4-3
林田詠美は普通の高校3年生である。
普通の家庭に生まれ、普通に育っただけの、普通の高校3年生。少なくとも本人はそう思っている。
きっと、この先は普通の大学に入って、普通の企業に就職して、(もしかしたら普通に結婚して、)普通の人生を送ると漠然と信じていた。
だから、彼女は現在自分の身に降りかかっている事態を理解出来ていなかった。
「か、佳美奈ちゃん……これどういうことなの……!?」
彼女たち——詠美と佳美奈と儀武——は、函斗駅前で、細身と小太りの宇宙人2人と、宇宙人が操るロボット3体に包囲されていた。
函斗美術館で『廻閃機神ギガマリナー展』を見て、ステーキレストランはげで食事をして、ポラリス函斗をぶらぶらして、駅前で宇宙人に襲われている。
詠美は今日あったことを順に思い返す。余計、わけがわからなくなる。
「さあ、お前らは俺たちと一緒に来てもらうぞ!」
自称宇宙人のうち、細身で背の高い方が、銃らしきものを手に脅してくる。どうやら人質にしようとしてるということは、詠美にも理解出来た。
「参ったなあ……まさかここまで卑怯だとは……」
「君枝さぁん……これはいったいなんなんですか? 私たち攫われちゃうんですか?」
「このままだと、そうなるわね」
「ひいいいいいい!」
詠美は恐怖した。宇宙人に攫われたら人体改造されて生涯を実験台として過ごすことになると思い込んでいるからだ。
サイレンの音が近づいて来る。パトカーが2台、駅前に向かっていた。
「君たち何をしている! その人たちから離れなさい!」
警察が銃を構えて叫ぶ。
「ふんっ、そんな貧弱な装備で来るとは」
宇宙人の1人が指を鳴らす。
ロボットのうちの一体が、両手を上げて、振り下ろす。パトカーのボンネットが、紙屑のようにひしゃげる。
「ひ、ひいいいいい!」
「うわああああ! 総員退避いいいい!」
警察はパトカーを置いて走って逃げた。
儀武がため息をつく。
「さあ、お前らを助けられる者はいないぞ! おとなしく俺たちについてこい!」
「きゃああああ!」
ロボットの腕が詠美に伸びる。
掴まれる。詠美が目を閉じた瞬間、大きな音が響いた。おそるおそる目を開ける。ロボットの腕が、地面に落ちていた。
「……は?」
宇宙人が唖然としていた。
佳美奈が、詠美の目の前で脚を高く振り上げていた。
「
「な、何が起きた!?」
「ア、アニキ、これを見てくれ!」
小太りの方の宇宙人がタブレット型PCのようなものを見せる。2人の表情がみるみる驚愕に変わる。
「け、蹴りで腕を切り落としただと!?」
佳美奈が両手を前方に構える。
周囲に風が逆巻く。
「よくも詠美に手を出したな……」
佳美奈が爪先に体重を乗せる。瞬間、姿が消えた。
「ど、どこに消えやがった!?」
「ア、アニキ! あれ!」
小太りが指差す。3体のロボットの全身に亀裂が走っていた。
前方への急激な加速からの連撃。誰一人として、その姿を捉えることが出来なかった。
「白神流【
ロボットが一斉に爆発四散する。
宇宙人2人の顔がみるみる青くなる。
「うわあああ!」
「おい馬鹿やめっ……」
銃声。駅前に響いた。小太りの方の宇宙人が、あまりの恐怖に引鉄を引いていた。
「馬鹿野郎! ボスに非戦闘員は絶対に傷つけるなって言われてただろうって……え……?」
銃弾は佳美奈に当たってなかった。掌に、受け止められていた。
「……白神流【
粉々にされた銃弾が、地面にぱらぱらと落ちる。
宇宙人たちその場にへたりこんだ。小太りの方は股間が濡れていた。
「か、佳美奈ちゃん、その辺にしてあげて……?」
詠美は佳美奈が過剰に痛めつけることを危惧していた。彼女とは小学校以来の付き合いだが、他人のこととなると盲目的になりがちなのだ。
「そうだね。罪と罰は釣り合ってなくちゃいけないからね」
宇宙人は地面に頭を擦り付けていた。念の為学んでおいた、この星の降伏方法だ。
「本当に申し訳ございませんでした! 許してください!」
「許してください!」
佳美奈は再び構えを取る。
光の奔流が走り、佳美奈の右足に集まってくる。
「はああああ……」
「か、佳美奈ちゃん!?」
「白神流奥義【
佳美奈が2人をまとめて蹴飛ばす。
宇宙人たちが物凄い速度で飛んでいく。
「謝ったじゃん! 謝ったじゃん!」
2人はそのまま空の彼方まで飛び、きらりと光って見えなくなった。
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