第十六話 ザクvsレイ

 背後から聞こえてきたその声に、思わずビクッとしつつも、レイはゆっくりと振り返る。

 すると、そこには燃えるように赤い髪と目を持つ1人の男がいた。

 がっしりとした体つきで、豪胆そうな、中年の男だ。右手で大きな木剣を持ち、それを肩に担いでいる。


「よし。それじゃ、皆倉庫から武器を持ってこい!」


 男は芯のある太い声で声を上げる。

 すると、皆一斉に奥の倉庫へと駆け出して行った。

 レイは皆について行こうと、皆の後に続いて駆け出す――かに思えたが、「お前はちょっと待て」と声をかけられたことで、レイは1歩進んだところで踏みとどまると、その男に視線を向ける。


「新しい奴には説明しないとな。で、お前はレイであってるか?」


 男はレイを見て、気さくそうに問いかける。


「はい。レイであってます」


「よし、分かった。あ、因みに俺の名前はザクだ。これからよろしくな」


「よろしくお願いします」


 男――ザクに、レイは頭を下げる。

 そんな礼儀正しいレイを見て、ザクは「ほう」と舌を巻いた。


「中々礼儀正しい奴だな。それで、お前は冒険者志望の光属性魔法師ってことだから、魔法師として鍛えるつもりなのだが、それでいいか?」


「えっと……」


 ザクの問いに、レイは言葉を詰まらせる。

 確かに、魔法師として光属性魔法の練度を上げたいと思っている。だが、リックとやったように、剣術もやりたい。

 だから、気持ちとしては魔法と剣術の両方を鍛えたいのだ。

 だが、それは流石によく張りだろうか……

 そう思い、レイはチラリと後ろを見てみるが、両方やろうとしている人は軽く見た感じでは見当たらない。

 すると、何かを察したのか、ザクが口を開く。


「ん? もしかして剣術や槍術などの武術をやりたいのか?……いや、その感じ、両方か?」


「は、はい。剣と魔法の2つを選ぶことって出来ないですか?」


 内に秘めていた思いを見破ったザクに、レイは遠慮がちにそう問いかける。

 すると、ザクは顎に手を当て、考え込むような仕草を取った。


「ん~別に出来なくはないんだが、両方やるのはかなりハードだし、素質がなきゃ武術系はキツイんだよな~……よし。取りあえず倉庫から魔法発動体の杖と木剣を取ってこい。今のお前の実力を見て決めよう」


 レイのことを思い、考え抜いた末、ザクはレイの実力を見てから、決めることにした。

 無論、ザクはレイの考えを1番尊重したいとは思っている。だが、人には向き不向きというものがあり、どれだけやる気があったとしても、素質が無ければ結局平凡のまま終わってしまう。魔法なら、最低限使えるだけでもある程度重宝されるからまだいいのだが……


「分かりました」


 自身の実力で、出来るかどうかが決まる。

 なら、全力でやらないと。

 レイはそう意気込むと、奥にある倉庫へと向かった。そして、自分の身体に合う大きさの木剣と、長さ30センチ程の杖を持って、元の場所へと戻る。


「おし! みんなはまず基礎練をやってくれ!」


 レイが戻って来たところで、ザクは声を上げる。

 すると、皆一斉に体を動かし始めた。

 木剣を持っている人は素振りを、杖を持っている人は魔法の詠唱をするように、みんなそれぞれの武器に沿った基礎練習をしているようだ。


「それじゃ、一先ずは剣で俺と戦ってみろ。俺は絶対に負けないから、殺す気で来るといい。でなきゃやる気なしと見て不合格にするぞ」


 そう言って、ザクは不敵に笑うと、肩に担いでいた大きな木剣を両手で掴み、構える。


「分かりました」


 そう言って、レイも杖を地面に置くと、木剣を両手で握り、構えた。

 そして、作戦を思案する。


(大柄なザクさんを相手にするんだから……うん。あの作戦で行こう。あとは、言われた通り、殺す気で――)


「はああっ!」


 レイは不意打ちとでも言わんばかりに、先手で攻撃を仕掛ける。

 格上相手に待ちの剣ではダメだ。こっちから攻め続けて、僕の思い通りに戦いを進めないと。

 そんな思いで振られたレイの木剣は、ザクの右脇腹を捉える。


「おっと。いきなりか」


 ザクはいきなり仕掛けて来たレイに目を見開きつつも、右脇腹とレイの木剣の間に自身の木剣を滑り込ませることで、レイの木剣を弾き返す。

 だが、それはレイの想定内。むしろ、そうしてくれてありがたいとさえ思った。


「はあっ!」


 ザクの木剣に弾き返された反動を上手く利用して、レイは木剣を両手持ちから右手持ちに切り替えると、左足の踵を軸として時計回りに回転し、ザクの左脇腹に斬りかかる。


「おっと。そう来るか」


 だが、これも1歩後ろに引かれるだけで、躱されてしまった。

 これは想定外。

 今の攻撃は当たって欲しかった。

 そう思い、レイは悔しそうに口元を歪めるが、直ぐに意識を切り替える。


「はっ」


 一旦体勢を立て直すために、レイは後ろへ跳びずさると、木剣を両手持ちに直す。

 一方、ザクはその場で立ち止まったまま、レイを見据えると、口を開いた。


「闇雲ではなく、ちゃんと考えた剣技。引き時も理解している。確か12だったか? その歳でその腕なら悪くはない。では、次はこっちから攻めるぞ!」


 そう言って、今度はザクがレイに斬りかかる。


(マズい……!)


 急いでザクの木剣を防ごうと、レイは防護の構えを取るが、即座にそれでは駄目だと判断する。

 ザクの力に打ち勝てるわけがないと、刹那の内に思い至ったからだ。

 なら、やることは1つ。回避だ。


「はあっ!」


 レイは子供の数少ない利点の1つである背が低いことを最大限活用して、ザクの剣をその場で屈んで躱す。


「はあっ!」


 そして、ザクの懐に入った瞬間、木剣を思いっきり振り上げた。


「おっと。だが、流石にその体勢では軽いな」


 そう言って、ザクは木剣を自身の胸部に滑り込ませ、レイの木剣を防ぐ。

 屈んでいる状態で、上に向かって振った剣の威力なんて、低くて当然だ。

 レイはそこまで頭が回っていなかったが、その攻撃は防がれる前提で考えていた。

 何故なら、ザクが自分よりもずっと強そうに見えたから。

 故に、既に次の手は打っていた。


「はあっ!」


 レイは即座に木剣を手放す。

 そして、右拳を振りかぶると、ザクの腹めがけて勢いよく突き出す。


「よし……」


 あと少し。そう思った直後。


「がはっ」


 寸でのところで膝蹴りをくらい、後ろへ跳ね返されるようにして転がった。

 腹を蹴られたが、手加減されたせいなのか、そこまで痛くはない。回復ヒールで直ぐに直せるだろう。

 だが――


「……負けた」


 レイは首に突き付けられた木剣を見て、悔しそうに言う。

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