1-3-a 女児ではありませんが?
撮影機材もなければベッドもない、扇風機とちゃぶ台が置かれているだけの八畳間だった。床の隅には少年向けのマンガ本が積まれている。
雀夜が住んでいた家も似たようなものだったが、こちらのほうが殺風景に見えるのはテレビがないせいだろう。ひとしきりながめて納得した瞬間、死角だった入り口側の壁ぎわに人がいることに気づいて、雀夜はハッとした。
その姿をちゃんと見て、さらに息を飲む。
(……すごい)
十人が見て十人がうなずくような、美しさと呼べる異彩を放つ少女だった。座布団の上で眠るように気配なく座っていたのに、一度見つけてしまえば目を離せなくなる。
ふくらんだ袖が特徴的なグレーのセーターにワイシャツ姿。襟には
長いまつ毛を
「…………」
「……どうも」
「……」
目が合って、数秒。無言のまま顔色も変えない少女に、雀夜はとりあえずの
「……?」
さすがの雀夜も、鼻白んで首をかしげてしまう。
と、そこへ追いついてきたユウキが、廊下から顔を出すや少女を見つけて「あっ、
「あれ? なんか、機嫌悪い……?」
「へーい、詰めろ詰めろぉっ。ユウキクンのドゥチェー卒業記念ぱーちーだぁっ」
「ちょっと。セクハラ」
「どるちぇ? ってなに?」
「先輩っ! また誤解させるようなこと言わないでくださいって!」
廊下から男を先頭にして一斉に出てきた三人組に、ユウキと雀夜はまとめてベランダ側へと押し流される。
その様を、頭を動かさないまま、琉鹿子は横目に盗み見ていた。誰にも聞こえないほど小さな声で、ほんのひとことだけつぶやきながら。
「……わざとらしい」
★ ★ ★ ★ ★
ひとまず来客用らしい厚手の座布団をもらって、
「じゃー、特にひねりもなく自己紹介なー?」
ユウキと反対隣りには、小さな女の子と白髪の若い男が上座側から順に並んで座っている。色眼鏡の下で目と口をニヤリとほぐしながら、男は女の子の頭に片手を乗せて雀夜のほうを向いた。
「まず、こっちのちっこくてかわいーぃ十四歳が、
「ハナビですっ。よろしくねっ、サクヤちゃん!」
頭に置かれた手を両手で捕まえながら、女の子も元気よく続く。彼女は男の手をいやがっている様子ではなく、むしろ握っていると安心するおもちゃのように指先でフニフニともてあそんでいた。雀夜もすかさず頭をさげる。
「よろしくお願いします、華灯さん」
「サクヤちゃんおっきいね! なんセンチ?」
「91センチです。しかしアンダーが太くて」
「そ、そっちじゃないよっ……?」
「春の健康診断では169センチでした。おそらくそこからもう2、3センチ」
「ふわーっ!?」
「俺ちゃん抜かれそうだなぁ」
片手を華灯にされるがままにしたまま、ヨサクと名乗った男も面白そうに肩をゆする。雀夜はその顔をじっと見てたずねた。
「ヨサクっちさんは
「そ。俺ちゃんがどーん」ヨサクは冗談めかして、あいている手をこめかみに当てる。「看板は持ってなさそうだろ?」
「……そうですね。事務所でお金を数えていそうです」
「ヨサク先輩……?」
雀夜が調子を合わせる隣りで、金髪で背の高い後輩が
「さてさて。んで、こっちにいるこわーいオネーサンと美少女が、キッカたんと、
「つっこまないわよ。もう……」
琉鹿子と呼ばれた少女と並んで、雀夜の向かいに座っていた女性が眉をひそめてヨサクをにらんだ。が、すぐにその
「初めまして、
「ルカコ。名前で結構ですわ。仲よくしましょうね、間鋼さん?」
「……?」
雀夜はまばたきをした。
キッカの隣りですましていた少女、榊琉鹿子がキッカにならうように、人なつっこい笑みを雀夜に向けていた。口ぶりこそやや尊大に聞こえるが、あしらうような冷めた印象はどこにもない。雀夜はぎこちなくなった所作で「はい、よろしくお願いします。キッカさんに……」と頭をさげるためにいったん視線を外し、もう一度上目に見間違いでないことを確かめてから、「……琉鹿子さん」と名を呼んだ。
「そっちのふたりはな、近くにある別のコミューンの所属なんだ」と、すかさずヨサクが補足した。「まーちょっと縁があって、ウチにはちょくちょく顔を出してる」
「ハイ」
雀夜は顔をあげると同時に手をあげた。了解の返事ではなく、質問だ。
「『コミューン』とはなんですか?」
「あー? まぁ、つまり、俺ちゃんたちマスコットの生活グループ……要は、〝群れ〟って感じだな。住んでる
「ハイ」雀夜はまた手をあげた。
「マスコットとは?」
「おりぃ? そっから?」
「ちょっと、ユウキくん?」
面食らった声をあげたヨサクの隣りで、キッカが険のある声と目を別方向へ向ける。視線の先では白スーツを着た大きな体が猫背気味に体を丸めていて、雀夜以外にはまだ
「じ、実は、その……うまく、説明できてなくて……」
「できてないって……じゃあ、まさか!?」
キッカの声に険が増すと同時におののきが加算される。ヨサクも気まずげで、華灯もオロオロとしていた。
沈黙が圧力を増して視線を集めつづけるうち、ユウキの口から砂をしぼったような声が切れ切れにもれた。
「まだ、契約、できてない…………です……」
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