第17話 裁判後②「修羅場」

《17話》


【天界─中央都市エディン─】


──フィリスが夜食を持ってきてくれた。


フィリスの極刑裁判が無事に無罪放免で終わり、結局シルヴィアやアデル達に礼を言うことなく俺はぶっ倒れるように10時間近くも眠りこけてしまったのは正直情けない話である……。


(とは言うものの…、フィリスの力が求める器の大きさに俺が全く到達していなかった訳だけど…フィリスは天界の中でも最上位レベルの天使なのだから言い訳の一つくらいはさせてもらいたいものだ…)


フィリスには眠っていた間の自分の状況や、あの後の展開を大まかに聞いたもののやはり聴いただけでは実感は薄い。


特にシルヴィアに対して俺は… 


"ルクス家の儀式の間にバルディオルが幽閉されている可能性が高い"


と裁判が始まる前に耳打ちして探してもらっていたままだし…


「……あれ?」


もしかして、まだ儀式の間って見つかってない感じだったりは…しないよな?いや…待て…俺は何か重大な事を見落としていた…ような…


流石にあの老天使が主犯だし、結局フィリスの極刑も無くなった訳だから…


それに…結局俺の録音機もとい盗聴器も証拠品として多分回収されてしまったよな。アデルが持ってるんだろうか…。


(盗聴器…あっ…そうだ。老天使以外にもその策略を話していた相手が…)


「ディガル君、食べないの?ボーッと神妙な顔してるけど…」


「あぁ…いや…ちょっとだけ考え事。」


「スープ冷めちゃうよ?」


「うん…分かった。先に頂くよ」


ひとまず思考にふけるのは後にして、フィリスが作ってくれたスープとおにぎりを食べ始める。


おにぎりには程よく塩がまぶしてあり、空腹の身体にはよく馴染む…


(おにぎりの握り方って意外と重要だよな…絶妙な力加減にしないと固くなったり米がバラけたり…フィリスのおにぎりはそれのどちらにも当てはまらない。良い塩梅だ…)


フィリスは料理も普通に出来るようだ。ホント…少しくらい欠点が欲しい位に素晴らしい天使だと思う。


そして用意してくれた野菜スープを啜るとほんのりと野菜の甘みを感じ…身体が芯まで温まる……


「──優しくて懐かしいような味わい…好みの味だ…。」


「気に入ってくれた?私の得意な味付けなんだよね…♪」


確かにすごく美味しい。具材の味やダシの味がしっかりと出ていて…


(…でもこの味…どこかで…。)


割と最近この味を食べたような記憶がある。


どこだったか……。でも、インスタントではここまで野菜やダシの味は出ない。間違いなく手作りなのは事実だ。


とにかくさっきの疑問はフィリスに聴いてみるか…


「なぁ…フィリス」


フィリスはチラッと此方を見ながらどうしたの?と言うように少し首を傾げる。


(相変わらず一つ一つの動作が可愛いのはズルい…汗)


「ルクス家が隠してたっていう儀式の間についてだが、盗聴してたしシルヴィアには裁判前に探して貰うように頼んでたんだけど…あ、多分シルヴィアは傍聴席には帰ってきてたから部下に押し付けてたんだろうとは思うんだけど……結局見つかったのか?」


「あー…アデルがさ、俺が迎えに行くって言ってたから詳しくは知らないんだよね。でも、場所自体は分かったわ?かなり面倒な場所にあるみたいだったけど…私が吐かせたから」


「無事に分かって良かったよ…面倒な場所?」


(後今私が吐かせたって…拷問でもしたのだろうか……)


「かなり徹底されてるのよね、少なくともアデルが見抜いた関与している天使達の大半は場所をそもそも知らされてなかったみたいで…」


あ…確かに盗聴した内容でも老天使が話ししていた相手は初めてみたいな感じだったしなぁ…


「それでフィリスは吐かせたと…?」


「吐かせた…というよりは、私を襲おうとした老天使の直属の部下をひっ捕まえて…ね?拷問とかじゃないから安心して大丈夫…♪」


「別に俺はフィリスが拷問をしてたとしてもドン引きしたりしないし、むしろフィリスがされようとした行為を知れば怒りは相当だしな…」


「ホント、悪知恵だけは働くんだからね〜…いくら私でもちょっと驚いたかなぁ…。」


「あ、バルディオルのヤツが性格悪いのも育ちが悪いというか、ルクス家が原因だったりして…」


「そうだねー…可能性は高いかもね。ま、バルディオルは多分まだ閉じ込められたままだと思うし…私は別にそれで構わないかな、多少は反省材料になるでしょ。」


フィリスはやれやれというような顔をした後、耳元で


「でも、ディガル君と会えたのはアイツのおかげみたいなとこあるけどね…なんて…♪」


「…ッ……!」


マジでさっきからフィリスとの距離感みたいなのがバグってる気がするんだが…!というより裁判の後辺りからフィリスの方からグイグイ来てるような…


でもこれ多分ずっと揶揄われてるような気がする…。でも、それでも構わないと感じてしまってる俺自身も多分悪いんだろなー。


初対面の時のあのキリッとした真面目なフィリスの顔も俺は好みだが…今のこの小動物感?猫感?のある可愛らしい雰囲気のフィリスも好みだ。でも…どちらにせよフィリスの底は知れてない…気がするんだよな。


──本気で戦うフィリスの姿を見てみたい。


そんな欲求を俺は持つようになっている。


あ、でも少なくとも俺はアイツ(バルディオル)にもう一度会うことになれば…その時はもう一度謝らせよう。


結局アイツがこの件の全ての元凶になった訳だしな。俺とフィリスが出会うことになった直接的な要因ではあるけども…それが良い、マジで!


「ところでさ、私もそろそろ深夜だから寝ようかなとか思ってるんだけど…大丈夫?」


「あー、確かにフィリスも疲れてるだろうし…俺は寝過ぎて寝れないから散歩でもしてくるよ。」


「んじゃ、また明日。ディガル君♪」


「あぁ…うん。…………うん?」


ここはフィリスの部屋…なんだよな?でもフィリスは部屋から出ていった──


洗った食器を片付けに行った訳でも無いし、明らかに寝る感じだ……この部屋にベッドあるけど流石に俺居るから警戒するのは当たり前か…?


そんなことを考えていると、扉がガチャリと音を立てる。フィリスかな?やっぱりこの部屋で寝るのか…


───私の部屋で何してるの?


「へ……?」


ゆっくりと扉が空いて部屋の本当の持ち主が現れる、その髪は薄い青色で長髪……


「ソ……」


あ、ヤバ…これ多分フィリスに嵌められた!詰んだ!やっぱり何かおかしいと思ったんだよな、だって部屋にメイド服の予備かかってたし!よく考えなくともさっきソニアが着てた服だったし!


(オワタ…マジでオワタ…)


「……。」


「……………答えなさい?私の部屋で何をしていたの?」


「…………。」


《17話完》

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