第十八話 エリーvsレイ

「やった~! 私の勝ち」


 エリーは跳んで、喜びを全身を使って表現する。


「ちっ……負けたか。流石にここで足掻くのはみっともねぇし、今回は譲ってやる。だが、次は必ず勝つからな」


 バルトは地団駄を踏むと、悔しそうにそう言った。

 どうやら、じゃんけん後に「もう1回だけ!」と言われることはなさそうだ。


(無事に決着がついて良かった……)


 レイは無事に決着がついたことに安堵の表情を浮かべる。

 すると、喜び悔しがる2人を尻目にハリスがレイち近づき、口を開いた。


「ありがとな~2人の争いを止めてくれて。2人とも相手に譲るってことを考えないからな。2人の意見がぶつかったら絶対にあんな感じになるが……まあ、慣れてくれ」


 ハリスは呆れ口調でそう言う。どうやらハリスは、今まで2人のことで苦労してきたようだ。

 そして、その争いの丁度いい調停役を見つけた!――とでも言いたそうな顔をしている。

 一方、その表情に気付かないレイは、ハリスの言葉に苦笑いしながらも頷く。


(またあんなことにはなって欲しくないけど……そうなったらまた止めないと)


 そんな謎の使命感を抱いていると、エリーがレイに声をかけた。


「レイく~ん。早速やろ……「ちょっと待て」……何?」


 エリーの言葉に、ハリスがいきなり口を挟む。

 エリーは少し不満げな様子でハリスを睨むが、ハリスはどこか吹く風といった様子でレイに話を振った。


「レイってさ、まだ身代わりの護符貰ってないよな?」


「身代わりの護符……?」


 ハリスの言葉に、レイは思わず首を傾げる。

 すると、何かを察したのか、ハリスがため息をついた。


「ああ、やっぱり貰ってないか。あの人は詰めが甘いっていうからな……ザクさーん! レイに身代わりの護符を渡してくださーい!」


 すると、ハリスの声に気付いたザクさんが駆け寄ってきた。


「ああ、そうだった。本当にすまない。完全に忘れてた。ほら、レイ。これが大怪我防止用の身代わりの護符だ」


 そう言って、ザクは懐から掌サイズの長方形の白い紙をレイに手渡す。

 その紙を受け取り、両面を見てみると、片面だけに円形の紋様が描かれていた。

 それは、魔法を発動する際に、左の掌に現れる魔法陣の造形と瓜二つだ。

 すると、ザクがその紙についての説明を始める。


「そいつは受けるはずの怪我を肩代わりする魔道具だ。まあ、痛覚はそのままだから痛みは感じるがな。腕か足に直接貼り付けといてくれ。ただ数回受けると効力を失うから、そうなったら魔力を込めて、再利用してくれ。今は満タンだから入れる必要はないぞ」


「分かりました」


 レイは頷くと、身代わりの護符を右腕の二の腕に貼り付ける。

 すると、まるで吸い寄せられるかのようにピトッと身代わりの護符が貼り付いた。

 手で触っても粘着力は一切感じなかったのに、少し強めに貼り付けただけで、ここまで強くくっつくだなんて、便利なものだ。


「これでいいですか?」


 身代わりの護符が貼られた右腕を擦りながら、レイはザクにそう問いかける。


「ああ、それでいい。それじゃ、引き続き頑張れよ」


 レイが身代わりの護符を正しく貼っていることを確認したザクはそう言うと、またここから去って行く。


「よし。これでやれるね。それじゃ、早速やろ~?」


 すると、エリーが待ってましたとばかりにそう言う。


「分かった。やろうか」


 レイは頷くと、両手で木剣を構える。一方、エリーは木槍を両手で構えた。


(なるほど。槍か……)


 刺突を剣で防ぐことは、恐らく出来ない。そうなると、必然的に刺突は回避で避ける必要がある。

 刺突ではなく、普通に穂先を武器に槍を振ってくる可能性もあるが、それなら剣で捌きつつ、懐に入り込めばいい。

 故に、今回は刺突を回避してから即座に攻撃することを意識しよう。

 そう思案しながら、レイは心を落ち着かせ、集中する。


「それじゃ、審判は俺がやるよ。勝敗は、そこそこ大きな一撃が入った方の負け。では……始め!」


 ハリスの声で火蓋が切られ、レイ対エリーの戦いが始まった。


「はああっ!」


 開始直後、エリーがいきなり動く。

 地を蹴り、レイとの距離を1.5メートルほどまで詰めると、穂先をレイの胸部へと向け、一気に突き出す。


「はっ!」


 咄嗟にレイは半身を横に捻る。

 その直後、エリーの木槍がレイの元居た場所を貫いた。

 もし、回避が遅れていれば、今の一撃で終わっていただろう。

 だが、この一撃を回避したことで、レイは勝ちへと大きく前進した。

 槍は刺突すると、引き戻すのに時間がかかる。

 その隙にレイは軽く屈み、地を蹴ると、エリーの懐へ入る。

 そして、横なぎに木剣を振り、エリーの右脇腹を捉えた。


「きゃあ!」


 右脇腹にレイの一撃を受けたエリーは、その衝撃と痛みで地面に倒れる。


「よし。レイの勝ちだな」


「だな。笑っちゃうくらい見事に決まった」


 ハリスとバルトはレイの動きに舌を巻きながらそう言う。

 こうして、レイ対エリーの戦いは、レイの勝利で終わった。

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