一日一編集『十月と十一月の境目で反復横跳びして』

朶骸なくす

くすりあい

「そんなに飲むの?」

 メンヘラになってから初めての彼女は、普通に、ただ普通に、心に重りを乗せてしまう台詞を言った。

「んーんん、まあ、そうですね」

「敬語うける」

 対応が不味かったか、と思ったけれど何を気にすることなく、彼女は隣に座って、テレビを見始めた。

「別に、いやとかじゃないからさ」

 ぴん、と同じ空気だったのかもしれない。

「がんばってるって知ってるし」

 優しくされるとおかしくなる。

「仕事できてんじゃん」

 中途半端な応援は心にクル。今までダメ人間だった分。

「たくさん飲んでも変わらないでいてよ」

「いや、傷つけることあると思うよ」

「そう思っているなら傷つけないよ。傷ついたことがあるって自覚がある人は、ちゃんと同じ、痛みを知っている人だから。だから、私、今、ちょっと優しくないね」

 いいの、心配してくれる。それが、とても嬉しい。安寧、ここから始まる。

「ありがとう」

 笑った顔で、こっちを見てよ。大丈夫だって花をくれよ。

「ありがとう」

 しか言葉が出ないけど、まだ愛に自信がないけど、でも分かることを言うよ。

「そう言ってくれると助かる」

 彼女が深く笑った。

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