第11話 ミスタ家当主[シルヴィア]

《11話》

【ナハス裁判所─法廷内─】


前にも言ったが、俺は裁判所に入るのは初めてだ───勿論、法廷内に入るのも初めてなのは言うまでもない。


先程俺が扉に触れた瞬間にフラついた事もあり、ミスタ家が入った瞬間に何か細工をした可能性も考慮し、扉は今一番力があるフィーゴ先に開ける。


続いて俺とフィリス、最後にソニアという順に入り、スッとソニアは扉を閉める。やはり普段から従者としてフィーゴに仕えている事もありソニアの所作には全くの無駄がない。


(流石というべきだろうか…ちょっと俺には真似出来ない芸当だな、ここまで隙というか無駄な動作がないのは見たことがない)


なんて考えながら法廷に入った瞬間、自分の中の能力が封じられる感覚があった。


事実先程まで生えていた自分の羽は先端を縛られたように力がほとんど入らない気がする…。


隣を歩くフィリスをチラッと見ると、偶然にもフィリスもコチラを見ていた様子で…俺は何を言うべきか言葉に詰まる。


(励ますべきだろうか、それとも安心させるようなことを言うべきなのだろうか…一番不安なのはフィリスなはずだ……こんな時もっと自分が気の利いた事をフィリスに言えたら良いのに…!)


と悶々とした考えをしているとフィリスはそれを察してか、少しクスッと笑いながら囁くような小声で


「やっぱ緊張するよね?私も実はこの法廷の中に入るのは初めてなんだよねー。でも大丈夫だよ…ディガル君…♪君は私の"救世主"なんだから」


「俺はそんな救世主だなんて呼ばれるような大きな存在じゃないよ…フィリスの過大評価だよ(苦笑)」


「そうかなぁ?私ね、詳しい話はまたいつかするけど……君は覚えてないかもだけど君に救われたんだよ?」


「俺に……?」


「そ。まー、それは置いといて、付け加えて私は自分の力を信じてる。傲慢って思われるかもだけど…これは持論で熾天使の守護って嘘偽り無いものに力をくれるって…私は疑ってない。」


何だろう…初めて出会った時に年齢そんなに変わんないでしょって言われたし、時々見せる子供っぽさの仕草もあるから気づきにくいけど…


やっぱりフィリスって俺より遥かに人間いや天使が出来てると思う。俺はフィリスを救いたいっていう一心だけだが多分フィリスはもっと色々考えているんだろうな…。


困ったな…自分が情けなくなってくる。とにかく自分が今感じていることを素直にフィリスには伝えるべきだろうか…


「勿論俺はフィリスの力を信じてるよ。そこに一切の疑いはない。俺を救ってくれたのに俺のせいでフィリスが熾天使の力を剥奪されるなんて絶対許せない。だから…フィリスの為に俺は全力を尽くすから…!」


そう伝えるとフィリスはニッコリと笑うと


「ん、やっぱり救世主がディガル君で良かったよ…♪でも、あれくらいの救出なんて君への恩義からしたら全然足りないものだよ。」


と改めて伝えられ俺は顔には出さないが内心では嬉しくて堪らなかった。


そんな俺の悦に浸るタイミングを遮るように後ろのソニアが話しかけてくる。


「フィリス様にゾッコンなとこ悪いのだけどディガル…あそこ。」


ソニアの指さす方向には先程目を合わせた瞬間に力をこそぎ落とされた感覚を食らわせてきたあの美女が居た───やはりオーラはフィーゴやフィリスとほとんど劣らず凄まじい圧を感じる…」


「もしかして…あの天使はミスタ家か…?」


「ご明察…あの方は熾天使の御三家が一つ、ミスタ家の現当主のミスタ・シルヴィア…よ」


あれ、ミスタ家も熾天使だけど様はつけないんだな…。ソニアが指差した事もありシルヴィアと呼ばれる美女熾天使はこちらに気づいた様子で向かって歩いてくる。


俺はなぜかやはり先程の事もあり少し足がすくむ、というよりその視線に囚われると逃げられない感覚がする。背中には冷や汗が流れ膝が軽く笑っているような感覚が嫌でも感じられる。


喉が一瞬にして乾き、潤いを求め、声はきっと今話せば掠れているだろうか……。


シルヴィアが俺達4人の目の前に歩いてくる、その視線は先程から俺を捉えているようにも感じる。その距離が約5m程になった時、フィーゴが俺とシルヴィアの視線を遮るように立ち塞がると


「あら、フィーゴ?またまた面白い状況になってるようね。貴方の妹は極刑の危機、おまけにイレギュラーな存在も居るし…私にももっとよく見せてくれないかしら?」


そう言いながら、たおやかに微笑みかけるシルヴィア


「面白い状況だと?それはコチラのセリフだ、シルヴィア。何故妹の裁判の傍聴席にお前が居る。先程エディンの街中に居たのは気づいていたが何のつもりだ。」


話しぶりからして二人は知り合いの関係なんだろうか…。


「あら?何で私が貴方に軽く殺気を向けられてるのか分からないわね?フィーゴ、そんな怒らないで?怖いわ…♪幼なかった頃みたく仲良くしましょう?」


──なんだろうか、妖艶な笑みというか…笑いながらもやはりこのシルヴィアという天使…只者じゃないって感じだ。


「仲良くするかどうかは今のお前の返答次第だ。率直に聞く、ルクス家と手を組んで妹を陥れようとしているんじゃないか?」


「まさかミスタ家が疑われてるってのは心外ね?私がフィリスちゃんを陥れてメリットはあるのかしら?」


「シエルの後継を一人削れば熾天使御三家のパワーバランスは崩れる。嫌がらせにはこれ以上無いだろう…今戦力的に御三家でトップのウチを潰せば後はヴァイス家だけだろうからな。」


