2-7-a ゲームは好きですか?
上空のキラメキ・クリスタルの
曲は最初のサビが終わりかけていた。琉鹿子は二番から入るつもりだろう。銀のタクトは出しているものの、いまだ
その琉鹿子と
物言わずたたずむ異形の楽器たち。ヨサクは
「だが、ルカちゃんは
ヨサクは
「後追いって時点で、評価は格段にしぶくなる。簡単じゃねえぞ?」
「こういう場合、セオリーは?」ユウキがたずねた。ヨサクは間を置く。
「強いアレンジを当てて、自分の側に引っ張るか。だが、たいてい悪手だ。ライブを壊すリスクのほうが高い。かといって、バカ正直にカブせて勝とうなんて、マジで力技になる。そもそもこの状況でパートを獲りに行くことからしてセオリーじゃ……」
話しているうちにサビが終わる。
すかさず
琉鹿子の金色の魔楽器たちが一斉に目覚める。上方から流れてくる
「
間奏が終わり、ふたつめのAメロが始まってもまだ同じだった。音の量が楽器二台分に増えただけ。旋律もリズムも、音質すらも変わらない。ヨサクたちは戸惑ったが、パステルカラーの
「たはーっ! ムリムリムリ! いくら《
「……」
自分のパートの空きを使って紫髪の魔法少女が野次を
二番のBメロ、そしてサビさえなにごともなく終わり、最後のサビの前のCメロに入った。
ステージの昇降は止まってはいる。しかし高低差はとうから歴然としている。
天使たちの吐きだす泡に取り囲まれながら、日かげのような下層で演奏を続ける琉鹿子を思い、トリオは勝利を確信した。
琉鹿子の演奏が自分たちの下支えとなりさがってる優越感も彼らを押しあげ、歌も魔法もいつになくキレが増す。いまなら琉鹿子だけでなく、誰にも負けない。自分たち以上の魔法少女ユニットなどどこにもいない。三人はまったく同じ
「あら、こはり? いまトチった?」
「はあ?」
もうすぐ二度目のサビというところで、緑衣装でくり色巻き毛の少女が紫髪の少女に聞いた。からかうような言いぐさに、紫髪も「ンなわけないやろっ」と鼻で笑い返す。
「
「へっ?」
ふいに思いがけない場所から野次が飛んできて、くり色巻き毛の声が裏返る。あまりそういう冗談を言わない白衣装の黒髪少女からだ。彼女もふざけたくなるくらい高ぶっているのだろうかと巻き毛が首をかしげるそばで、紫髪が黒髪を見ていた。
「ふわの? いまどこ弾いとるんや?」
「ん? ほぇ?」
黒髪の動きがひたりと止まる。しっぽで握った魔法の弓とバイオリンは演奏を続けている。その光景を自分で
「な、なんやこれ? ウチもズレとる。え?」
紫髪も自分のバイオリンを見る。見たところで
最後のサビが来る。
違和感を抱えたまま演奏を続ける。どうにか立て直そうと調整を加えるが、そのたびにズレている感覚が悪化する。黒髪と紫髪だけではない。巻き毛のバイオリンも音が
「なに、なにこれっ、なんで合わないの!?」
「ちょっと、絽々! ハープが!」
黒髪が叫んだ。ハッと振り向いた巻き毛のそばで、グランドハープが盛大に音をはずしていた。巻き毛は集中し、ハープを落ち着かせようとする。だがバイオリンもズレつづける。
「る……琉鹿子ォ! なにしよったァ!?」
こらえきれず、紫髪が歌も
ステージのふちから
「さぁ? 飛ばしすぎてお疲れなのでは?」
ぞんざいにあしらい、はらりと手を振る。かたわらの
「落ち着いてゆぅっくり立て直してはいかがでしょう? ルカコはまだ周回遅れですし。もっとも……」
よくできた犬をほめるように、琉鹿子はグロッケンをやさしくなでた。
「
「なんやと……」
「ふわのッ!?」
鋭い悲鳴に紫髪の背すじが跳ねる。
振りかえれば、くり色巻き毛が見たことのない
「なにしてるの!? いまピッチあげないで!」
「あげてない! あげてないけどッ!」
「ちょ……絽々、ふわ、なんで……」
「あかん……コレあかん! 一回止めぇ!」
「止めれるわけないでしょ! 琉鹿子がっ、るか――」
怒鳴りあったそのとき、
三人は同時に理解した。
旋律と旋律のすき間で、その音が鳴る。
ぽきん、ぽきんと、どこかで鳴る。
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