第29話 ラノベオタク_貧民街を救う

 朝になり、朝食を頂いた後に、僕は戦場に向かった。

 稲葉が向かった先だ。

 〈転移〉を繰り返して、稲葉たちを抜いて行く。

 稲葉たちは、村で休憩していた。

 そして……、盗賊が観察している?


 僕は、思案したあげく、先を急ぐことにした。稲葉なら、問題ないと判断したんだ。盗賊ごときに後れを取る稲葉じゃない。


「やり過ぎないことを祈ろう」


 砦に着くと、防衛態勢に移っていた。攻められているみたいだ。稲葉は……、援軍か。

 その先の敵陣に向かう。

 油断しきっているみたいだ。兵糧を隠すことはしていなかったらしい。


「少しだけ残して、貰って行くか」


 パパっと、兵糧を〈収納〉して、〈転移〉で逃げる。

 そう言えば、この北国は、三方向から攻められているんだよな?

 少し考えて、他の方向にも向かうことにした。


「かなりの移動距離になるけど、僕ならば一日で帰れるな……。まあ急ぐか」


 道に沿って移動すると、砦が見えた。

 砦と野陣の食料を強奪して行く。〈収納〉は、ラノベ定番だけある。

 人目を気にしながら〈転移〉するとなると、気を遣うな……。

 数人に目撃されたかもしれないけど、顔を隠しているんだし、大丈夫だろう。


「一日に、3ヶ所の戦場を周って、帰国か……。レベルが上がって魔力量が増えていると言ってもギリギリだったな」


 結構疲れたかもしれない。

 僕は、最後に貧民街に向かった。





「あ、若槻さん!」


 アンリが来てくれた。丁度、竈に火をつけて準備中だったみたいだ。

 食料を〈収納〉から出す。奪った兵糧の一部だね。

 前回と同じくらいでいいだろう。それを、住民たちがお礼を言って持って行く。


「今回は、小麦粉なのですね」


 アンリを見る。


「国によって保管方法が異なるみたいですね。でもこれだと、畑に蒔けないや」


「食べるのには、時間短縮できるからありがたいですね」


 アンリは、製粉した方が喜ぶようだ。次からは、小麦粉を出そう。

 手早く料理が作られて、炊き出しが始まった。

 僕たちにも、パンと鍋料理が運ばれて来た。硬い……イースト菌が欲しいな。でも発酵に時間がかかるんだっけ?


 ――ピク


 ここで、足音を拾った。

 そちらを見る。


「中流階級の人たちか……」


 面倒ごとが起きる予感がしないよ。僕は、手早く食事を終えて、彼等の前に立ち塞がった。


「若槻さん?」


 アンリが、不安そうな顔をする。

 でも、スイッチが入ってしまったみたいだ。僕は、アンリを見なかった。


「皆さん揃って、なんか用ですか?」


「食料を分けて貰おうと思ってね……」


 調理した料理だろうに。こないだ提供した食料を無駄にしたのは忘れていませんよ?


「お帰り下さい。あなたたちに分け与える食料はありません。先日の惨状を見せられて、再度出すと思っているのですか?」


 そうすると、武器を向けて来た。

 僕も、躊躇う気がない……。殺気と魔力を解放して行く……。


 ……全面抗争になった。



「「「ぐおおお……」」」


 僕は、一歩も引かなかった。

 そして、殺してはいないけど、体が変な方向に曲がった街の人が転がっている。

 半分ほど制圧したけど、後続は向かって来なかった。

 力の差を理解したんだろう。

 正直、殺したい。だけど……改心の機会を与えようと思う。

 それでダメだったら、街を一度破壊してもいいかな。彼等が住む街を貧民街に変えれば、意識改革になるだろう。


『建物を〈収納〉や〈転送〉すれば、一面の平野に出来るだろうしね』


 怖い発想をする、僕がいる。


「待ちな……」


 一人の初老の男性が前に出て来た。街の人たちは、道を開けている。


「中流階層のまとめ役ですか?」


「話が早くて助かるよ」


 マフィアの頭領ボスが出て来たか……。


『ここだな。この街の分水嶺だ』


 まず、貧民街に手を出させないことを約束させた。

 交換条件として、食料の提供だ。


 その後、街の食堂に案内された。

 そこで、食料を提供する。

 厨房が慌ただしく動き出す。さっき食べたばかりだけど、ステーキが出て来た。


 マフィアのボスの護衛にも振舞われるけど、護衛を止めようとしない。優秀だな。


「端的に言うが、手を組まないか?」


「僕の情報は持っているんですよね? 現地人の協力は必要なさそうなんですが」


「他国の軍を制圧した後は? 制圧兵は多い方がいいだろう?」


 言っていることは分かる。土地をとっても、僕たちだけでは維持はできない。

 でも、マフィアに仕切らせるのか……。一抹の不安を感じる。


「心配しなくてもいいんだがな。俺たちは、王族貴族と繋がっている。ケツ持ちがいるんだよ。何処の公爵家かまで、話した方がいいか?」


 どの道、彼等の力を借りると言っているのか。

 思考を巡らせる……。


『僕たちは、最短距離を進む必要がある。この大陸の統一が目的なんだ』


 僕は、食料を〈収納〉から出した。


「来週には、麦が収穫できると思います。食料は、王族貴族に相談してください」


「手を組むってことでいいんだな。食料は、有難く受け取らせて貰う。先日みたいなことは、もう起こさせないと誓わせる」


 右手を差し出して、握手した。

 これで、もう後には引けないな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る