3-3-b なにを見ましたか?
ひとつ。魔法少女は補導されない。
したくてもしようがない、というのが実のところだ。呪文を唱えてステージ・フィールドに逃げこめば、人間の警官や補導員には追いようがない。だからこそ、彼女たちを管理するコミューンの責任は重く、契約者にGPSを持たせることも、人間の姿で社会にまぎれこむことも許されている。マスコットに睡眠以外の生理的欲求はなく、アルコールや薬物等が効かない点も重要だ。飲めば息はクサくなるが。
「ぱぱかつじゃないぱぱかつじゃないぜったいぱぱかつじゃないッ……!」
「ユウキ、聞いてるか? おいっ?」
学校前で絶叫しはじめたときと同じ精神状態に飲まれかけていたのをヨサクに引き戻される。が、正気になればなったで状況証拠が押し寄せてきて――ついでに自コミューンの
「絶対違うって、信じてるからね、雀夜ちゃんっ!」
「落ちつけって。それを確かめに来たんだろ? まぁ、校門前で待ち合わせる時点で違うとは思ってたが、こう来るってなると、もっと厄介なものに巻きこまれてる可能性だってある」
「そ、そうですね。ボクらが冷静に、慎重にならないと」
「だから、まずはドレスコードだ」
「へ?」
ヨサクがパチンと指を鳴らす。コミューンリーダーの権限で、たちまちふたりともギラギラした総柄シャツと革パンツのコーディネートに。ヨサクは上にワインレッドのジャケット。ユウキは千鳥格子のダブル。おそろいの丸目のサングラスまでかけさせられたのをいったんはずして、ユウキはうめくような溜め息をついた。
「いつもの
「うし。潜入ッ」
「先輩、ちょっと楽しんでません?」
ユウキの白い目も見ないふりをして、ヨサクは店の扉をあけた。
潜入とは言ったが、店側には素直に魔法生物の身分証を見せ、契約者の素行監視業務と称してホールへ通してもらう。開店直後だがすでにパラパラと客がいて、DJはゆったりとアンビエントな曲を流していた。
ざっと見まわすも、覚えのある姿はない。ユウキは少しバーテンと話そうと思って、カウンターに近づきかけた。
「待て」
ヨサクが肩をたたき、ホールの隅をあごで指す。間接照明に照らされた『
ふたりしてなにげない足取りで、小窓を正面から
「いました! たぶん四番目の部屋ッ」
「個室か。いよいよやべーな」
「未成年ですよ? お店にかけ合えば、奥に入れてもらえるんじゃ……」
「断るような店だったときが面倒だ。ほかにも手はある」
こっちだ、というヨサクの先導で、連れだって化粧室に入る。客がいないことを確認するや否や、ヨサクは「行くぞ? パペット・アウト・オン・ステイジッ」と唱えた。
気がつくと、深海のような無限の空間に浮かんでいた。さらにふたりとも、羽根のない子竜を模したぬいぐるみのような姿にも変わっている。ステージ・フィールドに移動したことをユウキが理解すると、うなずいたヨサクがふたたび先導し、「たぶんこのへんだ」と告げるところまで移動した。
「まずは部分的にフィールドを解除する。そっから人間界を覗きこめる」
「器用ですね」
「だてにトシ食ってないぜ」
「
「声は伝わるから叫ぶなよ? パペット・オーバー」
ヨサクのマシュマロのような手が光り、空間を横一文字になでる。
ファスナーをひらいたように空間が裂け、裂け目から別の景色が広がった。
濃く日に焼けた褐色の膝小僧。厚手のスカートに周りを囲まれた、むっちりとした二本の太もも。
奥にあるへそ周りは日に焼けておらず、やわらかそうな白肌の
紐――紐としか言いようのない下着だ。
ユウキが絶叫するコンマ一秒前にヨサクは裂け目を閉じた。後輩の頭のヒレをつかんで、フィールドを垂直に移動する。いくらかヤケクソ気味にもう一度「パペット・オーバーっ」と唱え、真下に向かって手を振ると、さっきの部屋を見おろせる位置に裂け目をひらくことができた。
四人がけ程度のテーブルがひとつあるだけの狭い部屋だ。
丸いテーブルの周りはソファが囲っている。隅にテレビと音響機材が置いてあり、壁もソファもこってりした
ソファに座っていたのは、三人の女子高生。
こっちの町にある高校とひと目でわかる、リボンの多い
三人そろってごく最近目にしたばかりなことに、ユウキはまたも声をあげかけた。
(このエリアのランカートリオ、キャベリコ☆キトゥンズ!?)
誰も覚えていなさそうなユニット名も、よく記憶しているのがユウキだった。
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