御三家はシエル家とミスタ家とヴァイス家の3つだというのは今初めて知ったな……んでやっぱりシエル家は御三家の中でも今トップの戦力なのか……


「確かにフィリスちゃんを熾天使から外せればシエル家に嫌がらせは出来る。だけどそんな事して喜ぶのはヴァイスの奴らだけね、私としては今新進気鋭であるシエル家が今トップに居てくれた方が都合が良いのよね…、古豪のヴァイスの連中は頭が堅いし、調子に乗り出すと厄介だから…。


それに私としては幼少期から面倒見てあげてるフィーゴやフィリスちゃんが成長してくれてるのシンプルに嬉しいわ…?正直シエル家とは仲良くやっていきたいとは思っているけど貴方はそれでも信じない?フィーゴ」


「たかが数年早く生まれただけで成長どうのこうの言われるほど面倒を見られた記憶は無い。」


「そうだったかしら?しょっちゅう一緒にお風呂に入ってあげた記憶もあるのだけど…」


「口を慎め。法廷内でわざわざ黒歴史を掘り起こすな。」


──どうやらフィーゴよりシルヴィアは年齢が少し上らしい、でもこの妖艶な美女とお風呂か…フィーゴ羨ましいかもだ……って、イテッ……!


痛みを感じ、横を向けばフィリスが俺の足をわざとらしく踏んでるのだが……


「あ、ごめんディガル君。ちょっとよろけちゃってー…」


笑いながら、俺にそう言いながらも多少踏んだ足をグリグリするのやめてもらえますか…フィリス様…目が笑ってないです…(汗)


──というよりフィリスはそれだけだが、さっきから後ろのソニアが凄いオーラを出してるんだが………


それにシルヴィアが気づき


「あら…ソニアちゃん久しぶりね?半年ぶりくらいかしら。」


「ええ。そうね。」


とそれだけしか返さないソニア、俺から見てもソニアはフィーゴの従者であるものの明らかに主従関係以上の関係に近いのは明白だと感じる。


多分シルヴィアとは恋敵?みたいなもの何だろうか……いや、シルヴィアは多分フィーゴを揶揄ってるだけか……?


そういうのも含めソニアは気に食わないと感じているのだろう。


何にしろシルヴィアはそこまでシエル家に敵意を向けている様子は感じない。じゃあさっきの俺に対する精神攻撃みたいなアレは何だったんだ……。


俺がそれを聞く前にフィリスが口を開く、あ…目が笑ってないままだ。フィリスは碧い瞳を軽く光らせながら問い詰める。


「シルヴィアさんはどうしてここに?ディガル君に"魅了"を植え付けようとしたのも含め、まだ私的には信用しきれてないんだけど?」


と軽い圧をかけるような眼差しであり


「あら?久々にエディンの都市に遊びに来たのよ。私が訪問することは貴方達の両親には伝えておいたのだけど…どうやら伝わって無かったのね。急遽だから仕方ないわ?


ここに着いてみたら、フィリスちゃんが極刑だって聴いたから様子を見に、後は来る途中に面白いモノを見かけたから尚更…ね…。


目的は今フィリスちゃんが今やってる事と変わらないわよ?"特異点"の味見。事実、これから先天界、魔界を揺るがす可能性があるもの…フフ…♪でも流石フィリスちゃんね、既にもう"唾"ならぬ"羽''を付けておくなんて…」


──羽をつける…?


「私はシルヴィアさんみたいに魅了を植え付けて都合よく操ろうなんて考えてないんだから一緒にしないで貰いたいかなー?」


「でも最終的に行き着く点は結局変わらない気もするけど…あなた一人で覚醒した特異点をどうこう出来るのかしら?」


「それでも、本人の意思もあるでしょ。」


んー…二人の会話が全く本筋というか直接的な表現を避けているからか理解出来てない…


フィリスがこちらを向いて私達のはあくまでも《契約》だから、ね?なんて言ってくるが…


とにかくあとで色々話を聴かないとなーと思っていると…


先程自分達が入って来た扉の真反対側にある入り口からルクス家の一行と思われる天使達が入ってくる。


その中には先程フィーゴに喧嘩を売ってきた老天使の姿も見受けられる。伸びた白い髭を軽く撫でながらまぁ余裕そうな表情に俺は軽く怒りを覚えるが…先程仕込んだアレは上手く気付かれなかったみたいである。


後はそれをどうするか…だが


その前を歩く現当主と思われる厳つい顔の男の天使やその横を歩く整った顔の女の天使はやはり熾天使ではなくとも相当な手練である雰囲気を纏っている。その一行が準備されている椅子に座っていく。


それを見てソニアとフィーゴとフィリスも動き出す、俺も証言者としてその席につかなくてはならないのだが…俺は傍聴席へと戻ろうとするシルヴィアの肩に手を置いて、耳打ちをする。


シルヴィアは少し驚いた様子で俺に何か言いたげだが…


「それを信じるかは賭けみたいなとこはあるけど…今は信じてあげる。これで一つ貴方に借りを作らせておくのも手ね。」


「…恩に着る。」


俺はそのまま証言者の席へ座る。先程まで傍聴席へと戻ろうとしていたシルヴィアは法廷から出て行こうとする。それを見てフィーゴは何かを察した様子だが…特に何も言わず、席に座る。


───これで裁判の準備は整った。


俺は上手くフィリスを救えるだろうか…緊張してきた。


《11話完》

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