第34話 敵国_乾坤一擲の作戦を実行する

◆南国のサンドランドの若き将軍



「将軍……。敗戦続きです。ですが、幸いにも『中央国のセントラルガルド』は、砦を守っているだけです。近づかなければ。後方の村を制圧することも可能かと。物資の供給を断つのです! それしかありません!」


「いや、ダメだ! セントラルガルドは、見たこともない馬車で、物資の搬入を行っている。鉄の塊だと報告を受けている。あれに矢を射かけたのだが、刺さらなかったらしい。それに……、馬房柵も難なく突破したとか。孤立させるのは無理だ。それに、我が国の食料は奪われており、遠征は一回出来るかどうかだ」


 セントラルガルドは、異世界召喚を行ったらしいが、優秀な人材を複数呼べたらしい。

 だが、そもそも異世界召喚は、禁忌指定されている……。

 我々も、負けるわけにはいかない。


「……やはり、四ヵ国連合しかありませんな。短期間で、セントラルガルドの首都を落とさなければ、この大陸は終わりです」


 ――シーン


 それは、皆考えていたが、過去のわだかまりを考えると、何処が盟主となるかで揉める。

 今まで、その繰り返しの歴史だった。土地の奪い合いだけで、この大陸は時間を浪費していた。

 そして、戦乱の世が、100年続いている。12ヵ国あったのに、今や5ヵ国だ。

 戦争の造形は深くなったが、文化は止まっている。他の大陸の商人は、この大陸に来ない。


「北国のネオランドは如何いたしますか? 首都を落とされていますが」


「王族は、見逃されたらしい。異世界召喚者は、戦争を知らんと見える。そこに隙がある」


 王族を捉えて逃がしたのだ。前代未聞と言える。

 だが、その場合は、地方領主が新たな国王となるのが常だ。

 案外、無駄とも言えないことが、今更だが分かった。


「主力は、『東国のエアタリア』と『西国のウミタリア』ですな。北と南は、戦闘特化の異世界召喚者の足止めでしょう」


 直接の被害を受けていない、東西の国か……。

 動くかどうか、怪しいな。

 だが、賭けるしかない。

 これで、軍議が纏まった。


 国王に報告して、親書を作成して貰う。



 独りになり、部屋で休む。


「本当にセントラルガルドの首都は、兵士がいないのだろうか……。一騎当千の異世界召喚者がいた場合……」


 一抹の不安を感じる。

 杞憂だとは分かっている。

 そんな奴がいれば、戦力を集中して来て、我が国は終わっていたはずだ。


「東西の国が、セントラルガルドを併呑した時に、我が国の立場がどうなるのか……。長らく、この国を支えて来た将軍が、皆死亡してしまったのが悔やまれる」


 砦一つを落とせなくて、多くの将兵を死なせてしまった。王命とはいえ、余りにも痛い損失だ。

 知識と経験が途切れてしまった……。この国は、生き残っていけるのだろうか?


「連合軍……。上手く行くのだろうか?」


 私は、瞼を閉じた。





 その後、『東国のエアタリア』と『西国のウミタリア』が、同盟を組み、『セントラルガルドの首都』に攻め込むとの盟約が交わされた。『北国のネオランド』は、防衛しかできないが、同盟には参加してくれた。


「この100年で歴史的な偉業だ」


 100年続いた、戦国の世が終わるかもしれない。

 まあ、異世界召喚などの、外法を使ったのだ。こちらに、大義名分がある。

 中央国が異世界召喚者の怪しげな魔法を使い、大陸を蹂躙したことにすれば、民衆は賛同してくれるだろう。


「これで、我が国は耐えるだけで良くなった」


 攻め落とせない、あの砦の異世界召喚者を足止めすれば、いいだけになった。

 斥候も放ち、砦を離れた位置から包囲するように指示を出した。

 これ以上、将兵を失えない。


「後は、勝報を待てばいいか」


 この時の私は、やり切った感があった。





 一ヶ月後……、敗報が届いた……。


「『エアタリア』と『ウミタリア』の軍隊が壊滅しただと?」


「はっ! 東のエアタリアは、軍船を使って攻め込みましたが、全ての船が沈められてそうです。西のウミタリアは……、この大陸最大の砦を失っています。詳細は分からないのですが、異質な装備の兵士が見たこともない武器を使い、制圧したとの連絡を受けております」


 なにが起きたというのだ……。

 詳細を聞くために、使者を送る。

 一週間で戻って来た。

 東西の国も慌てているようだ。国を守る主力部隊が一日で消失したんだとか。防衛をどうするかで迷っているらしい。

 報告書を開く。


「……見たことのない、空飛ぶ魔物が、魔法を落としただと? それと、東国は王城が崩壊した?」


「異様……、それしか形容のしようがない魔物だったそうです。東国は、新しい国王の座に誰が座るかで揉めているそうです」


「魔物は、ワイバーンではないのか?」


「違うとのとこです」


 ワイバーンは、我が国が繁殖に成功させて、他国に対して優位に立っている。

 考えてしまう……。

 もし、ワイバーンよりも優位な魔物を使役する異世界召喚者が現れたとしたら……。


「次に狙われるのは、我が国だな」


 貴重なワイバーン……。最前線には出したくないが、上空から魔法を撃たれては、地上部隊は終わりだ。

 それは、我が国が追い詰められた時に行う、最終戦術でもある。


 それと、北国に続き東国も当てにならなくなった。兵士は残っていそうだが、率いる者がいない。いや、それ以前に内乱になりそうだ。


「ふう~。次の戦が、この大陸の未来を決めそうだな」

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