【ヤクソ・ネルヤ-要するに第四話-】狙われた魔法少女☆彡【シニネン・ルク-青の章-01-】

 私は九条未海。

 十七歳。

 とある都内のお嬢様専用と言っても過言ではない女子校の二年生です。

 バイトで…… そう、バイトなのですよね? あれは一応。

 うちの高校、バイト禁止なのだけれど、まあ、バレようはないから、どうでもいいですが。

 それにお金は二の次ですしね。

 なんのバイト、と聞かれたら魔法少女のバイトと答えねばなりませんけれども、一般的には答えられる解答ではないですね。

 頭のおかしい人と思われてしまいますし。

 それでも私、こう見えてバイトで本物の魔法少女をやっているんですよ。

 ついでに私は魔法少女の青担当。

 シニネン・アクアとかそんな名前の魔法少女。

 シニネンってフィンランド語? で確か青って意味ですよね。アクアも、まあ、水とか意味もあるけど、青の意味もあるのよね。

 それに他の人達の名前も照らし合わせて考えると、多分、私の名前は青・青っていう意味なのよね、多分。

 あの人形モドキの妖精。ちょっと適当過ぎないかしらね。

 それにフィンランド語の方はあんまり馴染みがないから覚えにくいし言い難いのよ。

 はあ、呼び名はフィンランド語の方を省いて、ルージュとかローズピンクとかで呼び合った方が良いわよね、今度、提案させてもらいましょう。

 ローズピンクやアンバーの上の名前なんて、この間、呼ぼうとして噛んでしまいましたし。

 にしても、アンバー、あの子は、中身、男の子なのかしら? それとも女の子?

 他の皆はなんとなく女子と分かるんだけれども、あの子だけはわからないのよね。気を付けないと。

 まあ、そもそも素顔知っているのルージュだけなんだけど。

 あの子……

 かわいいわよね、物凄く。

 普通の女子高生って感じが溜まらない。

 つい、お持ち帰りしたくなっちゃうくらい、かわいい。ウフフ。

「では、この問題を…… 九条、解けるか?」

「はい、先生」

 思考を停止して、タブレット端末に回答を書き込んでいく。

 そうするとプロジェクターで、私が書き込んだ式と回答がホワイトボードに映し出される。

 特にプロジェクターで映し出す意味ないんですけども。

 各自タブレット端末で確認できるんですし、まったくもって無駄ですね。

 ただ先生はそれを見て、笑顔になる。

「流石だな。完璧だ。では次行くぞ」

 高校の授業など私にとってはつまらないものでしかありません。

 魔法少女のバイトは…… 少し刺激的で楽しい。

 ルージュもかわいいし、ローズピンクもかわいい。

 グリーナリーは多分年上だけど、年上の魅力があって素敵。屈服させたいくらいには好き。

 で、問題はアンバーよ。

 あの子、どっちなのよ。

 あの子がいなければ魔法少女のバイトは私にとって天国なのに!!

 でも、男と言い切れないところもあるのよね。

 走り方とかは女の子そのものなのよ、けど、そこも逆に怪しいのよ。

 今一番正体を知りたいわ。

 と、言っても、正体がわかるのはルージュこと、佐藤美咲くらいなんだけどね。

 つい、気になって調べちゃいましたよ。

 素顔さえわかれば意外とどうにかなるものね。最近の探偵って優秀ですね。

 これは私も気を付けなくちゃいけないことだけど。

 なんだかんだで魔法少女になっても面影は残るのですし。

 それを考えるとアンバーも美少女? 顔の造形は恐らく一番良いのよね、男であっても女であっても。

 いや、どうなんですかね、判断にほんと困る。

 魔法少女ということで二つ返事で承諾したのだけれど、こんな落とし穴があるだなんて思いもしなかったわ。

 それにしても、アンバーの正体をのぞけば、皆かわいくて本当に天国。

 いいわ、魔法少女の美少女集団、まさに私だけの天国です。

 私のためだけの楽園……

 私のための理想の職場と言っても過言ではないです。

 それに、ストレス解消にもいいしね。

 なにかと優等生とか良い子を演じるのはストレスが溜まってしまうんですよ。

 本当の私がただの女好きで魔法少女フェチって知ったら、このクラスのご友人達はどんな顔を見せてくれるのかしらね。

 それはそれで面白そうだけど、今の生活を捨ててまで見たいものでもないのよね。




「まずはこの青い魔法少女からじゃ」

 モニターだけが光るくらい闇の中、怪しい人影に見えるであろうワシは、モニターに映るドローンで撮影した映像を見てそう言った。

 ここ数日、暇を見ては魔法少女達の映像を見て研究していたのだ。

 魔法少女達の個別撃破を狙うとして、ただ怪人をぶつけるだけでは脳がない。

 その魔法少女の弱点となる怪人をぶつけてこその各個撃破だ。

「なんでですっピ?」

 黒いモコモコのぬいぐるみである、マスタ・ケイジュがワシに抱えられながら疑問をぶつけてくる。

「ワシの考察が間違いないのであれば、こやつは百合じゃ。百合少女じゃ!」

 ワシの言葉にマスタ・ケイジュはそのかわいいぬいぐるみの顔をわかりやすく歪める。

 マスタ・ケイジュよ、なぜそんな表情を見せる?

