第四十八話 レイvsバルト

『今だ。やれ』


 黒の支配者カースロードの繋がりにより発動したルイの念話がレイたちの頭の中に響き渡り、戦いが始まった。その直後、レイたちの体が強化され――


 ヒュン ヒュン


 まず、弓部隊5人が次々と矢を放ち、馬車に矢の雨をお見舞いする。

 そして、それとほぼ同時に魔法師隊5人とレイが詠唱を唱え、まず魔法師隊5人魔法を放った。


「なっ 馬車の陰に隠れるぞ!」


 彼らはレイたちの奇襲に対処できず、すぐさま体勢を立て直すために馬車の裏へ御者と共に避難する。

 その時、レイの詠唱が終わる。


「――踊り狂え。光輪月の舞踊ムーン・ワルツ


 直後、レイの頭上に数多の三日月型の光が現れた。そして、それらは踊り狂うようにくるくると回りながら不規則な軌道で50メートル先にいる馬車――その裏に潜む彼らに襲い掛かる。

 これが研鑽の末に習得した上級光属性魔法、光輪月の舞踊ムーン・ワルツだ。


「なぁ!?」


「ぐっ」


 馬車のせいで良く見えないが、阿鼻叫喚の嵐ということだけはレイにも分かる。

 その隙にバラックとノイズを中心とする戦士部隊8人が一斉に突撃を仕掛ける。そして、それに合わせて弓部隊は撃つのを止め、魔法師部隊は前線へと移動を始める。

 ここで、普段のレイは少し前へ進んだところで止まり、回復役と大結界グレートバリアによる防護役を務めるのだが、今回は違う。


「魔力よ。光となりて我を包み、限界を超えた力を我に与えよ。限界突破オーバーロード


 まず、中級光属性魔法、限界突破オーバーロードで自身の肉体の枷を外し、文字通り限界を超えた身体能力を得る。しかし、その代償により、体中の筋肉と骨が軋み、悲鳴を上げる。

 だが、その程度どうということはないと言わんばかりに冷静な表情で、レイは次の魔法を唱える。


「魔力よ。常に回復の光を灯し続けろ。その光をもってして我を癒せ。常時回復オートリカバリー!」


 そして、今度は上級光属性魔法、常時回復オートリカバリーを発動させて、常に自身の体を癒し続ける。

 そうすることで限界突破オーバーロードの弱点を打ち消すと、地面を勢いよく蹴り、前へと跳び出す。

 限界を超えた身体能力によって、直ぐに味方に追い付いたレイは、そのまま味方を抜くと一気に跳んで馬車を跳び越える――その時。


「!?――風槍ウインドランス!」


 まるで焦ったかのような声で大柄な男が渦巻く風の槍――風槍ウインドランスをレイめがけて放つ――が、レイは即座に完全無詠唱で結界バリアを板状に展開すると、それを上手く傾けることで風槍ウインドランスの軌道を自身から逸らす。

 そして、そのまま反対側に着地したレイはすぐさま右手で片手剣を抜き、構えると、御者と5人の護衛――冒険者を見据える。


「くっ マジかよ。おい、ハリス」


「ああ。だが、そっちだけに意識を向けるな。悪いがそいつの相手はバルトに――!?」


 大柄の男――バルトの焦ったような言葉に、剣士の男――ハリスは冷静に的確な指示を出す――が、レイの顔を見た瞬間、まるで亡霊でも見たかのような顔になる。


「お前、レイか!?」


 バルトが驚愕に満ちた表情で放った言葉に、バルトと槍術士の女――エリーは目を見開くと、レイの顔を凝視する。

 そして、絞り出すかのように言葉を紡ぐ。


「おま……レイ……なのか? そうなのか!?」


「え……本当に……レイ……なの……?」


 すると、明らかに様子がおかしい3人を見かねた若い男斧術士と女魔法師が声を上げる。


「おい! 落ち着け、お前ららしくない。知り合いって言うのは分かったが、まずはあっちから来る盗賊の迎撃に力を貸せっ!」


「私の岩壁ロックウォールだけでは持ちこたえられないわ!」


 焦る2人の言葉で我に返った3人は、即座に戦闘態勢に入る。


「すまない。気が動転してた。この男の相手はバルトに任せる。俺とエリーはこっちをやるから」


「ああ、分かった。任せろ」


 ハリスの言葉にバルトは複雑な感情のこもった声で頷くと、戦意を高めてレイを見据える。

 一方レイも、久々に会った3人を見て、過去を思い出していた。


(懐かしいな。最後にあったのは3年前かな……? あの時は本当に楽しかった。皆のお陰で、僕の傷は広がらなかった。だが――)


 そこで、レイは片手剣をバルトに向ける。

 そして、そのまま戦闘に入るのかと思いきや、急に戦意を消したバルトが口を開いた。


「レイ……であってるか?」


 どこか確認するような口調でバルトはレイにそう問いかける。


「ああ。久しぶりだね。レイであってるよ」


 レイは戦意を消すことなくそう答える。


「そうか……何故、盗賊になったのかは検討がつく。ハリス曰く、お前を引き取ったノーマン商会の商会長、ガータンにはどす黒い一面があるらしい。恐らく相当な苦難を乗り越えて、お前はそうなったのだろう」


 だが、とバルトは話を続ける。


「戦うと言うのなら、俺も容赦はしない。だが、俺はお前と――命の取り合いなんかしたくねぇ……だから頼む。戦うのはやめにしないか?」


 バルトは懇願するようにそう言葉を紡ぐ。

 だが、その言葉はレイからしてみれば――軽すぎる。


「そうか。でも、僕はバルトを殺すよ。僕が生きる為に。僕は、僕が生きる為ならあらゆるものを犠牲にすると決めたんだ」


 じゃ――


「死んでくれ」


 直後、レイは会話の最中に練っていた魔力を使って、即座に完全無詠唱で光槍ホーリーランスを撃つ。


「ぐっ 魔力よ。風強化エア・ブースト!」


 バルトは叫ぶように風強化エア・ブーストを発動させると、拳で光槍ホーリーランスの側面を殴る。

 非実体の光槍ホーリーランスは、本来拳で殴っても、ほとんど打ち消せない。だが、バルトは風を拳に乗せることで、その問題を解消したのだ。

 そうして側面を殴られた光槍ホーリーランスは軌道を逸らし、斜め上空へと飛んでいく。

 だが、あらゆる事態を想定して動くレイからしてみれば、それは想定の範囲内。


「はっ! 魔力よ――」


 即座にレイは詠唱を唱えながらバルトに接近すると、片手剣を振り下ろす。


「うおっ!」


 だが、生存本能と言うべきか、バルトは寸でのところで体を後ろに仰け反らせることで、首を狙って振られた片手剣を避ける。


「避けたか」


 レイは冷静な声音でそう言うと、左手を構え、片手剣を振り下ろす際に唱えていた魔法――光槍ホーリーランスをバランスを崩して地面に倒れようとするバルトの腹に――放った。


「がはっ!」


 バルトは腹に風穴を開けると同時に口から血を吐き出す。

 そして、力なく地面に横たわった。


「これでよし」


 レイは感情のない声でそう言うと、片手剣を振り上げる。

 そんなレイを見て、バルトは血を吐きながらも、最後の力を振り絞るようにして言葉を紡ぐ。


「はっ また、勝てなかったか……」


 そして、片手剣が首めがけて振り下ろされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る