第23話 ラノベオタク_炊き出しを手伝う2

 その後、僕だけこの貧民街への立ち入りを許して貰った。これからは、自由に立ち入りしていいんだそうだ。

 作業風景を見せて貰う。

 麦が製粉された後に、水でこねられて、塊を作った。


「イースト菌みたいな、酵母はなしか……」


「柔らかいパンは、王城のみで作られています」


 アンリが、僕の隣に座って解説してくれる。まあ、監視かな。

 ふむふむ。料理人の2人に来て貰うか。


 その後は、切り分けた野菜と肉を鍋で煮るだけだった。


「塩とかの調味料ってありますか?」


「……ごく少量のみです。動物を狩れたら、その血液から作る程度でしょうか」


 海は近くにある。製塩に制限をかけているのが分かるな。

 特権階級が、独占してんだろう。塩も出しておくか。


 10ヵ所で焚火が行われている。

 パンが焼き上がり、鍋が沸騰し始めた。

 皆、静かに食べ始める……。


「秩序があるのですね……」


「ありがとうございます。ここでは、僅かの怪我でも命取りになるので、出来るだけ争わないように説得しているんです……。ですが、一部の人たちは、話を聞いてくれませんので、地域で争っています」


 ギャングとかヤクザになんだろうな。

 その後、アンリにも食べて貰い、僕も同じモノを食べた。食事の改善は必須だな。

 食文化は、文明の発展に必須だ。


 食事が終わったら、片付けだ。

 でもその光景に驚いてしまった。

 下水道っぽい、汚い川で食器を洗っているからだ。


「ここの川の水しかないのですか?」


「飲料水は、井戸から得ています。ですが、これだけの人数だと、井戸が枯れてしまい……」


 なるほど、川の上流は貴族が使い、下流に近づくほど、階級の低い人たちが住むんだな。

 川に汚染対策でも施せば、誰もが綺麗な水を得られるのにな……。


「下層階級から救って行くのが、一番命が助かりそうですね。水と食料、それと衣服と薬……。動けるようになったら、仕事と家。順番を間違わないようにしないといけませんね」


「えっ……?」


 アンリが、僕の言葉に驚いた顔を見せた。


 その後、帰ろうとしたら、教会に寄って欲しいと言われた。

 協会の中には、少し壊れている女神像がある。


「女神のヒストリア様になります。信仰の対象としております」


 アンリが、祈り出した。僕も真似るけど、祈ったことがないので、真似だけだ。

 その後、教会の裏へ案内された。

 質素な部屋に入る。


「何処ですか? ここは?」


「私の私室になります」


 珍しい本でも見せてくれるのかな?

 そう思ったら、アンリが脱ぎ出した。

 スルリと衣擦れ音を残して、下着姿になったんだ。


「これしか、対価が払えなくて……」


 そんな考えを持たせていたか。

 僕は、アンリに服を着せた。


「私では、お気に召されませんか?」


「う~ん。全部終わったらで、どうでしょう? 僕は、前世に帰るつもりでいます。でも、そうなると、『やり逃げ』になるのかな? クズ男とか言われるのは避けたいな」


 アンリは、複雑な表情をしている。

 安心したというか、残念というか……。


「明日もまた来ます。僕にも仕事があるので」


「分かりました。待っています。それと……、食事は、3日に一回でした」


 毎日は、来ないで欲しいということか。

 情報を集めて行く。

 ゆっくりと、変化させないとな。贅沢を覚えさせた後に、暴徒化するのが目に見えている。


『民衆がこれでは、一手間違っただけで、国が終わるな』


 その後、見送りを受けて貧民街を後にした。



 街中を進んで行くと、また絡まれた……。


「なあ、俺たちにも食料を施してくれよ」


 貧民街――スラムではない場所で、足止めを食らう。


「あなたたちは、まだ追い込まれていないのでしょう?」


 かなり痩せてはいるけど、食べてはいると判断する。

 僕たちの会話を聞いた人たちが、僕を取り囲んで来た。


「……まあ、いいか」


 僕は〈収納〉の中から、先ほどの貧民街と同じ量の食料を出した。

 そうすると、奪い合いが始まる。


 僕は、〈転移〉して屋根の上に逃げた。

 その後、その様子を見る。


「あ~あ。折角の食料なのに踏み付けちゃって……」


 麦の袋が破かれて、粒が散らばる。乾燥野菜は、引き千切られて、葉っぱ一枚を持って行けるかどうかだ。

 肉は……ラグビーボールみたいに運ばれているけど、刃物が出て来たらその人が止まった。肉を手で毟っているよ。


「ダメだな。出すんじゃなかった」


 アンリみたいな、指導者がいないと、こうなるんだな。中流階級は、終わっているのかもしれない。

 治安の悪化……。暴徒化寸前だな。

 もう、彼等は信仰も失っているみたいだ。

 最終的に、僕の出した食料は、ほとんどがダメになった。


「いたずらに、混乱を招いただけになっちゃったか……。まあ、これで次来る時に会えるだろう」


 かなり時間をかけてしまったかな。

 僕は、王城へ向けて〈転移〉した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る