第10話 漫画オタク_魔法を開眼する

◆稲葉(炎魔法使い)の視点



「ふうぅおおおお~~~~!」


 

 俺は、体に纏っている炎の出力を上げた。

 先日は、使い方が分からずに自分の手を焼いてしまった。

 かなり痛かったが、俺たちの大将に治して貰えたので、事なきを得た。


 回復役を見つけたのは大きい。

 これで、死なない限りは、怪我をしても問題ない。


 その俺たちの大将だが、ステータスが歪だった。

 スキル〈変身〉と魔法〈透明化〉……。

 俺のコンプレックスだった、腹の脂肪を消滅させてくれたのは、感謝しかない。凄すぎるスキルだと思う。

 女湯も除き放題だし。本当に行かなかったのだろうか?

 そして、俺は見抜いていた。あれは、武術の心得のある人がその癖を隠す動きだ。


 試しに、前線に行くように頼んだら、あっさりと引き受けてくれた。レベル1でだぜ? どんだけ自信があるんだか。

 普通の人であれば、拒否するだろうに……。

 隠せよと言いたい。


 大将以外の2人と、出会えたのも大きい。

 あれは……、俺と同種の人間だ。


「負けてらんねぇな……」


 拳程度の岩を掴み上げる。


 ――ポコポコ


 岩が融け出した。この程度の温度にしか、上げられないのか……。一瞬で、気体にまで沸騰させないと、無敵には程遠いな。


 ――グシャ


 岩を握り潰す。


「こんなんじゃダメだ!」


 手に火傷は負っていない。もう、魔力の流れは、把握していた。

 そもそも、自分の生み出した炎で自傷するなんて、どんだけお粗末な魔力操作だったのか。俺の黒歴史だ。


「のう、稲葉殿。炎を抑えてくれないだろうか?」


 声の方向を見る。

 俺の指導役になった騎士がいる。鎧を身に纏っているが、この国でも上位の魔力の持ち主なのだとか。

 ステータスは、教えてくれない。


 俺は、身に纏っている炎を抑えた。


「ふうぅ~。兵士にとって一番必要なのは、体力だよな……」


 漫画の噛ませキャラは、ここで魔力のみを高めようとするだろう。

 そして、砲台として多くの敵を屠れるのだろうが、最後に主人公に倒される。

 俺は、そんな役回りはごめんだ。


「とりあえず、走るか……」


 その前にトイレだな。

 さっきから大きい方が止まらない。そして、トイレから出る度に体重が減る自覚があった。

 体の不要な脂が、消費されているのが分かる。

 もう、怠惰な前世を送った俺はいない。


「稲葉殿? トレーニングメニューはこちらで決めたいのだが?」


 正直、従う理由がなかった。

 俺はとにかく走った。もう、膝が笑っても走った。オーバーワークかもしれないが、大将が戻って来てくれたら、膝を修復して貰う予定だ。

 ゲロゲロと吐いて、また走る。また、吐く。それを繰り返した。



 そして、数日が過ぎた。


「魔力の操作……。魔力を任意の形に留める。そして、放出を止める……。その後に、全開で放出する!」


 魔力の練習は、これだけで十分だった。

 それを俺は、漫画で知っている。

 生れてから魔力を使っている現地人に対しても、俺は魔法の造形で劣っているとは思っていない。

 それは、周囲を見れば明らかだ。


『俺の1/10の魔力量……。攻撃魔法もショボいしな。現地人に対して優位に立てるのは、ラノベ原作漫画のお約束だ』


「くっ。稲葉殿。出力を抑えてくれ!」


 毎日付き纏って行くる、俺の監視役がうざいな。


「ふうぅう……。なんか用か?」


 そいつを見る。


「魔法にも戦術がある。一人だけ高い魔力を持っていても、集団戦となれば負ける。そろそろ、我々との連携を行わないか? いや、成長期間でいえば、早過ぎるほどなんだけどな」


 集団戦……か。

 相手が徒党を組むのであれば、こちらも組むのが当たり前かもしれない。理屈はあっているが、レベル差を考えているのか?


「10人……。選んでくれ。1対10でいい。魔法戦と行こうぜ」


 俺の言葉に、騎士たちが殺気立った。いや、彼等は魔法使いかな? 魔導士?


「……稲葉殿。いくらなんでも、それは!」


「死ぬ気でやろうぜ? 集団戦術を見せてくれよ。この世界の連携ってのがあるんであれば、見せてくれ。納得したら俺も参加する。まあ、俺に魔法が届くのであればだけどな」


「はあ~!? 異世界召喚者だからって、自分が特別だと思ってんのかよ! 今の言葉忘れんなよ!」


 煽り耐性のない奴等だな。

 これだけで、殺気立って来た。正直、笑えて来る。


 模擬戦が始まった。

 魔法が飛んで来る。それも、殺傷力のある魔法だ。それを躱す。

 そうすると、地面が動いた。なるほど、土魔法で転ばせるのか……。

 身軽になった俺は、魔法を躱して行く。氷魔法が、滑るし足をとろうとして来るけど、全て見えている。


「発想力のない連中だ」


 そして、バテ出した……。

 威力も低ければ、発動数も少ない。これで、本当に戦争に行っているのか? この世界における魔法は、戦争でたいして役に立っていない気がする。


 俺は、炎を纏い飛んだ。


「ふむ……。飛行すら可能か。俺の〈炎魔法〉……。王道だけど、ある程度の汎用性はあるな」


 その後、空から爆撃する。

 すぐに、白旗が上がった。


「俺がこいつらを鍛え上げないと、この国が終わるな……。ステータス」


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 名前:イナバ(稲葉)

 職業:異世界の漫画好き(オタク)

 レベル:10

 HP:70×10

 MP:1000×10

 STR(筋力):80×10

 DEX(器用さ):20×10

 VIT(防御力):200×10

 AGI(速度):75×10

 INT(知力):500×10

 スキル:根性、自動翻訳

 ユニークスキル:魔界の黒炎

 魔法:炎魔法

 称号:異世界転生者、最強を目指す者

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