


「本当にそうなら、あんたは何故こんな姿にされたんだ。王様は何でこんな酷いことを」


ようやく自分に堕ち始めたと思うタウロス。もう一息で完全に堕ちるなと確信する。


「罰だと。僕は、いや僕達黄道十二神は王の期待に応えられなかった。それどころか失望させてしまったんだ。だから、こんな醜い姿にされてしまったんだ」


目に涙を浮かべ悲しんでいるフリをするタウロス。男は今目の前にいる化け物がさっきまではあれほど怖かったのに、男の目にはもう化け物ではなく本来の姿をしたタウロスにしか見えていなかった。


「神様、いやタウロス様。俺にできることがあるならなんでも言ってください。あなたの為なら喜んてんでこの身を捧げます」


完全に堕ちた男は例え死んだとしてもタウロスの為に死ねるなら本望だと思った。


「本当にいいのか」


「はい、もちろんです。タウロス様」


「ありがとう」


タウロスが男の頬を撫でると幸せそうに微笑む。


タウロスは男にこれから自分の代わりやってほしいことやらなければいけないことを説明した。代行者となって他の代行者を倒し自分を勝たせて欲しいと。


男は喜んでと承諾した。タウロスを脅かす存在は全て排除すると。その言葉を聞いてタウロスは今度は頭を撫でた。男はタウロスに褒められる為ならどんなことでもすると誓った。



「あっそういえば、君の名前を聞いていなかったね。なんて言うの」


男の頭を撫でる手を止めそう尋ねるタウロス。アデルが候補者の名前も書いていた筈だが忘れてしまった。


「俺の名前はテオ・シモンです」




「アスター。僕の代行者が決まった」


「お呼びでしょうか、タウロス様」


いきなり知らない男か女かわからない神様?が現れて驚くテオ。


「あぁ、代行者が決まったからね。紹介するよ、彼が僕の代行者テオ・シモンだ」


タウロスがテオに抱きつきそう言う。


「かしこまりました。それでは、これよりタウロス様にはテオ様に牡牛座の代行者だという証を刻んでいただきます」


タウロスの行動に反応せずに説明をはじめるアスター。


「僕の証?どこでもいいの?」


「はい、どこでも大丈夫です」


「って言ってるけど、どこがいいとかある?」


抱きついたままどこがいいかテオに尋ねる。


「…では、背中にお願いします」


少し恥ずかしそうにお願いするテオ。


「わかった、じゃあやるね」


テオから離れて背中に手を置き神力を流し始める。しばらくするとテオの背中全体に牡牛座の紋章が刻まれた。


「これでいいの?」


タウロスがアスターにテオの背中を見せる。


「はい。これでタウロス様の代行者としての参加が認められました。アナテマが開始されるまで暫くお待ち下さい。それでは、私はこれで失礼します」


天界に戻っていくアスター。


「うーん、アナテマが始まるまで何しよっか。テオは何がしたい?」


「タウロス様のしたいことを」


「本当にいいの」


今日一番の凶悪な笑みを浮かべるタウロス。

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