真君の面倒な恋路〜双子の天使と雪月花〜

雨夜いくら

第一章

第1話 双子の天使①

 早朝、目覚ましとは別の音で目を覚ました。アクビを噛み殺し、着替えてから自室を出る。


「…母さん?…またどっか行ったよ…」


 俺を起こしたのは車のエンジン音。


 普通なら休日なのに何ですぐに居なくなるんだろう。

 何処に行ったのか知らないけど、昨日の深夜に帰ってきたばかりなのに何の用があるんだか。

 それに、朝食くらい食べて行けばいいのに。


 リビングに降りて、焼いた食パンにバターを塗りながらテレビを点ける。


 少し前から鬼桜希望と言う女優さんが情報番組のレギュラーになっている。


 世間ではテレワークがどうとかオンライン授業がなんとか、最近は面倒な話が多いがうちの学校には関係無い。


 俺としては、義務教育が終わればさっさと家を出て一人暮らしでもしたいところだ。


 母さんは良く家を開けるし、小さい頃から仲良くしてくれる隣の家の人達も、この歳になると考える事が少なくも無い。

 思春期とか、自分で言うのもおかしな話かも知れないが、そう言う年頃なんだろうという自覚はある。


 今日は土曜日だが、部活がある。

 うちの中学校は部活強制だし。


 適当におかずを作って弁当につめる。


「…ちょっと早いか」


 用意は終わったが…時計を見る限り、まだ時間がある。

 今から家を出てもダラダラと学校へ向かうだけだ。


 どちらにせよ、このまま家に居てもやる事がないので、荷物を持って家を出た。


 同時に、隣の家から「いってらっしゃい」と言う声とドアを開ける音が重なった。


 出て来たのは…鷹崎姉妹。

 親の繋がりで幼馴染みの双子姉妹。


 綺麗な銀髪の双子で…顔はともかく性格は全く似てない。

 基本的にぼーっとしていて、眠そうなツリ目をしている姉の鷹崎美月みつき


 ハツラツとしていてお洒落好き、スポーツ万能、頭脳明晰、とにかく優秀で人付き合いが上手い。そんな学校に限らず合う人全員から人気な双子の妹鷹崎凛月りつき


「あっ!しん君、おっはよー!」

「…おはよ」


 大きく手を振りながら元気な声で挨拶してくれる凛月。

 消え入るような声で目を擦りながら挨拶してくる美月。


「ああ、おはよう…」


 相変わらず、違い過ぎる二人のテンションに俺は付いて行ける気がしない。

 挨拶を返すだけで何故ここまで頭を悩ませねばならないのか。

 これはどっちのテンションに合わせれば良いんだ?


 美月と凛月は近くに寄ってくると、自然と俺を挟んで隣に並んだ。


「こうやって歩くのも久しぶりだね!」

「…そう……?」


 以前はこれが普通だったけど、中学校に入ってすぐに自然とこういう形で歩くことは減った。

 部活とか、委員会とか、思春期的な影響だと思う。


 正直どうでもいい…というか、特に気にした事が無かったので、凛月の言葉に少し反応が遅れた。


「そうだな…」

「えー…それだけ?もう少し反応しなよ?」

「どう反応すれば良いんだよ?」

「そうだなあ「今度から一緒に歩こう」とか言ってくれれば良いかな!」

「毎日朝っぱらから頭に響く声を聞かされながら一日が始まるのは勘弁」

「それうるさいって言ってる?」

「……うるさい…」


 美月は俺を間に挟んだまま、凛月に向かって言った。

 そう思うなら何故今の今まで言わなかったのか。

 言ってもどうにかなるとは思って無いけど。


「これから部活だよ?元気良く行こうよ!」

「身体動かしたら嫌でも元気になるって」

「…私運動部なんて入る気無かったのに…」


 凛月は昔から抜群に身体能力が高い。現在でも俺より動けるだろう。


 …美月に関しては運動は微妙、勉強も微妙。

 なんなら美術とかも微妙。

 基本的な能力は平均、人並。

 だが親や姉弟の能力からして、彼女はやる気がないだけでやれば出来る。


 一方で凛月は本当に何でも出来る。

 やった事の無い事も、少し見て軽く体験すれば覚える。

 そんな光景を見慣れた周りからは嫉妬すら生まれない。


 ともかく、俺と美月は凛月に巻き込まれてバスケ部に入った。

 それが去年の話だ。


 現在の俺達は、同じ中学校の2年生。

 美月と俺は同じクラス。

 凛月だけ別クラスだが、正直俺達二人を合わせても凛月の方が友達は多いと思う。


 少し歩いて、学校の近くの十字路に着くと、少し赤っぽい茶髪の美少年と遭遇した。


「…やあ、しん。天使様を二人連れて登校なんて良い身分だね」

「ジャージの天使が居てたまるかよ…」


 彼は川崎あきら

 幼稚園の頃から一緒のクラスだったけど、マトモに話す様になったのはつい最近だった。


 コイツもコイツで本当に何でも出来るし、顔と性格は良いので人気もある。

 しかし、凛月とは似て非なる。

 晶は自分から周りに関わろうとしない。

 基本的に身近な人としか居ない気がする。


 凛月なんてしょっちゅう俺達の知らない人と遊びに行ってるけど。

 交友が広いのは悪い事じゃないし、今に始まったことでもない。


「おはよう晶君!」

「おはよう、二人とも」

「…おはよ…」


 二人って…俺との挨拶は「やあ」だけかよ。

 いや、いつもそうだった…か…?


「それで、何でまた天使様同伴なんだい?」

「二人の事、天使って呼んでる奴もうお前だけだろ…」

「皆心の中では天使様って呼んでるよ。それより、質問に答えなよ」

「家出たら鉢合わせた。それだけ」

「それだけで隣に並べて歩かせられるなんて、男子達は血涙ものだよ?」

「俺の知ったことかよ…」


 双月そうげつの天使。

 誰が呼び始めたか知らないけど…美月、凛月、という名前とその美しい外見からそう呼ばれる様になっていた。


 聞いた話では、美月と凛月のお母さんも高校時代に天使様と呼ばれていた事があるとか。

 そんな理由で凛月は喜んで受け入れていたけど、美月は恥ずかしがってたな。


 とは言えこれまた去年の話し。

 今でも天使様って呼ばれてるものなんだろうか。今に至ってはジャージだぞ?


「まーまー、四人で行こうよ」

「どうせ行く道も入ってる部活も同じだからな」

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