第8話 代行者〜牡牛座〜

「アデルー、いる?」


タウロスの呼びかけに美しい少年が姿を現す。


「はい、ここに。お呼びでしょうか、タウロス様」


「うん。アデルにお願いがあってさ」


「なんなりと」


「僕に似た人間を何人か捜してくれない」


「理由を聞いても宜しいでしょうか」


タウロスのことは尊敬しているがあることだけは理解できないアデル。もしかして、とうとう人間にまでと心配する。


「王の命令で十二神全員自分の代行者を見つけろって言われてね」


困ったよと戯けるタウロス。


「王がですか。わかりました。タウロス様に似た人間を早速捜してきます」


王の命令で人間を捜していると知って安堵したアデル。


「うん、頼んだよ」


アデルが自分の前から消えたのを確認するとタウロスは自分の部屋ではなくある部屋へと歩いていく。




四日後。


「タウロス様」


扉を叩きタウロスを呼ぶアデル。


「入っていいよ」


アデルが部屋の中に入るとタウロスの周りに女神達が抱きついていた。


「どうしたの」


そう聞きながら女神達の相手をするタウロス。


「お待たせしました、タウロス様。五人ですが候補を見つけました」


「もう見つけたの。流石アデルだね」


部屋を出て行こうとするタウロスを止めるように女神達が「タウロス様」と甘い声を出して行かせないようすがりつく。


「悪いけど大事な用ができたんだ。ごめんね」


そう言って部屋を出て行くタウロス。タウロスがでていったことに腹を立てた女神達はアデルを思いっきり睨みつける。アデルは女神達に一礼し急いでタウロスの後を追う。


「で、誰を選んだの?」


部屋につくなりそう尋ねるタウロス。


「こちらの五名です」


アデルが神力を使って五人を映し出す。五人のこれまでの経歴をまとめたものをタウロスに手渡す。


五人は国籍、年齢、職業、趣味あらゆるものに共通するものは無かったが、ただ一つだけ五人に共通していることがあった。それはタウロス同様、他人の愛を異常なまでに欲しがること。


アデルが五人を候補に選んだのはその共通点があったからだ。


「流石、アデル。誰を代行者にするか悩むよ」


もう下がっていいよ、とタウロスが言うとアデルは部屋から出ていく。


それから、タウロスは自分の代行者を誰にするか決めるため五人の候補者を観察しだす。観察して六日が経つと「うん、彼に決めた」とようやく誰を代行者にするか決めた。


代行者になってもらうため、その人間に会いに行こうと人間界に降り立つため神力を使う。


パチン。


指を鳴らす。さっきまで自分の部屋にいたが、一瞬で人間界に降り立つタウロス。いきなり現れたタウロスに飛んでいた鳥達は驚いて落ちそうになる。


「さーて、僕の代行者はどこにいるかな〜」


空から地上を見渡し代行者候補を捜す。


「いた」


パチン。指を鳴らす。


「やぁ。初めてまして、僕はタウロス。ねぇ、僕の代行者になって」


にこやかに代行者候補の男に話しかけるタウロス。


「は?」


いきなり目の前に醜い姿をした化け物が現れ固まってしまう男。


「あっ、ごめんごめん。いきなり代行者とか言われても困るよね。順を追って説明するね」


そう言ってタウロスは代行者が何か、その代行者が何をするのか、そもそもなんでこんな事になったのか、自分が神である事も一から説明した。


「どう、わかった」


タウロスの問いに頷き「なんとなくだけど」と言う。


「なんとなくじゃ困るよ」


これだから人間は、と心の中で悪態をつく。


「まぁ、いいや。僕の代行者になってくれるよね」


神の僕が頼んでるんだから断らないよね、と圧をかけてくるタウロス。


「その前に一つ聞きたいことがあるんだけど」


「ん?いいよ、なに」


「あんた本当に神様なのか」


疑う様な目でタウロスを見る男。


「はぁー、君ね。僕のどこをどうみたら神に見えないわけ?」


タウロスは自分の姿が神の中でも美しいと自負しているため男の質問に苛立つ。


「いや、でも神様って神々しい存在だろ。その姿は化け物じゃん」


男の言葉に怒りを覚える。男が携帯をタウロスにむけると黒い画面に映った自分の姿をみて固まる。


「えっ、何これ」


神力を使って自分の全身が映る鏡をだし、今の自分の姿を確認するタウロス。


「どうなってんだよ。なんで僕がこんな姿に」


すぐに自分がこんな姿になったのは王のせいだと気づき天界に戻ろうと指を鳴らすが、何度鳴らしても天界には戻れなかった。


「(何しんてんだ、この化け物)」


自分の姿を見て発狂するわ、いきなり指を鳴らしはじめるわ、化け物の行動が一切理解できない。男は今なら化け物に気づかれない筈ただと思い、静かにこの場から立ち去っていく。





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