「ハカセ? 何を言ってるっピ?」

「この青い魔法少女、雄型の怪人んときは容赦ないが、雌型の怪人の時は若干ではあるが攻撃を躊躇しておる。恐らくは百合じゃ!」

 ワシは膨大な量の映像を分析し終わった後、その小さな疑念は確信へと変わっていたのだ。

 間違いはない。この青い魔法少女は百合少女だ。

「ハカセ? 大丈夫かっピ? 百合少女なんて実在しないっピ! 空想の中の存在っピ! しっかりするっピ!」

 いやな現実を突き付けてくる非現実的な妖精に、ワシはモニターの逆光で影になって見えはしないはずじゃが苦虫を噛み潰したような表情をして見せる。

「いや、マスタ・ケイジュ。まずここではヘルデスラー大総督と呼ぶのじゃ」

 とりあえずワシはそう言って己を落ち着かせる。

 そう、ワシは毒電波遮断教団の大総督、ヘルデスラー大総督なのだ。これは間違いではない。

 そのワシが分析した結果、この少女は百合少女結論づけたのじゃ。間違いなどありはしない。あってはならないのだ。

「ごめんなさいっピ!」

 素直に妖精が謝ったことで、ワシも気分を切り替える。

 そう、ワシはヘルデスラー大総督、部下にも寛大な男。ワシはあのように部下に怒鳴りつけてくる上司にはならん。

 そして、己の信念を元に真剣にその言葉を口にする。

「百合少女は実在する。それを証明するために、交尾時に逆に雄蟷螂に喰われて瀕死になった哀れな雌蟷螂を基にした怪人、毒電波遮断怪人・マダムマンティスを向かわせる!」

 その言葉にマスタ・ケイジュが驚愕する。

 それも無理はない、今いる怪人達の中で、一位二位を争う猛者である毒電波遮断怪人・マダムマンティス。

 本来産卵のために自分が喰らうべき雄に逆に喰われかけたことから、雄に対し並々ならぬ殺意を抱くようになった最強の怪人。

 それをはじめに使おうというのだ。マスタ・ケイジュの反応も頷けるというものだ。

「あっ、あの…… マダムマンティスを、とうとう使うときが来たのかっピ!? あやつは危険っピ! ハカセどころか、マスタの言うことも聞かないほど気が荒いっピ!」

 毒電波遮断怪人・マダムマンティスは雄蟷螂に二重の意味で意味で食べられた。

 そのためか雄に対する憎しみがとても強く、私はもちろん、恐らく雄であるマスタ・ケイジュのいうことも聞かない凶暴な怪人となってしまっている。

 余りにも危険なため普段は独房に入れ閉じ込めているのだが、今は魔法少女を倒すため毒電波遮断怪人・マダムマンティスの力を借りざる得ないのだ。

 あの青い魔法少女は強い。ワシの見立てでは恐らく魔法少女の中で最強格。

 恐らくマダムマンティスでも楽に勝てるということはないじゃろう。

 ならば二重三重に策を練らねばならぬ。

 それに加えて、毒電波遮断怪人・マダムマンティスは他の怪人にない、魔法そのものを切れる鎌というチート特製を持つ魔法の武器の鎌を特別に与えておる。

 それはまさに魔法少女キラーと呼んでもよい怪人でもある。

 気になる点があるとすれば、マダムマンティスは雄に殺意を抱くようになった反動で、雌には優しくなっているというところじゃ。

 だが、それこそがワシの狙い!

 人妻蟷螂怪人と魔法少女の禁断の恋……

 これほど心躍る展開などそうはない!

「だからこそよ。あの二人が出会うとき、どう化学反応するのか楽しみではないか!」

 ワシは目を見開き、興奮するように、それこそ、いろんな意味で興奮するようにそう言った。

 美しい魔法少女と異形の雌蟷螂怪人の禁断の百合恋の行方を!!

 これが美しくないわけがない。

「た、確かにそれは、そうっピ! それにマダムマンティスなら単体の魔法少女など確実に葬れるっピ!」

 マスタ・ケイジュも毒電波遮断怪人・マダムマンティスの力をよく知っている。

 鋼鉄すら切り裂くどころにとどまらず、魔法の存在自体を切ることができるマダムマンティスの鎌の前では、青い魔法少女の氷の棘など何の障害にもなりはしない。

「で、あろうとワシも予測しておる。後、ここではヘルデスラー大総督と呼ぶのじゃ」

「ごめんですっピ! ハカセ!」

 そう呼んでくるマスタ・ケイジュをワシはゆっくりと愛おしく撫でた。



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