第2章 隠雨に差し込む月明かり <1>

第2章 隠雨に差し込む月明かり


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 夢を見た。

 どこかの真っ白な屋上に、僕はぽつんと立っている。足をつける床面は白く輝いていて、周りを囲う柵も真っ白。見覚えがあるような、そんな既視感。

 空は憎らしいほどの青色に広がっていて、雲ひとつない晴天。強い陽射しが白い床に反射している。どこを見ても眩しいので、目を細める。

 しばらくして眩しさに目が慣れた頃、違和感を感じた。それは視点の高さだ。視界が地面に近い。つまりこれは、僕が幼い頃の──

「────、────────」

 誰かの声がする。声はするのだが、何を言っているのか、その声色すらもわからない。

「──────」

 今度は僕の幼い声が、誰かに返事をしている。自分の口から発しているというのに、なんと言っているのかがわからない。それに、僕は誰と話しているんだろうか。僕の話し相手を探して辺りを見渡すと、白い柵に寄りかかる小さな影が見えた。それは子供のように見えるが、霧がかかったようにぼやけていて、よくわからない。

「────────」

 その影がこちらにかけ寄ってくる。

 僕はその影に手を差し出し、その影と手をとって歩き出す。

 もう一度、青く広い空を見上げた。やっぱり太陽の光が眩しくて、空いた手で光を遮る。それは小さく、綺麗な子供の手だった。

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