真の求道者は異世界を救う~異世界召喚者の中にオタクが含まれていました~

信仙夜祭

第1話 異世界召喚にオタクが含まれていました

 ……目が覚めました。

 硬い床で寝ていたようです。


「また、貧血を起こして、倒れたのでしょうか? 久々ですが、また周囲に迷惑をかけてしまいましたか……」


 昔、街中で倒れて、救急車のお世話になったことがあります。

 今回は、誰も助けてくれなかったみたいですね。

 ゆっくりと、上体を上げます。


 周囲を見渡すと、私だけではなかった?

 十数人の人たちが、床に寝ている?


 右手の側の女子高生のスカートが、捲れている。

 いけないと思っていても、見入ってしまう自分が悲しい。


『どうしましょうか……。スカートを下げてあげたいですが、触れた時点でアウトですよね。社会的な死が待っています』


 ここで、全員の意識が戻ったのか、全員が動き始めました。


「なにが起きているのでしょうか……」


 石畳の床に、彫刻みたいな柱。窓はなく、蝋燭による照明。

 明らかに、令和の建物じゃないですね。


 私は、壁際に移動しました。

 全体を見渡せる位置です。


「男性10人に、女性10人でしょうか。高校生が多いですが、私服の人もいますね。ですが、年寄りは、私だけみたいです」


 拉致にしては、状況がおかしい。

 私の知識では、こんな偏りはあり得ない。

 少なくとも、ヤクザではないと思うんですが。


 全員が目覚めたみたいです。

 グループを作り始めて、状況を確認していますね。


 ――バン


 ドアが開かれました。

 中世の完全武装した騎士っぽい人が、入って来ました。槍を手にしていますよ。あれは……、ダメですね。


「「「きゃあ~~~!」」」


 若い女性の悲鳴が上がります。当然ですよね。


 私は……、見逃しませんでした。


『3人かな……。動揺が見られなかった人たちは』


「貴様、中央に移動しろ!」


 私は、壁際にいたので移動を促されました。


「はい、すみませんね」


 不味いですね。包囲されてしまいます。

 だけど、こんな部屋であれば、出入り口を固めるのが上策でしょうに。非武装の相手に狭所で包囲する意味が分かりません。


 20人の混乱する非武装の民間人に対して、完全武装の騎士もどきが30人部屋に入って来ました。

 その後に……、着飾った女性です。王族っぽいですね~。

 歳は若作りしてるますけど、私と同じくらいと想定しておきます。

 ここは、うら若い王女で懐柔して来る場面だと思うのは、口に出しません。


「良く来てくださいました。異界の勇者様方。ここは、セントラルガルド中央国。現在、敵軍の進撃を受けて滅亡の危機に瀕しております」


 ふむ……、『異界の勇者』ですか。ラノベのテンプレですね~。


 ――ドカン、ガラガラガラ……


 王族の話を無視して、大きな音がしました。土煙が凄いんですけど。

 こんな密集した場所で、爆発物ですか?

 煙が晴れて来たら、驚いてしまいました。


「黒い……炎?」


 ネタで良くありますけど、光を吸い込む炎は、科学的に生み出せないはずです。『魔界の黒炎』とかに例えられますけど……。


「ふむ……。魔力ありの異世界転移か」


 小太りの男子高校生が、なにかを納得した感じで、その黒い炎を操っていました。


「貴様! なにをしている!」


 近くにいた騎士が、槍を向けますけど、その槍の先端が熔けました。

 騎士たちが殺気立ちます。


「これはいけませんね。こんな狭所空間でそんな火力を使っては、酸欠か蒸し焼きになってしまいますよ」


「……ああ、そうだな。おっさんの言うとおりだ」


 その高校生は、炎を収めてくれました。

 私は、その高校生を論破出来たようです。話を聞く頭はあるみたいですね。


「「ぎゃあ~!?」」


 今度は、別な方向を見ます。

 壁に頭を突っ込んだ騎士と、鎧が変形して捩じれている騎士が悲鳴を上げています。

 実行犯と思われる、これまた男子高校生と二十歳くらいの2人を、騎士が取り囲んでいます。


「逆効果でしょうに、騎士を皆殺しにして、ここから出て行くのでしょうか? 一生追われますよ? 元の世界に帰る気もないのですか?」


 2人の青年は、私の言葉に納得してくれたみたいです。座ってくれました。

 それを見て騎士たちも、槍の穂先を外しました。



 その後、話を聞きます。

 要は、滅亡寸前のこの国を救えということらしいです。

 私が、目をつけた3人以外は、不満を言い始めます。


「拉致だろう!」

「いや~、家に帰りたい!」

「民間人に、戦闘を強いるというのか! 法律はどうなっているんだ!」


 まあ、正論ですよね。


「他国を制圧し、各王都にある『国宝』を集めれば、元の世界に帰せます。これは、皆さんのためでもあるのです!」


 テンプレだけど、胡散臭いことこの上ないですね~。

 どうやって異世界召喚したのかと、突っ込みたいですよ。


「知らねぇのかよ。こういうのはな、ラスボス倒してから帰るもんなんだよ。そんなことよりさ、ステータスとかないの? 測定装置とかさ~」


 先ほどの、黒い炎を出していた男子高校生が話を遮ります。

 王族の女性は、絶句していますよ。

 なんで、この後の展開を知っているのかって話ですよね。


 ここで、水晶玉が出て来ました。

 3人が先だって、測定を受けます。


「なあ、このステータスを比較する相手が欲しいんだけど? 数値化されても、比較対象がいなければ、意味ないじゃん?」


 ふむ……。分かっている人がいますね~。


「ここにいる騎士で、ステータスは100前後になります」


「ちっ。魔力は、1000かよ。まあ、レベルの項目があるからこれからだな」


 騎士たちが、青ざめたのが分かりました。

 その後、他の2人も計測を受けます。


「どうなんだ?」

「「手の内を明かすのは、愚者じゃね?」」

「こうゆう場合はさ、舐められたら終わりじゃね? 一人だけ追放とかしそうだけど、初期値が高い俺は、ザマーとかされたくないんだわ」

「なるほどね」

「全員での帰還が目的ならば、異論はないな。だが、後にしよう」


 この3人は、慣れていますね~。異世界転生・転移の経験があるのでしょうか?

 誰もいなかったので、私が次に測定を受けることにしました。


「ステータス?」


 拡張AIのような、ウィンドウが見えます……。


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 名前:イケガミ(池上)

 職業:異世界の知識人(オタク)

 レベル:1

 HP:50

 MP:300

 STR(筋力):100

 DEX(器用さ):500

 VIT(防御力):50

 AGI(速度):900

 INT(知力):900

 スキル:変身、説得、居合術、自動翻訳

 ユニークスキル:異界の知識トレース

 魔法:透明化

 称号:異世界転生者、刀神

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「本格的な、異世界転生・転移モノみたいですね~」


 実際に、自分の身に起きるとは、思っていませんでしたよ。

 そして、ステータスに1000超えはありませんでした。

 それにしても、歪ですね~。


 私は使えそうにないので、追放されそうなステータスみたいです。(涙)

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