第二話 Jリーグ開幕

 一九九三年。日本で初のプロサッカーリーグ、Jリーグが開幕しました。開幕戦はテレビ中継も行われ、日本中が大盛り上がりでした。地元のサッカーチーム、浦和レッズの試合を、よくテレビで観戦しました。開幕当初のレッズは非常に弱く、負けてばかりでしたので、嫌になってすぐ見るのをやめてしまった気がします。しかしJリーグ開幕の翌一九九四年、浦和レッズに物凄い新人が加入しました。百メートルを十秒台で駆け抜ける、快速フォワード岡野雅行です。走るだけでスタジアムが沸きました。テレビ観戦から少し遠ざかっていた自分ですが、その噂を聞き、またサッカーを見るようになりました。それ以降、Jリーグ浦和レッズの試合は、今も可能な限り見ています。

 ドーハの悲劇を経て、一九九八年。フランスワールドカップ出場をかけたプレーオフが行われました。相手は強豪イラン。代表通算一〇九得点という、現在世界で二番目の大記録を持つイランの英雄、アリ・ダエイを擁するチームでした。因みに、クリスティアーノ・ロナウドが持つ一二七得点が、現在の世界記録になっています。試合会場は中立国のマレーシア、ジョホールバルでした。日本は中田英寿から中山雅史へのスルーパスで先制しますが、後半アリ・ダエイのゴールなど二点を奪われ、逆転を許しました。しかし日本も負けていません。途中出場の城彰二が中田英寿のクロスボールを頭で合わせて同点に追い付きました。こうしてゴールデンゴール方式 (先に一点取った方が勝ち) の延長戦に突入すると、最後の交代枠として投入されたのが岡野雅行でした。快足を飛ばし、疲労困憊のイランディフェンス陣を搔き乱しました。再三、決定的なシュートを外した岡野雅行でしたが、延長後半の残り僅かというところで、中田英寿のミドルシュートをキーパーが弾いたこぼれ球を押し込みました。日本のワールドカップ初出場が決まった瞬間でした。

 こうして掴んだ初めてのワールドカップは、三戦全敗という、ほろ苦い結果に終わりました。テレビの前で、自分も悔しい思いをしました。アルゼンチンのバティストゥータにやられたシーンは、今でも鮮明に思い出せます。


 二十代の自分は、フリーターとしてアルバイトに明け暮れていました。最初のアルバイトは、某・業界最大手の古本屋チェーン店でした。幼少期から本が好きだった自分。将来の夢は古本屋になる事でした。個人経営の小さな古本屋を営みつつ、空いた時間で好きな小説を描くという生活を夢見ました。ですから、アルバイトとして大手古本屋の店員になるというのは、夢が叶ったような、叶っていないような、微妙なラインです。雇われ店員で、自分の時間などありませんから、イメージしていた暗い店内の奥で、カウンターに座りながら物語を紡いでいる、という姿とはだいぶ違います。反面、大好きな本に囲まれ、休憩時間にはバックヤードの本を読み漁ったり、今まで読まなかったような小説に触れる機会が多くなったのは、理想的で良かった点です。

 その大手古本屋は、新しい店長に替わり、半ば喧嘩別れするような形で辞めました。家から徒歩で数分、非常に近く、大好きな本に囲まれる幸せな職場だったのですが。何を言われたのか、思い出すと今でも胃の辺りがムカムカします。要点だけ述べると、アルバイトなんて使い捨てだ。どんどん入れ替えて、安く使えばいいんだ。長くいられるのは迷惑。武藤君みたいに五年もいて、時給が上がっているような人からクビにしていく。そんな感じです。その他にも色々とありましたが、一番決定的だったのはその言葉でした。

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