トリックオアトリートorコスプレイヤー

《スキル》

 【トリックオアトリート】

〜相手に強制的な二択を迫る能力〜

その選択肢に沿うような力を発現させ、その力は際限なく溢れてくるため、絶対勝利を約束する。




 スキルを使用した瞬間、俺と魔物3匹だけを残し世界の時間が止まったかのように静寂が訪れる。


 そんな世界で戸惑うオークを指差し、


「豚の丸焼きになるor謝る」を問いかける。


 オークは戸惑いなど忘れて俺の発言に激昂しては鼻息荒く、


「殺す。豚の丸焼き……できるものならやってみろ!」


 そう言った瞬間、オークはその太い剛腕からパンチを繰り出す。


 俺はパンチを避けてカウンターを打ち込む為、腰低く構える。

 すると、魔力がないはずの俺の手に突然、紫色の火の玉が宿り


《ハロウィン・ビックリボム》


 オークの腹に食らわせた。すると爆発音と共にオークは吹き飛び全身を炎に包まれた。


「ぎゃああああ!!」


 その炎は、緑、青、オレンジ、黄色と様々な色に変化しながらオークの体を焼き続ける。


 ゴブリンとウェアウルフは何が起こったのか分からないという様子で冷や汗をかいて動きを止めていた。


 俺は、技を発現させた手を見つめたあと、燃え続けるオークの方を眺める。


 豚が焼かれているのに、漂ってくるキャンディやクッキー、チョコといった甘い香りに不思議な気持ちになる。


 色合いといい、香りといいまさにハロウィンだなと思っていた


 そんな時、

 

 背中の方から奇声を上げたゴブリンが棍棒を振り下げてきた。


「あぶな!」


 当たる寸前のところギリギリで回避すると、必死な様相で何度も棍棒を振り回してくる。


 俺は身軽に攻撃をかわすとゴブリンと距離をとり。


 続けざまに指差し


「“ゴブリンスライサー”されるor棍棒でその長い頭を自ら叩いて引っ込める」


 笑いながら言う俺にゴブリンは舌を巻きながら


「この棍棒はお前をミンチにする為にあるんだジャック!!!」


 食ってかかってくるゴブリンに怪しげな笑顔を向け


「なら、ゴブリンスライサーをお望みって事で」


 俺がそう言った瞬間、辺りは夜になり、頭上には大きく丸い満月が浮かぶ。


 すると、どこからともなく、ゴゥンゴゥン!と身を震わすほどの力強い鐘の音が響きわたる。

 

 その光景にのまれたゴブリンは攻撃の手を止め唖然とした表情を見せる。


《“ジャック”・ザ・リッパー》


 手に、死神が持つ様な大きな鎌が発現。


 鐘の音と共鳴するようにシャンシャンという金属が擦れる音を立てながら俺はゴブリンに近づく。


 あまりにも大きな鎌に怯えたのか、腰を抜かすゴブリンの顔に大鎌を持った小悪魔の影が映る。


 その影は、鎌を高く翳し、月光の光が刃に反射した瞬間、振り下ろされた。


 辺りに飛び散るゴブリンの青紫色した血。

 

 そして、薄くスライスされたゴブリンの体が何枚も落ちている。


 その様子を見ていたウェアウルフはガタガタと震えていた。


 刃から滴るゴブリンの血。そして返り血を浴びた顔で最後の標的であるウェアウルフに怪しげな笑顔を向ける。

 

 そして、


「満月刈されるorペットにされる」 


 問われたウェアウルフは完全に戦意を喪失し涙を浮かべ震えていた。

 怯えて言葉も出ない様子のウェアウルフに俺は迫り

 

「満月刈されるorペットにされる」


 もう一度問い返す。


 目の前にいる俺に震え慄くウェアウルフは、呼吸を荒げながら


「………ぺ、ペットにでもなんでもなるから許してくれ……」


 と精神崩壊ギリギリの様子で答えた。


 すると、手にチェーンが発現し、ウェアウルフの首に巻き付いた。


《サーバント・チェイン》


 チェーンは朧げな光を纏い、その光がウェアウルフを包むと体に変化が現れはじめた。


 もふもふの毛が生え、段々と二足立ちが出来なくなり、手をついて四足立ちとなると。

 

 体の大きさはそのままの凛とした様相の逞しいオオカミへと姿を変えた。


 オオカミは満月に向かってワオーンと吠える。


 そして、俺の方を見ると舌を出し、嬉しそうにハッハと言いながら尻尾を振って見せた。


 どうやら、本物のオオカミとなったようだ。


 言語機能を失い、俺を主人だと思い懐いてくる。


 さっきまで俺をあんなに嫌っていたのに、そんな様子がひとつもない。


 体に変化をもたらし、心までも懐柔する。本当になんでもありのスキルだ。


 ははっと、俺は自分のスキルが滅茶苦茶すぎて力なく笑った。


 それを授けてくれたロキには、感謝より怖さの方が勝ったのが本音だが。


「どんだけ、俺が好きなんだよ。あのロリ」


 俺は、オオカミの立髪を撫でながら、きっとどこかで見ているであろう神様に感謝とほんの少し照れ隠しのつもりで独りごちる。


 気がつけば世界は元通りにじめじめと暗い陰気臭さを取り戻しており、生暖かい風が吹いて、オオカミの毛が揺れると、やっぱりどこか甘いお菓子の様な香りが鼻をくすぐった。

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